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病棟ナースが患者宅に出向いて分かったこと

2016/10/05
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 前回の連載では、予定していた施設入所がダメになるというピンチがチャンスに転じ、無事お家に帰ることができた山口さん(仮名、80歳男性)を紹介しました。山口さんは退院後、一人暮らしの自宅できちんと生活できているのでしょうか。今回はその後の自宅でのお話です。

 山口さんが地域包括ケア病棟から退院してちょうど1週間が経った頃、週1回病棟で開催される退院支援カンファレンスの場では、自然と山口さんの話題になりました。スタッフたちは皆、地域包括ケア病棟の入院日数制限を意識するあまり、こちらの都合で山口さんを自宅に帰してしまったのではないかと気になっている様子です。

北岡師長:山口さん、大丈夫かなあ。一昨日外来に来てたみたいよ。
武田MSW:またシルバーカーで転倒したみたいですよ。今度は大したことなかったみたいですけど。
担当PT:リハビリ室にも来てたみたいですね。「ケアマネを首にした!」とか言ってたみたいですよ。
北岡師長:ええ~?? 大丈夫なんやろうか。外来の師長に様子聞いてみようかなあ。

 そんな噂をしていた日の帰り道、北岡師長が勤務帰りに近くのスーパーで買い物をしていると、どこかで聞いたことのある声が聞こえてきます。そうです。今日のカンファレンスでの噂話が聞こえたかのように、山口さんがいつものお気に入りのシルバーカーに荷物をいっぱい載せて、ご近所さんと賑やかに話をしています。北岡師長は思わず駆け寄って声をかけました。

北岡師長:山口さん元気でしたか?今日も皆で心配していたんですよ!
山口さん:え?あんた誰?衣装が変わったら分からんで!
北岡師長:白衣着てないと分かりませんかね。残念や。
山口さん:そうよ。それにちっとも元気やない! あんたとこは入院させてくれんき!


 投げ捨てるように言い残して、山口さんはレジの方に行ってしまいました。強い口調で話していますが、顔つきは退院時よりもさらに痩せた気がします。服装も、何日も洗濯をしていないような汚れたシャツを着ていたのが気になります。 残暑厳しい中、スーパーから山口さんの自宅までの道のりを考えると、また脱水起こすのではないか、転倒しないか、とついつい悪い方に考えてしまいます。

 翌日、病院に出勤した北岡師長は早速地域連携室に足を運び、メディカルソーシャルワーカーの武田さんに昨日の山口さんの様子を伝えました。そして、武田MSWから山口さんのケアプランを見せてもらいながら、一度山口さんの家での様子を確認するために、訪問看護師の訪問時間に合わせて自分も訪問してよいかと相談してみました。

 スーパーでの山口さんの話からは、担当の訪問看護師さんだけは信頼しているようだったので、あの頑固な山口さんの信頼を得る「看護」とはどのようなものなのか、一度見てみたいと思っていたのです。そしてケアプランを見ると、ちょうど本日午前中に訪問看護師の訪問予定が入っています。早速その看護師が勤めるステーションに電話を入れ、北岡師長は山口さんの訪問に同行することにしました。

退院後一週間で部屋中にゴミが散乱
 病棟の業務を大急ぎで終わらせ、「1時間半で戻ってくるから」とリーダーに病棟をお願いして、北岡師長は車で山口さんの自宅に向かいます。地域連携室のスタッフが書いてくれた地図のおかげで迷うこともなく、5分ほどで山口さんの自宅に到着しました。

 改装したての自宅の駐車場脇には、まだ建築資材の残りが並んでいます。節約家の山口さんが再利用しようと大事にとっているのだろうか、と思いながら入口に向かいます。駐車場からそのままシルバーカーで乗り入れできるように工夫された玄関近くで山口さんの声が聞こえてきます。訪問看護師さんに何か指示を出している様子です。

北岡師長:山口さんこんにちは~!今日は訪問看護師さんも来てるとお伺いしたので様子を見に来ました。
山口さん:おお! 婦長さん来てくれたか…。この人は病院でお世話になってねえ…(と涙ぐむ)
訪問看護師:そうですか…(と笑顔で家の掃除をしている)
山口さん:この人はこうやってねえ、誰に頼まれたわけでもないのにこうしてくれてねえ。
北岡師長:そうなんですか。助かりますねえ。ところでケアマネジャーの片岡さんの書いたケアプランはどこですか。
山口さん:(ホワイトボードを出して)ここにいろいろ書いていったけど、知らん!こんなものに書いてもすぐ消えるし、あんな奴は首や!
北岡師長:あらあら、そんなことまた言うて……。片岡さんも心配してましたよ。
山口さん:心配か何か知らんけど、何をするわけでもなく、あそこから顔だけ出していろいろ言うても知るか!

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

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