国立国府台病院放射線治療室長で、トロントの病院でクリニカルフェローを勤められたご経験もある内野三菜子先生が書かれた、素晴らしい本。この本は、がんの基礎知識、病院選び、検査と治療、治療費と保険、困ったときに使える公的保障、退院後の生活、がんになっても働くための知識、終末期の過ごし方の8つのチャプターに別けられ、それぞれ10個ほど、トータルで76の質問に答えるQ&Aの形を取っています。さらにその答えは女性らしいきめ細かい丁寧なもので、微に入り細をもうがつ解説に感心いたしました。内容も、豊富な診療経験に裏打ちされた深いものですが、とても解りやすく言い換えてあって、一般の方にもすぐに理解できます。
対象読者はがん患者の家族ですが、医学生や看護学生が、がんという疾患の入門書にするのにも最適ですし、以前は行っていたけれど、今はがん治療から遠のいている医師にとっても、復習やup to dateの知識の刷新にもなります。また、がん治療に関わっているエキスパートにも、患者さんからなされるであろう質問が網羅してあり、聞かれたときの模範解答として使える優れたものです。
特に、なかなか聞けない治療費、公費で保障される援助の受け取り方などまでが懇切丁寧に書かれていますので、高額の負担に不安を持った患者さん、家族には福音ともなるでしょう。
普段がん治療とはあまり縁のない開業医も、外来でがんについて患者さんから質問される事は少なくないと思います。この本を読んでおけばほとんどの質問には答えられますし、読まれた後は、外来の待合室に置いておくのも良いでしょう。藁にもすがりたい進行がん患者が、怪しい民間療法や高額の自費診療を行う悪徳クリニックに走る事を防ぐための知識も身に付きます。
この本の中にも書いてあるように、今や日本人の2人に1人が1度はがんに罹患する時代。4人家族であれば、2人はがんになってしまうわけですので、転ばぬ先の杖、備えあれば憂いなしと言う意味で、一家に一冊持って置くべき良書だと思います。
内野三菜子 著 1500円+税 ダイヤモンド社
ISBN978-4478069219 B6判 320ページ