日経メディカルのロゴ画像

『医療とIT』は2012年4月1日より『デジタルヘルスOnline』に全面移行しました

〔針路IT〕米国が急ピッチで進める医療IT化に学ぶ

2009/03/16
田中克己

事故防止、訴訟の軽減に効果あり

 医者と患者のコミュニケーション手段が整い、患者も情報武装できるようになってくると、医者は不安になるかも知れない。しかしハラムカ氏によれば、こうしたコミュニケーション手段や情報サイトの整備は、「医療事故の防止に効果がある。実際訴訟は減っている。医者と患者の両者のコミュニケーションが促進されたこともあるだろう」という。患者とのやり取りで忙殺されるという懸念もあるが、実際のところは医者1人当たり1日に5件程度であり、労力の点では、普段から行っている電話での患者対応とさほど変わらないというデータもあるという。

 医療機関や研究機関が集積するボストン地域では1000万ドルを投資し、医療機関が電子カルテなど患者の電子医療情報を一元的に保管するEHR (Electronic Health Record)のためのデータセンターを構築したという。個人に対するサービスとしては、米国カリフォルニア州のカイザー・パーマネンテのように、アクティブ・ユーザーが250万人になるPHRサービスを提供する事業者もある。

 さらに米グーグル(Google Health)や米マイクロソフト(Microsoft Health Vault)もPHR市場に参入した。グーグルのヘルス・アドバイザでもあるハラムカ氏によれば、こうしたサービスでは患者の同意を得て医療情報を登録してもらっており、Google Healthの例では約5000人が登録済である。「確かに反対する意見もあるが、医療機関によるデータ交換は患者の同意なしにはできない仕組みになっており、両社とも法で定められたものより厳しい管理体制をとっている」(同)。

 それでも、米国で電子カルテを使っている医者はまだ17%しかいないそうだ。EHRの普及率も2%から20%まで、州によって大きく異なるという。そこで、オバマ新大統領は今後4年間で医療分野のIT活用促進に300億ドルを投じることを表明したところだ。欧州でも医療IT化は活発化している。例えばイギリスは2002年から国家プロジェクトを立ち上げ、医療専用ネットワーク、患者基本情報データベース、予約システム、電子処方せんサービスなどの整備に着手している。

 一方、日本の医療分野はどうだろうか。政府は「下地」作りとしてレセプト(診療報酬明細書)の完全オンライン化を2011年までに実施する計画だが、特に小規模医療機関における設備投資や作業負荷を理由に反対する意見も強い。電子カルテの導入も徐々に進んではいるがまだ主流とは言えず、データ共有に向けた標準化に至ってはこれからというのが実情だ。

 内閣官房のIT戦略本部が2009年3月2日に提示したIT分野の緊急対策案の中に、医療機関同士を広帯域ネットワークで接続する「日本健康情報スーパーハイウェイ構想」(仮称)などの計画が盛り込まれている。だが、情報共有に向けた具体的なロードマップはまだ描かれていないようだ。かけ声だけで終わってしまうのだろうか。

田中克己

◆著者プロフィール
田中 克己(たなか・かつみ)
 日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ(現日経ソリューションビジネス)編集長などを経て、2004年から主任編集委員。30年にわたりIT産業の動向をウォッチし続け、現在、日経ソリューションビジネスで「深層波」、日経コンピュータで「編集委員の眼」を連載中。2004年度から専修大学兼任講師(情報産業)。
 これらの連載を基に、2007年12月には「IT産業崩壊の危機」(日経BP)を上梓。2008年12月には、その続編となる「IT産業再生の針路~破壊的イノベーションの時代へ~」(日経BP)が刊行された。

  • 1
  • 2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