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第8回
患者の自殺を目撃しショックを受けた中堅看護師

2015/11/11
武用 百子(和歌山県立医大保健看護学部精神看護学准教授、精神看護専門看護師)

 わが国の自殺者数は1998年より年間3万人を超え、その後長い間3万人台で推移し、2012年よりようやく3万人を下回るようになりました1)

 自殺の原因・動機は「健康問題」が最も多く1)、命を救うはずの臨床現場において、健康問題に苦しみ見通しを持つことができず、自分で命を絶ってしまう患者さんもいます。健康問題の中でも、うつ病は自殺のリスクが高いため、うつ病の患者さんが入院している精神科病院では一般科と比べ自殺者数は特に多いのが現状です。しかし患者さんの自殺や自殺企図は、精神科病院(病棟)に限らず、身体科の病院(病棟)でも起こります。

 こうした患者さんの自殺や自殺企図を目撃した看護師は、惨事に直面したときやその後に生じる外傷性ストレス反応を呈します(連載第5回の表1、2を参照 )。

 今回は、患者さんが自殺を企て、それを発見した看護師への対応について考えてみたいと思います。

院内で首を吊っている患者を発見
 15年目の女性看護師Aさんは深夜勤務をしていました。Aさんは6時の検温の際、患者Tさんがトイレの方向に歩いていくのを確認しましたが、後で検温をしようとそのまま声をかけずにいました。

 8時頃、Aさんは朝食を配膳するために再度Tさんの部屋を訪室しましたが、Tさんは不在でした。「おかしいな。こんなことないのに」と不審に思い、病棟内を探しましたが見当たりません。不吉な予感がしたので、さらに病院内を探しました。

 すると、非常階段で首を吊っているTさんを見つけました。既に冷たくなっていましたが近くにいた医療者に声をかけ、紐を解いて下ろし、心肺蘇生を行ないながら救急外来まで移動しました。
 
 さまざまな処置を施しましたが、Tさんの命は戻ってきませんでした。

 Aさんは深夜業務が残っていましたが、とても業務に戻れる状況ではなく泣き続けていました。「6時の時点で『どこに行くのか』と話しかけてさえいたら、Tさんは出て行くことはなかったのではないか」と自分を責め続けています。師長がずっと休憩室で付き添っています。Aさんは、翌日は休日ですが、師長はそれ以降の勤務をどうすべきか迷っています――。

Aさんに起こり得る身体症状
 まず、Aさんにこれから起こり得ることを考えたいと思います。Aさんは自殺を目撃しており、その衝撃は大変大きいものです。そのため、程度に差はありますが、目撃時の光景がよみがえる、あるいは頭から離れない(再体験症状、フラッシュバック)、目撃した非常階段を避ける、その話題を避ける(回避症状)、睡眠障害(過覚醒)、必要以上に自分を責める(自責感)、仕事のモチベーションが低下する、気持ちが高ぶる、動悸――といった身体症状が現れます。

 これらの症状は、「今までケアしてきた患者さんの自殺を目撃する」という異常な事態に対して起こる正常な反応であることも多いのですが、症状が強く出る場合は急性ストレス反応、日常生活に支障を来す場合は急性ストレス障害と診断されます。

著者プロフィール

武用百子(和歌山県立医大保健看護学部精神看護学准教授、精神看護専門看護師)●ぶよう ももこ氏。1991年北里大看護学部卒業。北里大病院、日本赤十字社和歌山医療センターを経て、2000年兵庫県立大大学院修了。和歌山県立医科大附属病院でリエゾンナースとして勤めた後、08年から和歌山県立医大保健看護学部精神看護学講師、15年から現職。

連載の紹介

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