ダチョウの卵から、高病原性鳥インフルエンザウイルスを不活化する抗体を大量に生産する方法が開発された。大阪府立大生命環境科学研究科の塚本康浩氏らが手がけているもので、この方法を応用した鳥インフルエンザ抗体マスクの商品化も進んでいる。

 塚本氏らは、3種のインフルエンザウイルスワクチン株(A/H1N1、A/H3N2、B/マレーシア)のHA抗原混合液や高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5リコンビナント蛋白を用い、産卵ダチョウに免疫して卵黄からそれぞれの抗体(卵黄抗体、IgY)を大量精製する方法を確立した(図1)。

図1 ダチョウの卵を使った抗体精製法(塚本氏)

 精製した抗体のインフルエンザウイルスに対する力価は、ウイルスを固相化したELISA法により検証。3種HA抗原混合液で免疫した抗体は、H1N1、H3N2、Bのそれぞれのヒト・インフルエンザウイルスに高い反応性を示し、一方のH5リコンビナント蛋白で免疫した抗体の方もH5N1ウイルスに高い反応性を示した(表1)。

表1 インフルエンザウイルスに対するダチョウ卵精製抗体の力価(各ウイルス抗原を固相化したELISAによる検証)

 また、インフルエンザウイルス野外株(100例)に対する中和活性も調べているが、3種HA抗原混合液で免疫した抗体は、ヒト・インフルエンザウイルスに対する高い中和活性能を持っていることが分かった(表2)。

表2 インフルエンザウイルス野外株(100症例)に対する中和活性(研究協力;大阪府立公衆衛生研究所)

 H5リコンビナント蛋白で免疫した抗体についても、培養細胞であるMDCK細胞あるいは発育鶏胚への感染実験を行い、ウイルス不活化作用を検証した。その結果、MDCK細胞あるいは発育鶏胚のいずれの中和試験でも、高い中和活性能を持つことが確認された(表3、4)。

表3 MDCK細胞による中和試験(研究協力;インドネシアのボゴール農業大学)

表4 発育鶏卵による中和試験(研究協力;インドネシアのボゴール農業大学)

 塚本氏らは、ダチョウの卵黄による精製抗体の応用として、インフルエンザウイルス拡散防止素材、具体的にはマスクやフィルターを想定している。ダチョウ抗体保持フィルター(マスク)については、これまでに抗体保持量の検証と反応時間の検証を行った。

 濃度の方は、1μg~1000μgの各濃度のダチョウ抗体保持フィルターにH1N1ウイルス液を10分浸透させ、その洗浄液のウイルス力価をMDCK細胞を用いた感染抑制率として算出した。その結果、抗体保持量1μg/保持フィルターですでに100%の不活化率を達成、10μg、100μg、1000μgの各濃度でも100%の不活化率を維持していた(表5)。

表5 ダチョウ抗体保持量の検証

 一方の反応時間については、100μgの抗体保持フィルターに、H1N1あるいはH5N1ウイルス液を1秒あるいは10分間浸透させ、その洗浄液のウイルス力価をMDCK細胞を用いた感染抑制率として算出した。その結果、1秒の浸透でも99.9%の感染抑制率が確認された(表6)。

表6 H5N1ウイルスとフィルターの反応時間の検証

 塚本氏らは、商品化の第一弾として、高病原性鳥インフルエンザウイルスを不活化する抗体マスクの開発を目指しているが、その前提として、インドネシアのボゴール農業大学との共同で、H5N1の鳥‐鳥感染実験も実施している。

 ダチョウ抗体(3種HA抗体+H5リコンビナント抗体)を保持した不識布で作成したケージにH5N1に感染したニワトリのヒナを入れ、その周りで正常ヒナを飼育し効果を確認した。実験では、抗体保持フィルターと抗体を保持していないフィルターの2種類を用意、それぞれを別々のケージに入れ、周りの正常ヒナの3日後の死亡率を比較した。その結果、周囲のヒナの死亡率は、フィルターのみの場合50%に達したが、抗体保持フィルターの方は0%で、その有効性が確認された。

ダチョウの卵でインフルエンザウイルス不活化抗体の大量精製法を開発した塚本氏

 ダチョウの卵黄による精製法を使うと、1羽のダチョウから年間400gの抗体が精製可能となる。卵1個当たり2~4g採取可能で、半年間で計算すると、ウサギの400~800倍の量が採れることになる。生産コストも低く、ニワトリを使って精製した場合に比べ30分の1のコストで済むという。また、1羽から大量に採取できるためロット間の差が少ないメリットもある。これらのことから塚本氏は、「抗体の工業的な使用に十分に適する」と話している。

 現在、塚本氏らのグループは、文部科学省の科学技術新興機構(JST)の独創的シーズ展開事業・大学発ベンチャー創出推進プロジェクトとして、抗体マスクの商品化に取り組んでいる。2008年中に医療従事者を対象とした抗体マスクの発売を目指し、すでにパイロット販売に乗り出している。

◆お知らせ
 日経メディカルオンラインは2008年7月1日、新型インフルエンザ対策の情報共有の場を提供するサイト「パンデミックに挑む」を開設しました。日本各地で進められている対策の「今」をリポートするとともに、可能な限り多くの課題を抽出し、その解決策を探っています。新型インフルエンザについて疑問、質問がありましたら、こちらの「お問い合わせフォーム」でご連絡ください。訓練の予定、講演会やイベントの情報などもお待ちしております。