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こうしたらできる糖尿病医療連携~スタンダードモデルとしてのSDM版連携パス~
レポート:平井愛山氏講演(千葉県立東金病院院長)

2008/06/04
増田克善

 この研究会でツールとして利用したマニュアルが、オンラインでも閲覧できるようになった日本版SDM(Staged Diabetes Management)だ。SDMは、実地医家、糖尿病療養指導士を対象に作成した糖尿病の臨床病期に応じた実践的な管理マニュアル。患者、コメディカル、非専門医師に対して、糖尿病に関する概念、情報、プロセス、具体的な技術を移転するためのマニュアルで、緊急時、病気の日、平常時の管理において、テキストやフローチャート(パス)によって、どこでも一定水準以上の管理ができるようにしたものである。

「循環型医療連携は技術移転なくして実現は不可能」と言い切る平井氏

「循環型医療連携は技術移転なくして実現は不可能」と言い切る平井氏

 このSDMを活用しつつ、われわれはこれまでに25回の勉強会を開催してきた。プログラムでは、診療所から病院へ紹介された患者の具体的な症例を取り上げるとともに、超高速型インシュリン製剤や超遅効型インシュリン製剤など市場投入された治療薬を直ちに取り込むほか、2004年にはメタボリックシンドロームの病態と診断、治療薬の活用などを勉強してきた。こうした勉強会による技術移転によって、2007年4月の時点では36カ所の診療所における約450名の患者に対して、超速効型インシュリン製剤を使っているのが28診療所、超遅効型インシュリン製剤は14診療所で導入するまでになった。

 診療所への技術移転ができ、診療の平準化が実現したかを実際に調査してみると、循環型医療連携で2006年以降、ヘモグロビンA1cが7%未満になった210名の患者(食事療法71名、内服療法82名、インシュリン療法57名)について1年後の評価では、改善群および維持群の合計が食事療法で98%、内服療法で90%、インシュリン療法で86%というアウトカムを得ることができた。この地域の糖尿病非専門医に対してインシュリン療法をはじめとする技術移転があるレベルまで達していると評価でき、循環型の医療連携が上手く機能していると言えるだろう。

 こうした先行例から見て医療連携成功のカギは、(1)種まきの場としての定期的な勉強会の開催、(2)その勉強会でのツールしてSDMの活用、そして、(3)地域医療連携スタッフの貢献によるヒューマンネットワークの構築――にあると考えられる。このような経過と結果を踏まえて、2005年11月のSDM研究会から循環型・地域連携パスの構築に試行錯誤を行ってきている。そこでの検討と全国組織のSDM研究会のパス委員会での検討によって、「2008年版SDM」にSDM版連携パスとして記載に至った。

●糖尿病連携パスによる診療報酬加算の取得を目指す

 糖尿病連携パスは、図(文末)のように地域連携体制の構築・調整と、紹介・逆紹介基準をベースにしたパスの基本ルートから構成される。病院の専門医から地域の非専門医への技術移転は、山武SDM研究会を立ち上げて実施してきたことであり、それによって地域における合意形成に基づく循環連携パスを作成していく。

 ここでいう循環連携パスは狭い意味での連携パスで、3か月ごとの診療所での診察・検査、1年ごとの病院での診察・検査において明確な役割分担を行い、患者を継続的に診ていくもの。血圧、脈拍、体重、腹囲といった診察および血糖、ヘモグロビンA1c、血清脂質、腎機能(eGFR)などの検査は少なくとも3か月ごとに診療所で行い、生理および画像検査、眼底検査などは年1回の病院診療で行う。この中で腎機能については、血清クレアチニン(SCR)ではなく、それを基にした推算式によるeGFRで積極的に採用していることが1つのポイントだ。

 こうした診察・検査結果によって、実際に診療所へ患者を逆紹介して病院と診療所の医師が同じ患者を交互に診ていくという流れの中で合意形成ができ、それと平行して両医療機関における役割分担が明確になってくる。ここで重要な点は、病院と診療所の医療連携プログラムにおける紹介と逆紹介基準、あるいは3か月ごとのバリアンス評価基準を明確にした連携パスを構築することである。

 診療所への逆紹介基準では、血糖コントロール良好(ヘモグロビンA1cが7%未満、あるいは8%以下でコントールされ、さらにさがると予測される例)、糖尿病性腎症は3A期まで、eGFRは60ml/min./1.73㎡以上としている。これは、今後年齢やその他を勘案して地域によって変わっていくと思うが、先の述べたようにeGFRで示した点が重要である。この他、図に示したような条件をクリアした患者を診療所へ逆紹介して治療・監査を継続する。この流れの中で、急性合併症や高血糖が現れない場合は、先ほどの狭い意味での連携パスに基づいて定期的な検査を実施していく。その検査結果をどう評価するかを示したのがバリアンス基準である。

 バリアンス基準は、血糖コントロール不良、低血糖発作の繰り返し、体重の変動、腎症の進行・悪化など8項目で基準を示している。このバリアンス基準に逸脱しない場合は、あらかじめ決められた期間で病院での定期受診する循環型サイクルとなる。一方、バリアンスに逸脱した場合は、病院で再教育・再指導を含む治療へと進む。また、糖尿病は長期ケアの最中に急性合併症や高血糖のイベントがあるので、その際の基準も設け、それに合致した場合は連携パスは打ち切りになり、患者は病院での受診を行うことになる。

 こうした連携パスを回して医療連携を強固なものにしていくためには、1~2年ごとに医療連携システムを評価し、それに基づいて患者や地域特性を踏まえてバリアンス基準、逆紹介基準などを見直していくことが重要になる。

 今後のめざす方向は、今回提示したSDM連携パスを核にして全国で医療連携に取り組んでいる方々と協力し、バリアンスを含めたデータの蓄積である。その目標として、2010年の診療報酬改定においてインシュリン療法の連携パスを加算対象とすることである。4疾病の脳卒中のパスについては、名古屋大学の脳外科チームが中心となり愛知地域でのバリアンスの積み重ねによって、今回の診療報酬改訂で加算対象となった。われわれも、そうした例に倣い、糖尿病連携パスの加算取得に向けて取り組んでいきたい。(まとめ、増田 克善=フリーランスライター)

地域連携体制の構築・調整と、紹介・逆紹介基準をベースにしたパスの基本ルート

図●地域連携体制の構築・調整と、紹介・逆紹介基準をベースにしたパスの基本ルート



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