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「悪い知らせ」の伝え方(4)
患者の予後に対する認識のズレを解消するには

2017/07/26
平方 眞(愛和病院)

本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。

 前回予後予測の限界とその伝え方について説明しました。予後については、医療者があと1カ月くらいだと見込んでいても患者さんは1年くらいに思っていたといった認識のズレが生じることがあります。ズレをそのままにしておくと、患者さんや家族が後悔する原因になりかねません。どのように思っているかを探りながら、現実に残されているであろう時間と、本人が残っていると思っている時間を擦り合わせ、残りの時間が足りなくなってしまわないように、可能な範囲で修正を試みます。

 具体的には、病気についてどのように認識しているかを聞き、現実との乖離状況を確認します。「話は全部聞いているので、十分に分かっています」と言っている人でも、正確に把握できているとは限りません。よくあるのは、余命について「半年から2年の間」など医師がある程度幅を持たせて話した場合に、「2年」という良い情報だけしか頭に残っていないケースです。実際、当院を紹介受診する患者さんの中にも、前医からの紹介状には「予後は1カ月程度と見込んでいます」と書かれてあるのに2年後を見据えた話をする人がいました。

 こんなケースもありました。先日、ある患者さんに「1年後に元気でいるのは難しいですかね」と聞かれました。私は1カ月後でも難しいと思っていたのですが、一気に修正するのは難しいと考え、その日は「1年先にお元気でいるというのは望めないかなと思います」と答えました。それなのに、希望はなるべく大きく膨らませて持っていたい人だったようで、その人の頭の中ではなぜか「あと1~2年」という認識になってしまいました。「長くても1年は難しい」と言ったつもりが、言い方が悪かったのか「短くても1年」という解釈になっていたのです。

 このように現状を額面通りに受け取るのが難しい患者さんの場合、ショックが少ないようにと幅を持たせて話すと、希望的な方の情報をさらに自分なりに修飾して良いように解釈してしまいますので、説明の仕方に注意する必要があります。

「こうなればいいな」夢話す患者も
 中には、一見、認識がずれたようなことを言っていても、現状を正しく認識できていないわけでも前医の説明が不十分だったわけでもなく、毎日を一歩一歩生きる手段としてそのようなことを話す人もいます。

 膵臓がんで、かなりギリギリの状態で入院した60歳代の女性患者さんがいました。かなり進行した状態でがんが見つかり、化学療法を3クールやった後、さらに強いレジメンを行ったら一気に具合が悪くなり、これ以上の化学療法は無理だということで、息子さんの住む長野県にある当院に、遠方の病院から転院してきた人です。

 当初、状態が悪くて転院できないかもしれないという話もあったほどで、前医の付き添いで無事転院できたものの、残された時間はそれほど長くありません。その患者さんが入院数日後、「長野が気に入ったから、この病院で体調を整えて、良くなれば息子のところで少し世話になって、その後はワンルームマンションを借りて住む」といった夢のような話を看護師にしたそうです。

 その話を聞いて、ここまで現実と本人の認識がかけ離れていると修正がきかないかもしれないと思いつつも、「病気についてどう思っておられますか」と尋ねてみました。すると、本人はあっけらかんと「今日生きているだけでも儲けものだと思っている」と言うのです。聞いた話とのズレに驚きつつ、「看護師から、『元気になって1 人暮らしをしたいようなことを言っていた』と聞いたのですが」と言うと、「そんなのは夢のまた夢」と話してくれました。自分の状態を分かっていながら、「こうなればいいな」という夢を語っていたのです。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
著書『看取りの技術』好評販売中

 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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