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「ACP取りました!」「グッジョブ!」とならないために

2019/03/21
ラプレツィオーサ 伸子

ラプレツィオーサ伸子●千葉県出身。東京大学医学部付属看護学校、北海道立衛生学院保健婦科卒業。神奈川県の大学病院で整形外科、神経内科病棟勤務後、米国留学。癌専門看護において看護修士取得。RN。1998年より現ジェファーソンヘルス・ホームケア・ホスピスにて在宅ホスピス及び緩和ケアに従事。CHPN(Certified Hospice and Palliative Nurse:ホスピス緩和ケア認定看護師)、CHPPN(Certified Hospice and Palliative Pediatric Nurse:小児ホスピス緩和ケア認定看護師)。

 最近、日本では”人生100年時代”の到来に向け、人生設計の見直しが話題になっているようです。個人的には、現在の高齢者が育った時代にはなかった食品添加物、遺伝子組換えや環境汚染、電磁波、放射線、ストレス等々にさらされているジェネレーションが、そんなに長生きできるのかな?とも思うのですが……。とにかく、人生が何年であったとしても、必ず終わりは来るわけで、そこまでを見据えた人生設計の見直しが必要でしょう。

 日本では、親や自分の老後・介護についての意識調査が多くありますが、その内容は、主に介護に関する不安要素や、その対策に関するもので、「終末期(疾患、加齢などによる)における医療処置に関する意思決定について、考えたこと、あるいは話し合ったことがあるか?」といった質問はほとんどありませんでした。つまり、日本ではまだ多くの場合「介護」とその先にある「死」は切り離されているのです。

 アメリカでは、病院に入院したり、ナーシングホームなどに入所する場合、必ず事前指示書(アドバンス・ディレクティブリビングウィル/ Durable Power of Attorney for Health Care (DPOA-HC) など)があるかどうか確認します。ホームケアやホスピスでも同様です。ない場合は、いざという時に備えて、心肺蘇生を含む治療をどこまでしてほしいのか、本人の意思を確認する義務があります。そしてその意思は、その施設内にいる限り、尊重されなければなりません。

アメリカでは3割以上が事前指示書あり
 ホームケアの場合、事前指示書を持っていない人には、それがどういうものなのかを説明し、パンフレットなどの資料を提供します。必要があれば、メディカルソーシャルワーカー(MSW)が事前指示書の作り方についてより丁寧にサポートすることもあります。ホスピスの場合、心肺蘇生を望まない方には各州所定の「病院外におけるDNR指示」という書類にサインをしてもらい(本人がサイン不可能な場合は代理人)、主治医にサインをもらいます。私がホームケア・ホスピスのナースになった20年前に比べると、事前指示書を持っている人の割合は格段に増えており、2017年の調査ではアメリカ人の3割以上が事前指示書を作っているそうです。

 それに対し日本では、日本尊厳死協会などが先駆けとなり、リビングウィルの重要性を提唱してきましたが、なかなか根付かないようです。最近では「リビングウィルのせいで助かる命も助からない」と言う意見もあると聞きます。厚生労働省が2018年に発表した『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(改訂版)』の中でも、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)については触れられていますが、リビングウィルなどの事前指示書については具体的に触れられていません。

 こうした流れを見ていると、少し残念な気がしてしまいます。特に厚労省のガイドラインは、「人の気持ちは変わるものだから、一時の気持ちで書いた書類によって、もしかしたら今この瞬間に気が変わっているかもしれない人の延命をしないのは人道に外れる。医療者は目の前にある命を救うためにすべての努力をすることが使命である。だから、ACPで本人の希望を話し合っておくのは大切だけれど、最終的には医療者を含めたみんなで一番良い方針を決めましょう」とでもいうような、ちょっとお茶を濁されたような形になってしまった感じがするのです。

 また、ガイドラインの議論が始まっていた2017年あたりから日本でもACPが注目され始めました。ACPの必要性が理解され始め、実践していこうという流れは大変望ましいのですが、同時に私の脳裏にはちらりと不安が走るのです。

 というのは、2018年の診療報酬改定では、ガイドラインを踏まえたACPなどの対応を行うことを要件に、在宅ターミナルケア加算や訪問看護ターミナルケア療養費の報酬がアップしました。ただ、報酬算定のための要件になったことで、かつてのインフォームドコンセントのように「ACP取りました」「グッジョブ!」みたいなルーチン業務になって、いつの間にか患者さんや家族が置いてけぼりになるという本末転倒の状況になってしまうのではないか、とも思うのです。

 ACPは過程ですから、本来は時間がかかることもあります。ガイドラインでは、あくまで医療チームで話し合うこととしていますが、日本の医療機関の場合、ほとんどのチームメンバーは通常業務に加えてACPに携わることになります。特に、ただでさえ忙しいお医者さんは、いくら診療報酬の点数が付いたからといって、そうそう時間を取ってもいられないのではないでしょうか。

連載の紹介

米国で学び、働く!あめいろぐ便り for Nurse
米国で学び、働く日本人医療従事者が広く情報発信するブログサイト「あめいろぐ」。そのメンバーである看護師らが、Aナーシングの読者向けにオリジナル記事を書き下ろします。米国の看護師資格はどうやって取得する?看護師の仕事内容は日本とどう違う?米国の取り組みを日本の看護にどう生かす?外からは見えにくい米国医療の姿を、多職種の視点からお届けします。

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