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高齢者肺炎で入院や抗菌薬治療は必要か(2)
「高齢者肺炎に抗菌薬」でQOLが低下?

2015/12/29
福家 良太(北摂総合病院呼吸器内科、感染対策室)

 前回の続きで、今回は高齢の肺炎患者に対する入院・抗菌薬治療が実臨床において有効であるのかについて解説します。前回に述べた通り、高齢者肺炎は、「感染症」+「基礎疾患(およびその増悪)」から成ります。では、高齢者肺炎の死亡増加という現象は、果たして感染症としての肺炎に抗菌薬が効かないことの表れなのでしょうか? よく「高齢者は抗菌薬治療が効きにくい」なんてことを言う人もいますが、本当でしょうか?

CASCADE studyが示した抗菌薬治療の現実
 高齢者肺炎に抗菌薬治療を行うか行わないかで、予後はどう違うのでしょう。その一つの答えとなる可能性があるのがGivensらのCASCADE study1)です。この報告は、アメリカの22の介護施設において、認知症が進行した高齢の肺炎患者225例の観察研究を行ったものです。

 この研究では患者背景に特徴があり、「do-not-hospitalized order(DNH:入院しない意思表示) 114(50.7%)」とあります。延命治療拒否の意思表示であるDNAR(do not attempt resuscitate)は日本でも知られていますが、入院拒否のDNHはなじみがないでしょう。このアメリカの研究では、あらかじめDNHの意思表示をしている患者が約半数に上ります。これはもちろん、医療保険制度など社会的背景の日米での違いからくるものです。

 さて、この研究では、抗菌薬の投与は死亡リスクを80%減少させ、DNHの意思表示は死亡リスクを2.21倍に有意に増加させたと報告されています。確かに抗菌薬は死亡リスクを改善させるほど有効であるとの結果であり、高齢者の肺炎であっても決して効かないわけではありません。

 ただし、この研究論文のタイトルは「進行した認知症患者における肺炎治療後の生存と快適さ」であり、生存のみに重きを置いているわけではありません。この研究では、人生の最後(end-of-life)を快適に過ごせたかについて評価するQOLのスケールを用いており、抗菌薬治療を受けなかった患者に比べて抗菌薬治療を受けた患者はQOLが低く、入院した患者ではさらにQOLが低下していたと報告しています。この結果は、救命・延命という点では抗菌薬治療や入院は有用かもしれないものの、それと引き換えに著しいQOLの低下を伴っており、抗菌薬も入院も患者への侵襲となっていることを示しています。

 実際、誤嚥やDNHの意思表示のないことは侵襲的治療を受けることになるリスクに関連した因子であることが報告されています2)。また、van der Steenら3)は、アメリカとオランダの介護施設において認知症を伴う下気道感染症932例の前向き観察研究を行い、行動抑制はADLを低下させ、経口での抗菌薬治療は3カ月死亡率を改善させないと報告しています。すべての医療・介護従事者は、入院や治療自体も患者への侵襲であることを認識する必要があります。

CASCADE studyとは反対の意見も
 逆に、抗菌薬治療の差し控えは認知症を進行させる、重症肺炎を引き起こす、食物・水分の経口摂取量が減る、脱水が進行するといった弊害を招くことを指摘する報告もあります4)。また、肺炎による死亡の直前は認知症患者において著しい苦痛を伴い、死が差し迫っている状況での抗菌薬の使用は、これらの不快さを減じるかもしれないとする報告5)もあります。必ずしも、抗菌薬を投与しないことが、より良い余生を過ごすことにつながるとは限りません。

 また、病院での介入においては、その患者の終末期で、呼吸困難や疼痛といった苦痛の緩和を目的として、オピオイドをはじめとする各種薬剤の投与も(病院によっては)可能であるという一面もあります6)。抗菌薬治療を行わないことは、症状面での苦痛を増大させる可能性がありますが、死までの時間は短く7)、ここに入院による緩和ケアの意義があるかもしれません。

 高齢者肺炎において、抗菌薬を使うべきか、入院すべきかどうかについては個々の患者ごとに熟慮も必要であり、そこには社会的背景や個人の思想・宗教も絡んでくるため、今後も答えはなかなか出ない問題だと言えます。「抗菌薬の選択は予後に影響を与えない」は決して「抗菌薬の投与の有無は予後に影響を与えない」という意味ではないことに注意が必要であり、「抗菌薬を投与しても無駄」という風潮を危険視する意見もあります8)

 以上をまとめると、抗菌薬治療は高齢者の肺炎であっても有効であり、救命・延命効果と急性期の症状緩和効果があるものの、長期のQOLを悪化させる要因になり、入院治療はさらに長期QOLを悪化させます。その一方で、終末期の緩和ケアであれば、苦痛緩和目的での抗菌薬治療も許容されるべきかもしれません(ただし、抗菌薬投与による副作用で死亡率が悪化することも知られており、無目的かつ漫然とした使用は避けるべきです)。その上で、オピオイドをはじめとする症状緩和も併用されるべきでしょう。

著者プロフィール

ふけ りょうた氏●大阪医科大学卒業後、2009年から北摂総合病院卒後臨床研修医。同病院呼吸器内科、感染対策室を経て、16年から東北医科薬科大学病院感染症内科・感染制御部に所属。日本版重症敗血症診療ガイドライン2016作成メンバー。ブログ「EARLの医学ノート」で医学情報を発信中。

連載の紹介

福家良太の「ベッドサイドで役立つエビデンス」
看護ケアを行う上で、現場にありがちな勘違いや落とし穴など、ベッドサイドですぐに活かせるエビデンスをまとめて発信していきます。日々のケアの見直しや新たな取り組みに活かしていただければと思います。

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