新型インフルエンザ対策では、まさに「地域力」を問われる。福祉保健所や病院、医師会や薬剤師会などの医療機関に限らず、消防、警察、教育委員会、自治体と関係機関を総動員して対応しなければならないからだ。沖縄県の離島である宮古島では、この地域力を高めるべく、宮古病院の感染対策チームが主導する格好で新型対策が進んでいる。2月に開催された日本環境感染学会では、宮古病院の森博威氏らが現状を報告した。

 宮古病院の感染対策チームは、(1)新型インフルエンザが宮古島で流行した場合、島内の感染者、入院患者、死亡者を少しでも減らすためにできる限りの準備を行う、(2)新型インフルエンザ流行時、院内感染を防ぎ、職員が安心して安全に働くことができる環境整備を行う--の2点を目標に掲げ活動を続けてきた。

 これまでに、季節性インフルエンザ対策と新型インフルエンザ対策を両輪とし、様々な行動を展開している。前者では、院内感染対策として、職員のの向上、院内マニュアルの作成、予防接種外来の設置--などに取り組んできた。また、島内の感染予防対策として、マスクキャンペーンや学童集団予防接種の公費負担の実現に尽力した。

 たとえば、職員の予防接種率は、2001年度に53.0%だったものが2006年度には93.2%にまで上昇している。マスクキャンペーンでは、福祉保健所との連携でマスク自販機を購入し普及に努めた結果、2007年度のピーク時に400箱(4月時点)以上の販売があるなど、流行時のマスク着用が浸透しつつある。特筆すべきは、学童集団予防接種の公費負担の実現。2007年11月から12月にかけて、宮古島市における小中学生を対象に実施した。結果、実施率は小学校と中学校をあわせて61.1%となり、目標とした60%を達成している。

 一方、新型インフルエンザ対策では、宮古島健康危機管理会議に参加。新型インフルエンザのシミュレーションを提案するほか、新聞への投稿や説明会の開催などの啓蒙活動を展開した。また、関係機関へのアンケート調査を提案したり、活動計画立案の手引き作成に参加したりと各機関への説明にも尽力してきた。

図1 新型インフルエンザ対策について宿泊施設の行動計画(マニュアル等)があるか

図2 新型インフルエンザ感染防止のために必要な手指消毒薬・ティッシュ・マスク・廃棄物専用容器などを準備しているか

図3 日頃から、手洗い・うがいの励行を行っている

 ここで、福祉保健所が実施したアンケート調査の結果を一部紹介したい。宿泊施設を対象に新型インフルエンザ対策の取り組みを調査したものだが、手洗い・うがいの励行は75%が実施しており、手指消毒薬・ティッシュ・マスク・廃棄物専用容器などの準備は41%と半数近くが取り組んでいた(図1、2)。しかし、宿泊施設の行動計画(マニュアル等)については89%が「未着手」と回答、宿泊施設の新型インフルエンザ対策が後手に回っている実情が浮かび上がっている(図3)。

 アンケートは、高齢者施設、学校、事業所、保育所などを対象にも行っているが、結果は宿泊施設と同様だった。今後は、各施設に対して行動計画の手引きを配布するとともに、講習会を開催し、流行時の対策力を高めることにしている。

 宮古病院は309床の救急病院で、宮古島内唯一の感染症指定医療機関である。新型出現となれば、診療の中心的な機関にならざるを得ない。これまでのシミュレーションでは、新型インフルエンザが流行した場合、宮古島における推定死者数は103人、推定入院者数は329人、推定外来受診者数は1万4841人となっている(流行期間8週間として算定、それぞれ最大推定値)。1年間の救急室総受診者数が1万8000人ほどなので、これにほぼ匹敵する数の外来患者がわずか8週間の間に宮古病院を訪れる可能性が高いわけだ。

 森氏は、1病院だけでは大量の患者発生を防ぐことは困難と指摘する。「病院以外の機関の感染対策を支援することが必要」(森氏)なのだ。地域力をあげる努力は、今後も続けていく意向だ。もちろん病院自体の対応力を向上させる取り組みも続ける。5月末には、2回目となる患者発生シミュレーションを行う予定だ。

【訂正】
4月15日に以下の訂正を行いました。
・最後から2つ目の段落に「沖縄県内唯一の感染症指定医療機関」とありましたが、「宮古島内唯一の感染症指定医療機関」の間違いでしたので訂正しました。