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便器より汚い?聴診器の汚染率と消毒のお話

2015/10/13
福家 良太(北摂総合病院呼吸器内科、感染対策室)

 聴診器が菌汚染されることは医療従事者なら誰もが認識していると思いますが、「じゃあ、どのくらい汚いのか」というところまでは考えが及んでおらず、「そこまで院内感染の原因にはなるまい」と思っている医療従事者は多いのではないでしょうか? 私はICUでは原則として聴診器は持ち歩かず、できるだけ個々の患者専用のものを使用し、一般病棟ではアルコール綿で消毒して使っています(もちろん、手指衛生とセットでやらなければ無意味です)。

 今回は、聴診器の感染対策について、これまでのエビデンスデータをお示しします。聴診を指導する際は、ぜひ聴診器の消毒についても指導してください。

聴診器を首にかけてはいけない
 聴診器は医療従事者が手で触り、かつ患者の体に当てる医療器具であり、消毒もあまりされないことから菌汚染リスクは高く、手自体の汚染度に匹敵するとも報告されています1)。患者の体表に当てる膜部は、特に菌汚染が生じやすいです。一般的に、微生物は凹凸面よりも平滑面上の方が長く生存しうることが知られています。

 聴診器表面に付着した細菌は、菌数を増やしながら細胞外多糖(EPS)を産生します。これにより、菌付着がより強固になるとともに、新たな菌付着を招きます。また、EPSはバリアーや各種物質の運搬経路の役目も果たし、いわゆるバイオフィルムを形成します。バイオフィルムが形成されると、環境変化や化学物質からの抵抗性が増します。このような菌として、ブドウ球菌や緑膿菌は特に注意が必要とされています。

 感染症患者と接触する以上、本来なら聴診器は持ち歩くべきではなく、原則として個々の患者専用とするのが望ましい(血圧計や体温計も)のですが、現実的には持ち歩きしないのは難しく、聴診器の消毒と手指衛生を怠れば院内感染は容易に成立してしまうことを認識しなければなりません。なお、ICUや血液内科病棟においては、聴診器を個々の患者専用とすることは絶対条件とすべきです。

 首に聴診器をかける人は非常に多いですが、これは感染対策上、行うべきではありません(病院機能評価の際に見つかると評価員に注意されることもあります)。首は腋窩同様にグラム陽性菌のリザーバーの一つであり、聴診器汚染の原因となり得ます。白衣のポケットに入れる方が無難ではありますが、白衣のポケットも手を入れる場所であり埃もたまるため、汚染されているリスクは高いと考えるべきです。

聴診器はどれだけ汚染されている?
 では、実際に聴診器はどれくらい汚染されているのでしょうか。聴診器の汚染率を調査した研究は多数あり、結果は27.5%から100%まで報告によって幅があります。これらの報告データをまとめると、だいたいの頻度の感覚として「聴診器が10本あれば、7本に菌汚染があり、5本にCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が、3本に黄色ブドウ球菌が、1本にMRSAが付着している」ということになります。ちょうど全部奇数なので「1、3、5、7の法則」として、当院ではICTニュースで周知して消毒を推奨しています。

 職種別で見ると、聴診器汚染率は看護師より医師の方が高いという報告が複数あります。また、医学生・研修医・レジデントの聴診器汚染率は9割前後と高く2)、医師が看護師より手指衛生遵守率がかなり低いことを考慮すれば、聴診器消毒のみならず手指衛生の関与も考えられます。

 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の保菌または感染者49例の観察研究3)によると、33例(67%)の診察・ケアに用いた手袋・ガウン・聴診器の少なくとも1つからVREが検出されました。また、手袋の汚染率は63%、ガウンは37%、聴診器は31%で、3つすべてからVREを検出したのは24%でした(多くは人工肛門形成術後または回腸造瘻術後の患者)。一方で、手袋の汚染がなく聴診器とガウンが汚染されていたのは1例のみであり、またアルコール消毒後の聴診器ではVRE検出例は1例のみでした。

著者プロフィール

ふけ りょうた氏●大阪医科大学卒業後、2009年から北摂総合病院卒後臨床研修医。同病院呼吸器内科、感染対策室を経て、16年から東北医科薬科大学病院感染症内科・感染制御部に所属。日本版重症敗血症診療ガイドライン2016作成メンバー。ブログ「EARLの医学ノート」で医学情報を発信中。

連載の紹介

福家良太の「ベッドサイドで役立つエビデンス」
看護ケアを行う上で、現場にありがちな勘違いや落とし穴など、ベッドサイドですぐに活かせるエビデンスをまとめて発信していきます。日々のケアの見直しや新たな取り組みに活かしていただければと思います。

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