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不安になると救急外来にやってくる認知症患者

2017/03/29
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 前回、92歳で認知症の森田愛子さん(仮名)が、かかりつけの診療所が休みの時に体の不調を感じ、A病院の救急外来を受診してきた出来事を紹介しました。「50万円持ってきたから入院させてくれ」と大騒ぎしたものの、結局、入院の必要性はないという判断となり、病床コントロールに関わっているナースと武田MSW(仮名)の連携により、何とか自宅に帰ったのですが、その後、どうなったのでしょう。今回は、森田さんと、対応したスタッフたちのその後のお話です。

 単に自宅に帰すだけでは、森田さんの問題は解決しません。今後は、かかりつけの診療所が休みの時に森田さんが体の不調を感じても困らないよう、地域のサポート体制を作る必要がある、そして今後認知症の高齢者が増加する中、病院としても森田さんのような方が救急外来に来られた時に誰と連携してどのように対応すべきか、考えていく必要があります。

 ただ、実際には、こうした取り組みを進めるのはなかなか難しいようです。

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 森田さんが自宅に戻った後、在宅側の対応窓口としてまず頼りになるのは、ケアマネジャーです。病院のメディカルソーシャルワーカー(MSW)である武田さんは 、森田さんの担当ケアマネ宮地さん(仮名)に、今回の受診騒動について報告した上で今後の支援について相談しようとしましたが、その日はお休みでした。そこで電話対応してくれた居宅介護支援事業所の事務の方に病院での出来事を伝え、今後のサービス内容を在宅の関係者で検討してもらうようにお願いしました。

 ただ、困ったのはケアマネ宮地さんです。電話対応したスタッフからの申し送りを聞いても詳しい状況がわかりません。「『サービス担当者会議を開いてほしい』と言われたけれど、何のためにするのだろう。要支援の人にそこまで関わっている時間はないのに……」と思いながらも、宮地さんは、とりあえず森田さんのお宅を訪ねてみました。

 森田さんに話を聞いても、A病院を受診したことを忘れていて、話が通じません。受診後に迎えに来てくれた同じアパートに住む秋田さんに話を聞いて、病院で大騒ぎになった一連の出来事が少し分かってきました。しかし、今後のサポート体制について相談しようにも、唯一のご家族である弟さんは旅行中で、その弟さんと連絡を取ろうとすれば、森田さんは怒り出す始末でどうしようもなく……。

 結局、一連の受診騒動について担当のヘルパーさんに情報共有しただけで、宮地さんのその日の対応は終わってしまいました。森田さんの要介護度は「要支援」であるため、週1回の生活支援サービスのプランにも変更の余地はなく、そのまま継続となりました。

かかりつけ医が休みの日に再び受診
 病院側のその後の対応はどうでしょうか。森田さんが帰った後、救急外来は慌ただしくなり、病棟側も次の入院患者さんの受け入れ準備に追われてしまいました。地域で暮らす認知症の森田さんが、自分の身体に異変を感じて病院の外来にやってきたという出来事は、あの日、森田さんに対応した関係者にとっては強く印象に残る出来事ではあったものの、その事例を振り返る時間や機会を持つ間もないまま、1カ月が経過していました。

 そんなある日、また森田さんが外来を受診したのです。前回受診した日からちょうど1カ月後の木曜日、かかりつけクリニックの休診日です。

 さすがに、今回受診した時には外来スタッフも覚えていて、「あの森田さんがまた来た!」という反応でした。そして外来ナースは、1カ月前の出来事やカルテに書かれていない「全財産持ってきて入院したいと言って譲らなかった」といった情報や、「その様子をみた主治医が、『まずは入院しましょう』と説明していたが、結局看護部とMSWで話して家に帰す方向にした」といった細かな事情を、その日の外来担当医に伝えたのです。するとその話を聞いた医師は何を勘違いしたのでしょうか……。「じゃあ、この人は診察をお断りすればいいんだね」と外来ナースに言い出したのです。

 困った外来ナースは、すぐに外来師長に相談しに行きました。「さすがに、診察拒否は困りますよね。診察だけでもしてもらわないと……。師長さん、先生に説明してくださいよ!」。外来師長も、外来担当の医師にどう説明すればよいのか悩んでしまいました。心の中で「だから、あの時とりあえず入院させておけばこんな面倒なことにならなかったのに……」と思いながら。

 外来担当医の言い分はこうです。

医師「ここの病院では、診察した医師が『入院』と判断しても、ナースが必要ないって決めるんでしょ。認知症の患者さんは入院しても治療にならないからって」
外来師長「いえ、そういうわけではなくて。森田さんの場合は、入院するより自宅で様子を見た方が良いんじゃないかということになりまして……」
医師「でも電子カルテには、そんな風に書いてるよ。最初は医師が入院の指示を出したけど、看護部とMSWが自宅に帰す方向にしたって」
外来師長「確かに、誤解を招いてしまうような経緯もありましたが、最終的には、外来担当医も『検査データの結果からも入院の必要性はない』という判断をされました」
医師「じゃあ、今回はどうするの?検査データが悪くなっていたら入院させてもいいの?後になって面倒なことを色々言ってこない?」
外来師長「もちろん、医学的に入院が必要だと先生が判断されたら、それは医師の指示ですからそれに従います……」

 こんなやりとりが、忙しい救急外来の脇で交わされた後、検査データを見てみると……。その結果は前回と比較して大きな変化はなく、今回も自宅で経過観察すればよいということになりました。前回同様、かかりつけ医が休みだった中、不安で来てしまったようです。

 外来師長は、「今後も同様のことが繰り返されないように、しっかりと在宅での体制を整えてほしい」と武田MSWに電話で強く伝えました。

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

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