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第5回
「看護師失格」と言われ傷ついた5年目看護師

2015/08/12
武用百子(和歌山県立医大保健看護学部精神看護学准教授、精神看護専門看護師)

 保健医療福祉施設の現場における暴力は、いまや世界的な問題です。特に看護師が業務の中で暴力被害を受けるリスクが高いことが報告されています。

 そこで今回は、暴力の中でも「精神的暴力」を受けた看護師への対応について考えてみたいと思います。

暴言を機に男性患者に関われなくなった看護師
 Aさんは5年目の看護師です。日勤帯で50歳代の男性患者Zさんを担当していました。あるとき、検温の際にZさんから「昨日の採血結果はどうなっているのか」と尋ねられました。Aさんは、「主治医から結果を伝えてもらうので、待ってくださいね」と伝え、一度退室しました。Aさんはそのことを主治医に報告していたのですが、主治医は外来診察もあり病棟に来るのが夕方になるようだったので、その旨をZさんに伝えるために昼食後に再度訪室しました。

 すると、ZさんはAさんに、「『待ってください』『待ってください』って、一体どれだけ待たせば気が済むんだ!」「お前はそれでも看護師か!」「このあいだもお前の対応が悪かった。お前は看護師失格だ!」と怒鳴りました。Aさんは医師がいつ来るのかをZさんに丁寧に伝えており、Aさんの対応自体に問題があったわけではないようです。単に、患者さんが自身のいら立ちを看護師にぶつけているものと思われました。

 それからZさんは、何かにつけてAさんの対応に文句をつけ、「看護師として最低な奴だ」などと言うようになりました。次第にAさんは、Zさんの姿を見ると過換気発作を起こすようになり、男性患者を担当することができなくなりました。

「暴力」の定義とは?
 日本看護協会は、『保健医療福祉施設における暴力対策指針』1)の中で、暴力を「身体的暴力」と「精神的暴力(言葉の暴力、いじめ、セクシュアルハラスメント、その他嫌がらせ) 」の二つと定義しています。

 身体的暴力とは、殴る、蹴るなどの行為です。他の人や集団に対して身体的な力を使って身体的、性的、あるいは精神的な危害を及ぼすものを言います。言葉の暴力とは、個人の尊厳や価値を言葉によって傷つけたり、おとしめたり、敬意の欠如を示す行為を指します。セクシュアルハラスメントとは、意に添わない性的誘いかけや好意的態度の要求など、性的ないやがらせ行為のことを言います。いじめとは、職場およびそれに隣接する場所、時間において従業員もしくは使用者らから一時的もしくは継続的になされる心理的、物理的、暴力的な苦痛を与える行為の総称です2)

 暴力は、看護師としての尊厳や自尊心を脅かします。そして、暴力被害を受けた者は「麻痺した」あるいは「孤立した」感覚を持ちます。

・現実感が消失する解離性症状
・当時の出来事が夢などで再現される再体験
・当時の出来事を想起させる刺激を極端に避けるなどの回避
・強い不安症状や覚醒が亢進する過覚醒といった急性ストレス反応
などを呈することもあります。

看護師Aさんに起こっている状況
 Aさんは、「看護師失格」「最低な奴だ」などの度重なる言葉の暴力を受け、個人の尊厳を著しく傷つけられています。そのことが原因で、男性患者と関わることができず、さらには過換気発作を起こすようになりました。その出来事を思い出すような刺激を避ける回避症状(男性患者を担当できない)、強い不安症状による過換気発作を来し、急性ストレス反応を呈した状態と言えます。

Aさんへの対応は――
 まず管理者の方に知っていただきたいのは、言葉の暴力は“傷”が見えないということです。そのため、「これくらいで済んでよかったね」「たいしたことないから大丈夫ね」と言って済ませてしまうことがあります。しかし、その対応が被害者の“傷”をさらに広げてしまうのです(二次受傷)。

 前述したように、どんな暴力の後も「麻痺した」「孤立した」感覚を持ちますが、他者の誤った対応は孤立感をさらに増大させ、「やっぱり自分の対応がまずかった」「自分は看護師をする資格はない」というような思いを強くさせます。つまり、看護師としてのアイデンティティが大きく揺るがされるのです。

著者プロフィール

武用百子(和歌山県立医大保健看護学部精神看護学准教授、精神看護専門看護師)●ぶよう ももこ氏。1991年北里大看護学部卒業。北里大病院、日本赤十字社和歌山医療センターを経て、2000年兵庫県立大大学院修了。和歌山県立医科大附属病院でリエゾンナースとして勤めた後、08年から和歌山県立医大保健看護学部精神看護学講師、15年から現職。

連載の紹介

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