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特集 インフルエンザ 2007/2008

【専門家に聞く】No.11
新型を意識した季節性インフルエンザの診療を

 2007/2008シーズンは、流行の立ち上がりは早かったものの、Aソ連型インフルエンザを主とする小規模な流行で終焉しそうだ。例年と際立って異なっていたのは、「新型インフルエンザ」を意識した診療に臨まざるを得ない点ではなかっただろうか。原土井病院臨床研究部部長の池松秀之氏(写真)は、地球規模の新型インフルエンザのサーベイランスはもちろん、地域の新型対策の進捗状況も気にかけるべきと指摘する。その上で、「通常のインフルエンザ診療の実際と課題」を今一度、振り返る余裕が欲しいと語った。新型を意識した中で、何が課題なのか。

-- 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の人への感染が相次ぎ、単発ながらもヒト-ヒト感染例が報告されるなど、新型インフルエンザの出現を危惧しなければならない状況になっています。

池松 パンデミックについては、最悪のケースを想定して準備を怠りなくというのは間違っていません。たとえば、プレパンデミックワクチンの事前接種の計画が出ていますが、ワクチン接種はしないよりはした方がいいに決まっている。もちろん、メリットとデメリットの議論は必要です。その上で、実際に実施する際は、副作用の問題がありますから、副作用が発生した場合の責任の所在を明らかにしておくべきです。

-- 厚生労働省の「新型インフルエンザワクチン臨床研究(案)」によりますと、研究により生じた健康被害については、条件付きですが、「独立行政法人医薬品医療機器統合機構法に基づいた個別判定を行った上で、医療費や医療手当、障害年金等の副作用救済給付の対象とする」と明記しています。こうした点を納得してもらった上で、実施べきということですね。

池松 リスクとベネフィットの評価が冷静にできるはずです。

-- 「新型インフルエンザの出現」を意識した診療という点で、今後、医療の現場では何を心がけるべきでしょうか。

池松 地球規模での新型インフルエンザのサーベイランス情報には、常に注意を払っているべきです。異変に気づくための自らの「診療感度」を上げるという意味でも重要です。それから、自らの地域の新型インフルエンザ対策の内容を理解しておくべきです。具体的な進捗状況も把握して、その中での自らの役割を再確認しておくことが大切です。

-- 覚悟も求められるということなのでしょう。それに、地域の新型対策を把握する過程で、自らの準備態勢も見えてくるはずです。

池松 パンデミックは、1診療所あるいは1病院だけで対処できるものではないのです。1人の先生の頑張りに依存するべきものでもありません。

インフルエンザに対する診療の課題は

-- 先生は、新型対策のためには、足元のインフルエンザ診療を見つめ直すことの必要性も指摘されています。

池松 例年の季節性インフルエンザに対する診療の実際と課題に、これまで以上に敏感であって欲しいと思います。

-- 先生も参加されている日本臨床内科医会は、「インフルエンザ診療マニュアル2007-2008年版」を作成しています。季節性インフルエンザに対する診療の実際と課題を把握する上で、貴重な資料といえると思います。この特集でも、日本臨床内科医会の協力の下で、そのエッセンスを掲載させていただきました(表1、関連記事)。

表1 今日のインフルエンザ診療のポイント(出典;日本臨床内科医会「インフルエンザ診療マニュアル2007-2008年版」)

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(No.1)
典型的な症状を示さない患者が存在する

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(No.2)
診察室で実施可能な迅速抗原検出キットを使いこなす

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(No.3)
抗インフルエンザ薬の種類と特徴を再確認する

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(No.4)
治療薬の予防投与と解熱薬あるいは抗菌薬の留意点

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(No.5)
ウイルスの動態を知ることから始まる感染予防

