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災害時に備えて「受援力」を磨こう

2016/07/11
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 今回は、災害看護の視点から、自分ごととして取り組むヒントをお伝えします。一般的に災害への備えといえば、「自助」(個人での備え)として非常時の持ち出し袋の準備や家の中の危険度チェック、「共助」として、地域や病院での災害マップ作りやマニュアル作り、避難訓練の実施、「公助」としては、避難所の指定や整備といったことを思い浮かべるでしょう。最近では、自然災害発生時における公助の限界から、とくに自助、共助の重要性が叫ばれています。

 ただ、これらの備えは、本当に意味あるものになっているでしょうか。

 例えば病院では、定期的に防災訓練を実施していると思いますが、震災を想定した緻密なシナリオを作ることに注力しすぎて、シナリオ通りに訓練することが重視されてしまうという反省をよく見聞きします。それは備えることが目的化してしまっているのです。手段の目的化と呼ばれるものですが、真面目な看護師さんほどこの傾向が強いように感じます。

「自分の病院が踏み荒らされた」と感じる被災者側
 形式的な備えではなく、本当に役に立つ備えをするために、医療現場の方々にぜひ身につけていただきたいのが、「受援力」です。

 「受援力」という言葉は、地域の防災活動で注目されている考え方です。もともと、ボランティアの援助を受け入れる能力のことを指していましたが、そこから発展して、最近では「助けを求め、助けを受ける心構えやスキル」1)を意味します。

 過去の災害では、ボランティア活動について理解が進んでいない被災者側が、災害現場に駆けつけてくるボランティアの方々をうまく受け入れられないケースが課題になりました。何とかして彼らの善意をうまく活かす方法はないかという考えから「受援力」という言葉は生まれ、政府も平時から「受援力」を高めるための広報活動をしています。(政府広報オンライン:防災ボランティア活動を受け入れる、地域の “受援力” を高めよう 

 過去の災害医療の現場でも同様の反省がありました。「公助」として、DMAT(災害派遣医療チーム)を初めとする災害医療に関するシステムはこの10年で大きく進歩した一方で、災害医療の現場では、そこで働く医療スタッフとDMATとの連携がうまくかみ合わないといった問題が起こりました。

 そこには、支援の受け手側と、支援を行う側両方の課題があります。

 従来は、支援する側への課題が指摘されてきました。例えば、外部の人間でもすぐに対応しやすいだろうとの考えから、医療ボランティアに、救急の現場ではなく無難な慢性期病棟などのケアを任せたところ、「こんなことをするために来たんじゃない」、「せっかく来たんだからドクターヘリに乗りたい」といった発言が上がりました。

 確かにそれは、災害医療に関わるスタッフの心の中に大なり小なり抱いている心情だったからなのかもしれません。ただこうした心ない人の言動に対する議論が進んだおかげで、今は支援者に対しては、支援を受け入れる側への配慮を重視した教育が行われています。

 一方新たな課題になっているのが、ボランティアを受け入れる側の病院の意識です。発災地に近い医療機関で働く現場スタッフは、自らも被災者です。平時とは違った感情を抱えて自らの心に鞭打って働いています。そこに「支援者」という名の下で入ってくる外部の人たちから、「まだこんなマニュアルがあったんだ」といった発言があった場合、たとえそれが純粋な驚きから出た一言であったとしても、被災病院の職員は自分たちの取組みを否定された心境になります。「自分たちの病院が土足で踏み荒らされた」と表現した人もいました。

 病院という組織の中で働く人たちの多くは、ローカルルールの枠の中で業務をこなすことは得意ですが、外部の人たちを受け入れることに慣れていません。また、医療の現場で働く人たちは皆真面目で、自分たちで何とかすることが美徳のように教育されています。そんな人たちが、突然災害時だからという理由で支援を受けなさいといってもなかなか難しいのではないでしょうか。

 だからこそ、日ごろから医療職が受援力を育むことが重要なのです。

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

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