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豊かな最期を過ごしてもらうための試行錯誤

2015/04/24
前田和哉(ケアプロ訪問看護ステーション東京)

 癌末期の高齢の利用者様(Bさん)のお宅での話です。

 「1分1秒でも長く、お母さんと一緒にいたい」

 ご家族(娘さん)は強い想いを持って、自宅で一度急変したお母さまの介護を必死に続けていました。Bさんの意識は遠のきつつあり、姿勢によってイビキのような苦しそうな呼吸が時折、出現します。私たちがBさんに関わり始めたとき、既に意識低下に伴う舌根沈下が始まっていました。

 「母の苦しそうな呼吸を聞きながら同じ部屋で眠っていると、辛くて仕方ない」

 「でも、息をしているか心配で、ほかの部屋では眠りたくない……」

 娘さんの焦りは強くなり、疲労はかさんでいくように見えました。Bさんは、長く使い続けてきたのであろう大きな枕に頭を乗せて寝ています。ですが、舌根沈下を解消するためには、枕がない方が良いのは明らか。常に完全側臥位をとっておく、背中の下にタオルなどを入れて頸部後屈を保つ等、舌根沈下の予防策はいくつか考えられました。

 けれど、ここは病院ではなく、在宅。医学的な「ベスト」と、ご家族にとっての「ベスト」が一致しないこともあります。完全側臥位をとれば、褥瘡をつくらないように、ご家族は1日に何度も体位変換を頑張ってくれるでしょう。ですがそうなれば、娘さんはさらに疲弊し、共倒れになってしまうかもしれません。

 また、枕を外したり、頸部後屈などの不自然な体位でBさんを眠らせてしまうのは、住み慣れた自宅においてはとても不自然に映ります。結果として、ご家族の満足度を大きく下げてしまうのではないかと感じました。

 「何もせず見守ることが、一番の選択肢なのだろうか……」

 ご家族に無理をさせたくないとの思いから、いったんは“守り”に入りかけた私でした。ですが、別のスタッフが日報の中で、「ある利用者様のお宅で少し高い位置に給湯器のボタンがあった。押せないだろうと思って看護師が操作を代行していたが、実はご自身で工夫して押せていたと後で知った。できないと思っていたのは、ナースの思い込みだった」と書いていたエピソードを思い出しました。

 そこで私も思考停止せず、工夫することで無理なく改善できるポイントを一つでも見つけようと、“攻め”のアクションを起こそうと考えました。

連載の紹介

ケアプロの「訪問看護最前線」
東京都内で訪問看護ステーションを運営するケアプロ。同社の訪問看護師が、日々の看護記録とは別に書きためている「日報」を、コラムに再編しました。家で暮らすことを選んだ人々を支える訪問看護の生々しい現場の様子と、訪問看護師たちの心の動きを綴ります。(ケアプロの運営する新卒・新人訪問看護師応援サイト「CAN-GO!」はこちら

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