【連載】インフルエンザ診療マニュアル2007(最終回)
インフルエンザワクチンの有効性と安全性を知る

池松 この中では、「抗インフルエンザ薬の種類と特徴を再確認する」という点は大切です。新型インフルエンザ対策上も、治療の重要性は変わりません。もちろん耐性ウイルスの発生についても敏感であるべきです。まだ先の話でしょうが、新しい薬の開発も進めるべきです。

-- 薬剤の併用という点では変化はありますか。

池松 福岡県の内科医会が実施した3年間の調査では、抗ヒスタミンや抗コリン薬を含む総合感冒薬の使用やNSAIDなどの定期的な使用は減少しています。その一方で、抗インフルエンザ薬とアセトアミノフェンなどの解熱剤の頓用が中心になってきているようです(参考文献1)。これは、迅速診断キットの普及によって診断精度が向上しただけでなく、ノイラミニダーゼ阻害薬による治療効果の理解が進んだ結果だと思われます。

-- クラリスロマイシンについて期待している点があるともうかがいました。

池松 インフルエンザ罹患時に抗菌薬の投与を受けた患者で、クラリスロマイシンが咳や鼻汁の改善を早めていることが報告されています(参考文献2)。これは、クラリスロマイシンが持っている抗サイトカイン効果による可能性が高いと指摘されているのです。新型インフルエンザ流行時には、重症例に対する治療として抗サイトカイン療法の必要性も指摘されています。

-- パンデミックでは、死に至る病態として免疫系が過剰に反応して発生する「サイトカインストーム」の影響が指摘されています。

池松 ステロイドがダメであるという状況ですから、具体的な抗サイトカイン療法として、どの程度の効果を示すかは分かりませんがクラリスロマイシンによる治療なども検討する価値があると思います。確実な治療法が確立されるまで、いろいろな可能性を検討する必要があると思います。

-- 小児で問題となった異常行動発現については、「オセルタミビルを服用したかどうかによらず、インフルエンザ罹患時に異常行動が発現することが明らかになった」という調査結果が出ました(関連記事)。

池松 この点は重要です。抗インフルエンザ薬が異常行動の起こるリスクを高める可能性は残されているわけですが、インフルエンザそのもので異常行動が出ることを念頭に、臨床医は今後、常に異常行動には留意しないといけません。

-- 小児以外ではいかがですか。先生は高齢者について色々と発言されています。

池松 高齢者の肺炎の合併も留意すべき点です。日本臨床内科医会のインフルエンザ研究では、抗インフルエンザ薬の投与を受けた患者で、小児や成人の肺炎合併率は1%以下でした。しかし、高齢者では高く、65~79歳では2%、80歳以上では13%と高率でした。外来通院の高齢者であっても肺炎の合併が少なからず認められます。高齢者のインフルエンザに合併する肺炎のほとんどは、二次性の細菌性肺炎です。適切な抗菌薬での治療が有力です。つまり、高齢者では肺炎合併の可能性を常に念頭において診療に当たるべきなのです。

 それから、高齢者の場合、肺炎合併率が高いだけでなく、インフルエンザの罹患を機に、摂食量が低下し、日常生活における活動がさらに低下、そのまま寝たきり状態になってしまう危険があります。認知機能障害が進行する懸念もあります。高齢者のインフルエンザ治療では、必要に応じて輸液や栄養補給のための流動食を導入するなどきめ細かな対応が求められているのです。

-- 季節性インフルエンザの診療の中に、新型対策で重要となる治療の姿も見えてくるようです。

池松 季節性インフルエンザに対する診療を続けることは、新型インフルエンザに対する治療の基礎固めにほかありません。これは地道ですがとても重要なことです。

【参考文献】
1)近藤浩子、池松秀之、鍋島篤子ほか:2002/2003年、2003/2004年、2004/2005年の流行期3年間の福岡県におけるインフルエンザ診療の変化について(投稿中)
2)池松秀之、廣津伸夫、河合直樹ほか:インフルエンザ時の咳および鼻汁に対するクラリスロマイシンの効果.化学療法の領域 2006;22,1915‐1920

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