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看護現場にある“ダイヤ”に気づいていますか?

2016/05/25
久保田 聰美(高陵病院 教育顧問)

 かつて、高知県高知市にある急性期病院で看護部長をしていた頃のこと。某看護系雑誌の仕事で、心理学者で当時文化庁長官だった河合隼雄氏(故人)にインタビューさせていただいたことがありました。対談中、河合先生が語られた言葉で印象的だったのが、「ごみ箱の中のダイヤ」でした。

 それは、河合先生に、自分自身と看護スタッフとの関わりについての、こんなエピソードを話していたときに出てきた言葉でした。

 外来患者さんからの苦情に対応するため、私が、外来看護師Aさんから詳細な話を聞いていたときのことです。Aさんがふと私の顔を見て、「久保田部長も大変ですよね。いつもいつもこんな話ばかり聞かされて」というのです。「ありがとう。そういう気遣いをしてもらえるだけで救われた気持ちがする」と答えると、「部長の仕事を増やしてばかりですね、私…」とAさん。それまで、苦情を言う患者さんの方が理不尽だというトーンで話していたのに、自分の言動にも問題があったと自ら気づいてくれたのです。

 その話を聞いた河合先生が、「ゴミ箱の中のダイヤがあるからね」とおっしゃいました。河合先生自身のご経験でも、いつも愚痴をこぼしていかれる患者さんがいて、ある日その方から「先生をごみ箱代わりにして申しわけない」と言われ、「いやあ、ごみ拾いしておったら、時々ダイヤが混じっておるので、この商売やめられません」と答えたそうです。

 つまり、人がごみだと思っている中に実はダイヤモンドが入っている。それが見えるから仕事をしていると。確かに大変な仕事だけれど、ダイヤモンドの輝きに魅せられて続けられる…。その言葉にはとても共感できました。

ダイヤが見えないナースたち
 一方で河合先生は、そのダイヤが見えない(気づけない)人がいることが大問題だとも言っていました。確かにそうかもしれません。

 私自身、臨床現場では辞めたい看護師の話を聞く機会がたくさんありました。ワークライフバランスという言葉は今や「WLB」という略語になるほど世の中に定着してきましたが、そのWLBが取れないことを表面的な退職理由にして(もちろんそれも一因ではあるのでしょうか)、根っこの理由は「ダイヤが見えていない」ことのように感じました。

 このダイヤを見えなくしている原因には、厳しい勤務形態や各種委員会活動、ノルマの看護研究、そしてそれにかかわる人間関係など、数え上げればきりがありません。

 今の看護の仕事を「ごみ箱」と例えてはお叱りを受けるかもしれませんが、看護職を取り巻く環境は急激に変化しています。国の制度自体が大きく変化し、病床再編が進んで病院から在宅への流れが加速する中、看護職の働き方も変化していくでしょう。今後は、急性期の医療現場から回復期、慢性期そして在宅医療、公衆衛生、保健福祉の領域へと、看護師の量的な移動が起こることが予想されます。

 医療費削減の政策の下、経済的には、看護職はすでに「高い労働力」だとされているのです。看護師の人件費が、病院経営を圧迫すると考えられかねない状況の中、今後は「看護師が組織にいかに貢献できるのか」という具体的な成果が求められます。自分たちが高いスキルを持ち、質の高い看護実践を行っていると自負していたとしても、組織への貢献を可視化しなければ、周囲には伝わりません。そんな中、看護職は、何を思い、どんな道を選んでいくのでしょうか。

著者プロフィール

久保田聰美◎くぼたさとみ氏。1986年高知女子大学家政学部看護学科卒。虎ノ門病院、高知県総合保健協会を経て、2004年近森病院に入職。07〜13年同病院看護部長、15年ぺーす代表取締役を経て、現在、高陵病院教育顧問、高知県立大大学院看護学研究科災害看護グローバルリーダー養成プログラム(DNGL)特別研究員。看護学博士。

連載の紹介

はちきんナースの「看護のダイヤを探そう!」
保健師として13年間働いた後、高知県内屈指の急性期病院である近森病院に入職。外来パート勤務を経て病棟師長、看護部長を務め、大学教員、訪問看護ステーション所長など様々な看護のフィールドも経験した筆者が、長年の経験を踏まえて看護の今、そして未来について語ります。看護現場のキラリと光るエピソードを一緒に探しましょう。

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