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「目指すべき老衰」を阻むつらい訴えに対応する(5)呼吸困難
「呼吸困難」と「呼吸不全」は切り分けて対応を

2018/12/07
平方 眞(愛和病院)

 本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。今回から、がん患者さんの呼吸困難への対応法について述べます。

呼吸困難と呼吸不全の違い
 忙しさに流されて更新が滞っていましたが、お伝えしたいことはまだたくさんあるので、連載を再開します。

 呼吸困難の原因はさまざまです。がんによって肺の機能が障害されている場合には、高頻度で呼吸困難が生じます。COPD(慢性閉塞性肺疾患)など、以前から肺の疾患がある場合には、肺にがんがなくても呼吸困難の訴えは当然出てきます。また、特に肺に異常がなくても、がんが進行して体力が落ちてきたときに、息苦しさを訴える人は少なくありません。いくら考えて調べても、呼吸困難の原因が特定できない場合もあります。

 「呼吸困難」と「呼吸不全」の違いは、患者さんが「息が苦しい」「息をするのが大変」と感じる症状が「呼吸困難」であり、肺から十分に酸素を取り込めない状態を指すのが「呼吸不全」です。両者の違いを正しく認識しておくことは重要です。呼吸不全があれば呼吸困難が生じやすいのですが、一方があれば必ず他方もあるという関係ではありません。例えばCOPD があって低酸素状態に慣れている人は、かなりの呼吸不全で低酸素になっていても、呼吸困難は訴えないことがあります。

 逆にがん末期で体力低下が著しい場合などでは、SpO2(動脈血酸素飽和度)が低くなくても、強い呼吸困難を訴えることもあります。呼吸困難は呼吸不全がなくても生じ得るということを認識しておかないと、患者さんから息が苦しいと訴えられたときに「酸素は十分取り込めているから大丈夫」と、つらい症状を放置することになりかねません。両者は違うということは、認識しておく必要があります。

 個人的な印象としては、意識しなくても必要な酸素が取り込めているときは呼吸困難を感じず、頑張らないと必要な酸素が取り込めない状況になったときに息苦しさを感じる、つまり「呼吸困難が生じる」のではないかと感じています。

酸素療法や補液の調整が必要に
 呼吸困難の評価をする際には、以下のような項目を尋ねます。

・どんなときに息が苦しくなるか(例えば、動いたときに苦しくなるのか、じっとしているときも苦しいのかなど)
・痰がからんで苦しいことがあるか
・身の置きどころがないほど息苦しいことがあるか
・息をするのがくたびれると感じるか
・息の通り道が狭いような感じがするか

 これらを具体的に尋ねることで、「呼吸困難の原因」「強さ」「変動」「つらさの程度」などを評価します。さらに身体所見や画像診断、血液検査などで得られる情報を合わせて、どのような治療法が今の状態に一番効果的かを推測しながら治療を進めます。

 治療は、呼吸の負担を軽減して呼吸不全を解消する酸素投与や補液の調節、体位の工夫などと、呼吸困難を軽くする薬物治療を組み合わせて行います。酸素投与は、少ないエネルギー消費で酸素を取り込めるようになるので、呼吸不全や呼吸困難が生じたらまず考える治療です。多くの医療機関には酸素の配管がありますし、在宅酸素療法も昔に比べると簡単に手配できるようになりました。

 酸素は、鼻から吸うためのカヌラか、投与量が多くなったときには口と鼻を覆うマスクで投与します。元気なときには「病人っぽく見える」とか「違和感がある」「癖になると困る」などと嫌がる人がいます。進行して意識が混濁しても、カヌラやマスクを嫌がって外してしまう人は多いですが、これは、顔に何かが付いていることの不快感が大きいのだろうと思います。酸素を吸って呼吸困難が軽くなるメリットと、不快感などのデメリットを比較して、デメリットの方が大きければ、そのときは無理に続けなくていいと判断します。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
著書『看取りの技術』好評販売中

 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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