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患者が心をひらく○○のヒント

2017/12/28
安部 正敏(札幌皮膚科クリニック、褥瘡・創傷治癒研究所)

 前回、ホテルでの顛末を書いて以来、随分と間が空いてしまった。医師の中では、極めて暇人に分類される筆者ではあるが、こう見えて診療はきちんと行っており、特にこの夏はなかなか忙しかった。

 虫刺症、白癬、汗疹、日光皮膚炎など、夏場は多種多様な疾患にお目にかかる。そうして、漸く朝晩の暑さが陰りをみせた頃、秋の学会シーズンが始まる。日本褥瘡学会学術集会も毎年秋に開かれるのが常で、今年は盛岡であった。褥瘡学会は参加者が多いため、大都市圏で開催されることが多いが、風光明媚な岩手県の学会は楽しみであった。

 学術集会の内容は盛り沢山である。筆者が毎年関わっている「全部答えられるまで帰れま10」というパクリ企画も健在であった。内容をうっかりここに記すと、さらなるパクリ企画が出そうであるので詳細は記さぬが、学会参加初心者にも楽しみながら学んでいただける、要はクイズ形式のワークショップである。

 ありがたいことに、毎回満員御礼を頂戴するのであるが、今年の参加者は少なかった。企画する側は、舌を噛んで死んでやろうかとも思ったが、今回は同時刻に市民公開講座で某有名女優が登場するために他ならなかった。筆者としても、有名人を見てみたいものであるが、座長がノコノコと他の会場へ出向いていくことなど不可能であり、おとなしく…いや賑やかに粛々と座長業務にあたった。

 こう書くと、岩手で有名人に会いそびれたように思われようが、実はこの「帰れま10」の直前の企画が特別講演であり、その演者は阿川佐和子氏であった。筆者は、大ファンであり、次座長席着席の特権を生かして最前列に座った。「心をひらく35のヒント」と題されたその講演は、誠に素晴らしいものであった。作家であり、マスコミ登場も多い阿川氏は、アドリブで喋るような体で、現に「今何時かしら?私は何時まで喋ればいいの?」などと言って演台の時計を覗き込む仕草をしながらも、医療従事者に向けた多数のメッセージを平易な言葉で語られた。流石はプロである。上手だ。今回のご講演は、学術集会の大会長の先生が阿川佐和子氏のファンで、自ら直筆でお手紙を出されたことで実現したものである。大会長にも感謝である。

 講演中には、父であられる阿川弘之氏の看病の様子を度々話された。実は筆者が阿川佐和子氏のファンになったのは、阿川弘之氏のファンだったからである。正確に記すと、筆者は北杜夫氏を精読しており、その親友である阿川弘之氏と遠藤周作氏の著作も読むようになったというのが真相であるが、阿川氏は無類の鉄道ファンであり、趣味が同じ筆者は、阿川氏の鉄道に関する著作を多数読みふけったものである。北氏や遠藤氏から、阿川氏は“瞬間湯沸し器“と評されており、つまり怒りっぽい方のようであった。

 今回、阿川佐和子氏の講演の中には、“瞬間湯沸し器“を地で行くエピソードが語られ、とても興味深かった。しかし、斯様な感動は筆者の極めて私的なものに過ぎぬ。この文筆のプロの話は、無駄なところを一切排し、それでいて今思いついたようなアドリブ調の講話である。やはり自らの考えを文章化し、それを十分に推敲することが、文語力だけでなく、口語力も向上させるのであろう。

著者プロフィール

安部正敏(医療法人廣仁会札幌皮膚科クリニック副院長、褥瘡・創傷治癒研究所)●あべ まさとし氏。1993年群馬大学医学部卒。同大皮膚科入局。米テキサス大サウスウェスタンメディカルセンター細胞生物学部門研究員、群馬大皮膚科講師などを経て、2013年から現職。近年エッセー連載も多数。

連載の紹介

安部正敏の「肌と皮膚の隅で」
看護師が日常的に遭遇する皮膚疾患をテーマに、病態のメカニズムや治療の最新知見、スキンケアのピットフォールなどを解説するエッセー。看護師向けセミナーや書籍などで大人気の安部正敏医師が、分かりやすくレクチャーします。

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