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2008. 3. 19

INR

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脳血管

 正式にはPT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio:プロトロンビン時間−国際標準化比)の略。血液の凝固能を示し、主として抗凝固薬であるワルファリンの投与量管理のために使われている。1982年に世界保健機関(WHO)に採用され、日本には1985年に紹介された。正常値は0.80〜1.20。

 凝固能検査に使われる組織トロンボプラスチンは生物由来製剤であるため、試薬メーカーや製造ロットによって測定値が変動するという問題がある。施設によってもバラツキが生じる。こうした不都合を解消するため、測定値から容易に標準化値を得る仕組みが求められていた。

 INRの算出には、試薬メーカーが組織トロンボプラスチンの製造ロットごとに設定した試薬力価ISI(International Sensitivity Index)を用いる。測定時に、試薬を使ってプロトロンビン時間(凝固時間:秒)を測定し、検体血漿と対照血漿の比を求め、試薬のISI値で累乗することでINR値を得ることができる。

 ワルファリンは、肝臓で血液凝固因子が生成される際に関与するビタミンKを阻害することで抗凝固作用を発揮する。心房細動患者や人工弁植え込み患者などにおける脳塞栓症を始めとした血栓症の予防に用いられるが、投与量が多すぎると出血の危険性が増え、少なすぎると血栓症の危険性が増える。この出血と凝固のバランスは患者ごとに異なり、同一患者でも食事内容などによっても異なるので、定期的なPT-INRの検査が必要になる。

 対象疾患にもよるが、PT-INRは、通常2.0〜3.0にコントロールすることが多い。「脳卒中治療ガイドライン2004」には次のような記述がある。

1.弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)のある脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防では、ワルファリンが第一であり、INR 2.0〜3.0が推奨される(グレードA)。
2.リウマチ性心臓病、拡張型心筋症などの器質的心疾患を有する症例にはINR 2.0〜3.0が推奨される(グレードA)。70歳以上のNVAFのある脳梗塞またはTIA患者では、INR 1.6〜2.6が推奨される(グレードB)。出血性合併症はINR 2.6を超えると急増する(グレードB)。
3.人工弁を持つ患者では、INR 2.0〜3.0以下にならないようにコントロールすることが推奨される(グレードA)。

INRのコントロールの良否は予後に関与する

 医師にとっても患者にとっても、適切なPT-INRを維持することは必ずしも容易ではない。しかし、PT-INRのコントロールの良否が予後と関連することが報告されている(Arch Intern Med 2007;167:239-245)。

 この研究は、心房細動患者を対象に新規経口トロンビン阻害薬とワルファリンの有用性を比較した大規模臨床試験SPORTIF III/Vにおいて、ワルファリンに割り付けられた患者3587例を対象に、PT-INRのコントロール状況と予後の関係を調べたものだ。

 検討はPT-INR2.0〜3.0を目標とし、コントロール良好群(目標到達時間の割合が75%超:1190例)、コントロール中等群(60〜75%:1207例)、コントロール不良群(60%未満:1190例)の3群に分けて行われた。

 平均追跡期間は16.6±6.3カ月。コントロール不良群の年間死亡率(4.20%)と年間大出血(3.85%)は中等群(それぞれ1.84%、1.96%)、良好群(同1.69%、1.58%)より有意に高かった(すべてp<0.01)。また、不良群は良好群よりも心筋梗塞の発症率が有意に高く(1.38% vs 0.62%:p=0.04)、脳卒中や全身塞栓イベントの発症率も有意に高かった(2.10% vs 1.07%:p=0.02)。PT-INRの良好なコントロールが重要であることを示すデータと言える。

 なお最近、約1分間で検査結果が分かるPT-INRの迅速測定装置が登場した。開業医でも外注せずにその場でPT-INRのコントロール状態を知ることができるので、迅速にワルファリンの投与量を調整できる。将来的には、現在普及している血糖自己測定のように、患者自身が家庭でPT-INRを測定する時代が来るかもしれない。

(日経メディカル別冊)

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