インタビュー:田中 豊氏(東海大助教授)

「タイムセービング」を最重要課題とした

 神奈川県伊勢原市で2006年1月に外来診療業務を開始した東海大の新病院。新築の基本コンセプト作成から運用計画までの統括責任者を務めてきたのが、同大基盤診療学系病院管理学助教授の田中豊氏。手術室の実物大モックアップを作って動線の最適化を図るなど革新的な手法を採用する一方、病院情報システムでは純粋な電子カルテではなく、あえて紙カルテのスキャナー読み込みという手法を使う。病院経営改善という目標からぶれないコンセプトワークについて聞いた(聞き手:野本 幹彦=ライター)。

東海大助教授の田中豊氏

−−新病院を設立するにあたってのコンセプトは、どのようなものだったのでしょうか。
田中 我々は、「どこにもない病院を創る」というキーワードの下、「タイムセービング」(早期の回復感)、「ハイクオリティ」(質の高い医療による満足感)、「ペイシャント・アイデンティフィケーション」(個の認識による安心感)という3つのコンセプトを出しました。

 この中でも最も高い概念として考えていたのは「タイムセービング」です。外来患者さんが短い移動距離でタイムリーに診察を受けられるような施設を考え、入院する患者さんの社会的リスクや身体的リスクを事前に把握することで入院後の作業フローをスムーズにするPFM(Patient Flow Management)を導入し、“コンバーティブル”(どの科の手術も可能)な手術室を設計して緊急手術をすぐに行うことができるようにしています。もちろん、医療スタッフが効率よく働くための情報システムを導入することも「タイムセービング」のひとつです。

 「タイムセービング」を行うことによって、労働生産性が上がり、コストを抑えることができ、医療の質も上がるというのが本院の基本的な考え方ですね。

−−実際の病棟設計やシステム導入で重視してきたことを教えてください。
田中 東海大病院では、EBD(Evidence Based Design)という考え方を打ち出しています。これは、データの裏づけのない空間設計やワークフロー設計、情報システム設計を行わないということです。既存のデータを解析し、患者さんやスタッフのタイムスタディや流れを論理計算し、原価計算などをしっかりやって全体を組み立てることが重要です。また、必要であれば実物大模型を作ったり、先行導入して効果を計ってから本導入を決定するようにしました。

−−どのような問題があって情報システムを導入しようと考えたのかを教えてください。
田中 以前の病院では、カルテやレントゲン写真を持ち運ぶための“大袋”がさまざまな場所で行き来していました。この大袋の管理や搬送のためのコストは無視できないという問題がまずあります。また、カルテやレントゲン写真がなければ診療を始められず、作業効率を上げられないことが2つ目の問題です。このようなボトルネックとなる要因を病棟、外来、手術室、検査室のすべてで排除したいと考えていました。3つ目は救命救急センターであるため、24時間のシームレスな情報提供が必要ということです。

 これらの問題を解決するために診療支援システムの「NEOCIS」やPACS(画像情報システム)を導入しました。新病院で情報システムをすぐにフル稼働させられるように、2004年から準備やデータの蓄積を進めてきました。

−−診療支援システムは、手書きの所見をスキャナーで読み込むという仕様ですが、このようなシステムを作られた理由を教えてください。

田中 我々は、“紙をスキャナーで読む”ということを情報伝達のポリシーのひとつとしています。1998年に調べたところ、当病院では750種類もの書式が使われていました。医師の診療録に使われているのはそのうち10種類のみです。その他の740種類はコメディカルの人たちが記録しているもので、それらがすべて揃った上で診療がスムーズに行われるようになっています。

 一般的な電子カルテは医師の診療録が中心であるため、医師以外の医療スタッフがタイムリーに情報を見られる仕組みを作らなければ、スタッフの労働生産性やクォリティが下がってしまいます。医療スタッフ全員が簡便・タイムリーに情報を見ることができ、電子的に情報が伝わる仕組みを考えて出た結論が“紙をスキャナーで読む”方式だったのです。

 また、病院の大半の部門は切羽詰った状態で動いており、1つのドキュメントに複数のスタッフが記録するようになっています。患者さんもスタッフも動いている状態で、端末を持ち歩いたり、そこら中に端末を置くことは現実的ではありません。ローコストで情報の流通性を高めるためには、やはり紙を利用して高速スキャナーで読むという方法が最も適していると判断しました。

−−病院経営に則した情報システムを構築するために、どのような素養や研究が必要となるのでしょうか。

田中 私は1996年から病院の経営側として働いてきましたが、この10年の間に国内で250病院、海外で50病院を見学してきました。また、ほとんど断ることなく、さまざまなメーカーやセールスの方々とお話をさせていただき、業種に関係なく多種多様な展示会にも足を向けてきました。実際に現場で汗を流している人、責任のある立場にいる人、システムを実際に開発している人の話をよく聞くことで、さまざまなことを学習してきました。

 情報管理を行うためには、病院内のすべての職種のそれぞれがどのような働きをしているかを把握していなければなりません。単に情報技術に詳しいだけでは務まらないと思っています。

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