日経メディカルAナーシングのロゴ画像

新人が「ネイルができないから辞めたい」

2016/07/20
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 7月の梅雨空はただでさえうっとうしい季節。新人ナースにとっては、入職後3カ月が過ぎて、周囲の評価も気になり、同期と比べてみたり、できない自分と向き合ってみたり。悩ましい時期ですね。私が急性期病院の看護部長をしていた頃も、この時期になると様々な悩み相談が舞い込んできました。

 ある日、「あきれ果てた」といった表情で北岡師長(仮名)が私の部屋に入ってきました。開口一番「ちょっと聞いてくださいよ。うちの新人の山田さん(仮名)が辞めたいんですって、その理由が聞いて呆れるんですよ!ネイルのおしゃれができないからだって言うんですよ!どう思います?」とすごい剣幕です。

 「なるほど~。おしゃれしたい時期だもんね~。最近可愛いネイルアート多いし、付け爪ではだめなのかなあ」と私が返事してしまったものですから、北岡師長は怒り心頭。部長は全く私の気持ちを分かっていないという表情で話を続けます。

 「そういう問題じゃないんですよ!そもそもネイルができないなんて、看護学校にいる頃から分かってることで、今さらそんなことを理由に出してくること自体がふざけているでしょう。山田さんに『じゃあなんで看護師になったのよ!』って言ったら、『自分は元々看護師に向いていないと思う』とか言い出して。そのうち、患者さんと話をするのも苦手だとか、看護学校時代から向いていないと思ってたけど言えなかったとか、いろいろ言い出すんですよ…。まったく!!あの子は患者さんの細かな変化にもよく気が付くし、うちの病棟では一番最初に独り立ちできるかなって期待してたのに…」。

 北岡師長から、これまでいかに山田さんを大切に育て、期待していたのかという話をひとしきり聴いた後、まずは私と山田さんが面接をするということで話は落ち着きました。

 早速その日の勤務終了後、夜8時近くになって山田さんはやってきました。

山田「すみません、遅くなってしまって…」
 「いえいえ、私は仕事はいくらでもあるから。それより山田さん大丈夫?日を改めてもいいのよ」
山田「いえ、早くすっきりしたいので…」
 「そう…じゃあどうぞ座って」 
 
 私の部屋のソファに座ったものの、山田さんはずっとうつむいて何も話そうとしません。「どうしようかなあ。こちらから声かけようかなあ」と悩み始めた頃にやっと重い口を開いてくれました。

山田「師長さんから聞いていると思うんですけど、私辞めたいんです」
「師長さんとはどんな話をしたの?」
山田「いろいろと話したんですけど…。私がネイルのおしゃれもしたいしって言ったら急に怒り出して」
「なるほど。ネイルの話をしたらそれまでとちょっと違う雰囲気になったと」
山田「そうなんです…。それまでは、このまま夜勤が始まったら怖いという話とか、学生の頃の嫌な思い出とかも聞いてくれてたんですけど」
「優しい師長さんを怒らせてしまったことの方が辛い感じ?」
山田「そうですね…。でもやっぱり、ネイルとかいろいろおしゃれしたいのも本当の気持ちです。もちろんナースにとって爪のおしゃれなんて厳禁なのは分かってるんですけど…」
「ナースのお仕事のためには我慢しなきゃと思っていても、いろいろとおしゃれしたい気持ちも正直あって、そのあたりを師長さんには分かってもらいたいと」
山田「そうなんです」
「一つ提案してもいい?」
山田「はい…なんですか?」
「付け爪じゃ、だめかなあ?最近、すぐ付けられる便利なやつがいろいろ売っているでしょう」
山田(ぷっと吹き出し)「部長、本気でそんなこと考えてくれていたんですね」
「いたってまじめに、本気で考えたんだけどね」(笑)

 ひとしきり二人で大笑いしたあと、山田さんは笑いすぎて流れた涙を拭きながら…。

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

この記事を読んでいる人におすすめ