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アメリカでなぜACPが普及しているのか

2018/06/05
ラプレツィオーサ 伸子

ラプレツィオーサ伸子●千葉県出身。東京大学医学部付属看護学校、北海道立衛生学院保健婦科卒業。神奈川県の大学病院で整形外科、神経内科病棟勤務後、米国留学。癌専門看護において看護修士取得。RN。1998年より現ジェファーソンヘルス・ホームケア・ホスピスにて在宅ホスピス及び緩和ケアに従事。CHPN(Certified Hospice and Palliative Nurse:ホスピス緩和ケア認定看護師)、CHPPN(Certified Hospice and Palliative Pediatric Nurse:小児ホスピス緩和ケア認定看護師)。

 私は、アメリカのペンシルベニア州フィラデルフィア郊外で在宅ホスピスナースとして働き始めて20年になります。ホスピスと聞くと、漠然と、「最後の時を過ごす施設」のような場所を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は、アメリカのホスピスは在宅が主流です。また、癌や後天性免疫不全症候群(AIDS)だけでなく、様々な疾患の患者さんがホスピスケアを受けることができます。

 最近は、日本でもホスピスや緩和ケア病棟が少しずつ増えており、できれば自宅で死にたい、看取りたい、と言う人も増えてきています。しかし、多死社会を迎える中、在宅で看取るには充分なシステムが整っていない状態で、8割近くの人が在宅で最期を過ごしたいと希望しながら、実際には8割以上の人が病院で亡くなっています。また、介護施設などに入所していても、最終的には病院に搬送されて亡くなるケースが少なくありません。

 アメリカではここ20年で、ホスピスケアを受けて亡くなる人が全死亡数の約4割にまで増えました。そしてそれは、本人の意思によって、あるいは本人の意向をよく理解する代理人(ほとんどが家族)によって選択されたものです。自分の寿命が見えてきた時、不必要あるいは不本意な治療は受けず、苦痛の緩和に徹したケアを受けることで、穏やかに天寿を全うしたいという希望を叶える選択肢が、ホスピスケアを含むエンドオブライフ・ケアなのです。

 日本でも今年3月に、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が公開されました(関連記事)。ガイドラインでは、人生の最終段階をどのように迎えたいかを早いうちから考え、家族などと思いを共有していくことの重要性が示されています。今回は、アメリカでは普及しているエンドオブライフ・ケア(End Of Life Care、以下EOLケア)やアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning 、以下ACP)について多くの方に知ってもらうため、この場をお借りして発信していきたいと思います。

オンラインで作成できる「Five Wishes」
 誰でも、自分や自分の大切な人達の死について考えたいとは思わないでしょう。「死」について語ることは、多くの国や文化の中でタブーとされており、日本やアメリカでも然り、です。しかし、自分の寿命が残り少なくなった時、その残された時間をどのように過ごしたいか、それを考えることは、自分の人生を全うするためにとても大切なことです。

 EOLケアとは、医療の立場から、その人の人生の最終段階をサポートするケアです。それは、ホスピスケアや緩和ケアを含む包括的なケアを指し、多職種が様々な方面から苦痛を軽減して、平穏な死を迎えられるよう、その人に関わります。そして、自分のエンドオブライフ、人生の終焉をどのように過ごしたいかを、主に医療処置の面から事前に考えて、その考えを家族や信頼できる誰かに伝えておくこと、あるいは文書にしておくことを、ACPと言います。

 つまり、万が一けがや病気によって自分自身による意思決定ができなくなった場合に備えて、自分の代わりに決断してほしい人は誰かを元気なうちに決めておき、その人に自分はどうしてほしいのかをきちんと知らせておくのです。

 これは、高齢者や重篤な病気を持つ人に限らず、実は全ての成人にとって大切なことです。不慮の事故や突然の発病は、誰にでも起こり得ることです。そして、それが生命の維持、さらにその後の生活に関わる事態になった場合、延命処置をするのか、人工的に生命維持を継続していくのかといった重大な選択を、誰かに委ねなければならないのです。また、自分が大切な誰かのためにそういった選択を迫られる立場になる可能性もあります。

 そんな時、例えば、「もしも植物状態になるのだったら、人工的に生命維持はしないでほしい」「病気が進行して口から食べられなくなったら、胃瘻は作らないでほしい」などといったことを事前に話していたら、少なくとも「本人はこう希望していました」と言うことができるわけです。

 こうしたACPの内容を具体的に書面化し、法的に力を持つものがアドバンス・ディレクティブ(Advance Directive:以下AD)です。ADはアメリカでは2種類あり、一つがリビングウィル(Living Will)、もう一つがDurable Power of Attorney for Health Care (DPOA-HC)です。

 リビングウィルとは、自分の治療方針を自分の意思で決められなくなる場合に備えて、事前に、心肺蘇生術などの延命処置を含む、終末期医療に関する希望を文書にしたものを言います。DPOA-HCは、本人が身体的、あるいは精神的理由で自分の治療方針が決められなくなった場合に、本人の代わりに治療方針の決定権を持つ人を明記した委任状のことで、やはり事前に本人の意思で決めておきます。そして、どちらの書類も、本人と2人以上の証人(18歳以上)のサインが必要です(DPOA-HC はリビングウィルの証人にはなれないなど、条件は州によって多少異なる)。

 日本では、一部の団体や病院でリビングウィルの作成をサポートしているようですが、それが法的に有効かどうかははっきりしていません。アメリカではAging with Dignity と言う非営利団体が発行している「Five Wishes」が、一般人でも簡単に作成できるリビングウィルとして知られています。「Five Wishes」はオンラインでも作成でき、42州とワシントンDCで法的に有効とされています。日本語訳も提供されています。

連載の紹介

米国で学び、働く!あめいろぐ便り for Nurse
米国で学び、働く日本人医療従事者が広く情報発信するブログサイト「あめいろぐ」。そのメンバーである看護師らが、Aナーシングの読者向けにオリジナル記事を書き下ろします。米国の看護師資格はどうやって取得する?看護師の仕事内容は日本とどう違う?米国の取り組みを日本の看護にどう生かす?外からは見えにくい米国医療の姿を、多職種の視点からお届けします。

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