
各棟の各フロアの一角に設けられたネットワーク収容所。各棟の仮想化されたルータからつながっており、バーチャルシャーシで冗長化され、フロア内はループ構成でネットワーク可用性を高めている。コアスイッチとしてアライドテレシスのCentreCOM AT-900、エッジスイッチとして同GS924が使われている。また、下部のUPSは2系統で受電し、ネットワーク機器とフロア内の電子カルテ端末にもUPS経由で給電している
「クラウド化が進めばネットワークの重要度はさらに高まり、ユビキタス環境を作ろうと思えば、多種多様なネットワークを統合していく必要があります。限られたIT投資の中で院内ネットワークの整備は、ますます重要になってきます」と述べる。
福井大学病院のネットワークは、病院、医学部、その他の学部とも1つの物理ネットワーク(学内ネットワーク)で構成されている。「ドクターは病院職員であると同時に大学の構成員でもあるので、できるだけシームレスな通信環境が望ましい」(山下氏)という理由からだ。
この単一の学内ネットワークには、複数のVLAN(仮想LAN)バックボーンがあり、セキュリティレベルの異なるVLANバックボーン間は、内部ファイアウォールで守られている。医療系VLANは最もセキュリティレベルが高いバックボーンに位置し、SINETなどインターネットとの境界の外部ファイアウォールから、2段階の内部ファイアウォールを隔てた内側にある。
医療系のネットワークは、さらに電子カルテ系、生体情報系、画像系などの病院情報系VLAN、職員専用VLAN、患者用(ビジター用)VLAN、電話系VLANに分けて多重利用している。病院情報系VLANは、帯域制御装置によって電子カルテ系・生体情報系・画像系の専用経路を設定し、部門や場所により帯域の優先制御でQoS(サービス品質)を確保している。
「手術系のネットワークでは、生体情報モニターと映像・画像モニターの両データが1つのVLAN内を流れています。ですが、大量のトラフィックが発生した場合に、優先制御をかけないと両トラフィックに障害が起きる危険性があります。生体情報を優先させるべき場所、画像系を優先させるべき場所、部門ごとにそれぞれに適したQoSを行う必要があります」(山下氏)と、病院情報ネットワークの帯域制御・優先制御の重要性を指摘する。

手術の麻酔医控え室には、壁の全面に設置されたディスプレイに手術中の生体情報や術中映像が表示される。ネットワークの帯域制御・優先制御により、多くの情報が問題なくモニターできる
ネットワークの可用性という点では、ネットワーク機器による冗長化、経路の冗長化、電源の冗長化を組み合わせて構成し、止まらないネットワークを構築している。例えば、病棟・中央診療棟・外来棟など各建物(セクション)は、ルーターの仮想化による冗長化を実施。各棟のフロアごとに設けられたネットワーク収容所は、バーチャルシャーシを利用したスタック構成で冗長化し、その先をさらにループ構成で冗長化してネットワークの可用性を高めている。
医療情報システム、ネットワークは24時間365日止められないクリティカルなもの。従来の電子カルテや部門システムだけでなく、院内のさまざまな領域でICTが利用されていく。その一方で、システムやネットワークを管理する人員不足は大きな課題でもある。山下氏は、「医療現場におけるICTの様々な利用方法、病院全体での最適利用の両方を考慮したうえで、運用管理負担の少ないインフラが望ましい。クラウドは、ユビキタス環境を実現する1つの方法です」と結んだ。
(増田 克善=日経メディカルオンライン/デジタルヘルスOnline委嘱ライター)
※デジタルヘルスOnline「デジタルヘルス最前線」から転載。