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「目指すべき老衰」を阻むつらい訴えに対応する(4)全身倦怠感
患者に「眠らせてほしい」と言われたら

2018/01/26
平方 眞(愛和病院)

 本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。前回に続いて、がん患者さんの全身倦怠感への対応法について述べます。

 鎮静作用のある薬には、たくさんの種類があります。内服薬ではロラゼパム(商品名ワイパックス他)やアルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス他)などの抗不安薬、ブロチゾラム(レンドルミン他)などの睡眠導入薬、坐薬ではジアゼパム(ダイアップ他)、注射薬ではミダゾラム(ドルミカム他)やフルニトラゼパム(サイレース他)が代表的です。これらの鎮静作用のある薬を使うまでには、痛みを和らげるための鎮痛薬など身体症状を緩和させる薬を十分に使った上で、それでも楽にならない場合に使用を考えるのが基本的なステップです。

 コミュニケーションが取れる患者さんの場合は、具体的に「身の置きどころがないような感じですか」と問いかけると「そうなんです」とか「眠らせてほしい」と言われることが多く、鎮静作用のある薬を使用する目安になります。息苦しさも、緩和するのが難しく耐え難い状態になりやすい症状の一つです。特に肺に原因があって命が続かなくなる場合には(「呼吸困難は予後が短いことを示す一つのサイン」参照)、非常に強い息苦しさが出やすく、しっかりしたセデーションが必要となることが多くなります。

 体の力が減ってくると、同じ量の薬を使っていても、あるいは意識に影響する薬を使っていなくても、常時うとうとした状態になることもあります。そのような状況で鎮静作用のある薬を使うときには、事前に患者さんや家族に「ずっと眠ってしまうかもしれません」と伝え、意思を確認します。それほどの量を投与していないのに、ずっと眠った状態になってしまう場合は、体の力がかなり低下していると見た方がいいでしょう。

 低下した体力のレベルに神経のレベルを合わせた結果、意識を保てなくなっていると考えます。多くは亡くなる直前の状態で、一概には言えませんが、残された時間は数日以内である場合が多いです。最期の場面でセデーションをかけるというのは、「先に大きく落ちている体の力に、頭の力をそろえてバランスを整える」と考えると、これも老衰に近づける一つの方法と言えると思います。

「薬で眠らされているような感じがする……」
 私が診ている患者さんで、軽いものから深いものまで何らかのセデーションが必要となる患者さんの割合は、感覚として4分の1程度です。ただ、当院は高齢患者さんが比較的多いので、必要となる比率は一般の医療現場の平均と比べると低いかもしれません。高齢者は、ある程度体力も神経や意識の力も若いときよりは低下しており、言葉は悪いですが既に老衰に近づいています。そこにがんが加わると体力の低下は加速しますが、急速な低下になる前に体力の限界を迎えて亡くなります。しかし、若い患者さんの場合は、かなり進行するまで体力が続き、進行するのに伴ってさらに急速に低下するので、体と意識とのバランスが取りにくいのではないでしょうか。また、若いと息苦しさなどのつらい症状が強く出ることも多いので、鎮静薬を使う場面は多くなるように思います。

 鎮静作用のある薬を使った結果、患者さんが意識なく眠っている状態になったとき、家族から「薬で眠らされているような感じがする、何とかできないか」とか「もう一度、話をしたい」と言われることがあります。家族にしてみれば、無理やり眠らされているように感じるのでしょう。そのときに「いや、これは必要な治療です」と退けてしまうと、家族が納得するのは難しく、それが医療への不信や不満につながりかねません。残される家族の納得や満足のためには、可能であれば一旦鎮静薬の量を減らし、意識を戻すように試みることも大切な姿勢だと思います。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
著書『看取りの技術』好評販売中

 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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