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意思の分からない患者と「理解力不足」の家族

2017/10/02
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 前回、A病院の退院支援を担っている武田メディカルソーシャルワーカー(MSW)と藤田室長の間に少し溝ができてしまったケースを紹介しました。きっかけは、地域連携室が退院支援していた80歳女性の山口さんとその息子さんが、退院した当日に「家での介護が難しい」という理由で、A病院の外来を受診したこと。外来師長と担当医から「どんな退院支援をしたんだ!」に怒られた藤田室長は、その日のうちに武田MSWや病棟の担当看護師と振り返りのカンファレンスを行いましたが、逆効果になってしまったのです。

 そこで、翌日もう一度、藤田室長は武田MSWと二人で話をする時間をとりました。

武田MSW「私のために何度も時間取らせてしまってすみません」
藤田室長「どうしてすぐに謝るかなあ。別に悪いことしてないじゃない?あなたが一生懸命山口さんの息子さんの話を聞いていたのは知っているし。だからこそ、もっといい方向に行くにはどうしたらいいかなって考えたかったのよ」
武田MSW「でも、私のせいで室長が怒られましたよね」
藤田室長「そんなこと気にしていたの!?管理職なんて怒られるのが仕事みたいなもんだから、あんなこと気にしてたらやってられないよ。私が大事にしたいのは、怒られたことより、その中身。本当に怒られるような支援内容だったのかも含めて冷静に考えたいと思ったのよ。退院支援なんて、正解があるものだとは思っていないし、いつも『これで良かったのか』と迷いながら支援していると思うのよ。だからこそ、ちょっとでも良くしたいじゃない?」
武田MSW「それは、もちろんです」
藤田室長「でしょう。だからね、武田さんから『病院の方針に沿ってやってるのに間違ってますか?』って聞かれたのはちょっとショックだった……」
武田MSW「すみません」

藤田室長「今回、山口さんの息子さんが退院直後に病院に戻ってきて外来受診して、開口一番に言った言葉を知ってる?」
武田MSW「知りません」
藤田室長「『相談できるところがここしかない』って。『今日はケアマネさんも休みだし、困った時に頼れるのはここだけだ』って。その話を聞いてね、正直嬉しかったよ。この病院があったから、息子さんは自分の車でお母さんと一緒に来られたんでしょう。息子さんは『どうしよう。武田さんのいる病院なら親身になって相談に乗ってくれるだろう』って思ったわけじゃない?それは地域に根差した病院の大事な役割の一つだと思うよ」
武田MSW「そうですか。でも、外来の先生も困ってたって……」
藤田室長「確かに困ったのかもしれないけど、そんな患者さんやご家族の困り事について一緒に悩んで、真剣に話を聴いてくれる医師がいることも分かって、息子さんはほっとしたみたいよ。今朝、担当のケアマネさんから電話があってね、息子さんがデイサービスに来て、今回の件について話してたみたい」
武田MSW「そうなんですか……」
藤田室長「結果的には、うちの病院の株は上がったわけ(笑)。だから、身内に怒られたってそんなことはどうでもいいの。ただね、同じことは繰り返したくはないよね」
武田MSW「はい、もちろんです」

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

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