■ 新型に直面すれば、個々人の「決断」が求められる

-- 論説「新型インフルエンザ・パンデミック対策をめぐる諸問題」(関連情報)の中で、パンデミックに一生懸命に取り組もうとしないパターンとして、以下の点を指摘されています。パンデミック対策に取り組む人のセルフチェック、あるいは戒めともとれます。

1. 実は理解していない人。あるいはレセプターのない人
2. 確信犯的に、そんなパンデミックなど起きはしないと考える人、あるいはまだまだ起きないだろうという潜在的願望を含めた楽観論者
3. 言葉では分かっているものの、自分に降りかかるイメージとして捉えられない人
4. 大事なのは分かっているが、自分の目の前の仕事で精一杯で、「だれか考えてくれるだろう」「これは他人の仕事だ、だれも考えないのは、考えない誰かが悪いのだ」とする他人任せ
5. 何かやらねばと思いつつ何をやったらよいか分からない人
6. 自分と自分の家族はとりあえずタミフルで守れるから、他人は誰かがなんとかすればいいという利己的な人
7. 目の前に事が起きなければ何もしないで、自分が責任を問われない程度に、とりあえずお付き合いして、自分に仕事として回されてきた時が過ぎるのを待っている人
8. これらの間のいくつかの組み合わせ

表1 パンデミックに一生懸命に取り組もうとしないパターン

西村 自らがどのような状態なのかを知る機会になるかもしれません。反面教師にしてもらいたいものです。

-- 先生が主宰されている宮城パンデミック・インフルエンザ研究会は、さまざまな活動を続けています。以下の翻訳は成果の一つと認識していますが、それぞれの狙いは何だったのでしょうか。

西村 研究会は2001年2月から続けているものです。県や市の職員の方にも参加してもらっています。「地域のプランニングガイド」は、米CDCが1999年に発行した「新たなインフルエンザの世界的大流行(パンデミック)」の発生に備えて地方当局が対策を立案するための指針、 Pandemic Influenza: A Planning Guide for State and Local Officials (Draft 2.1 ) の完訳です。これと照らし合わせながら、各自治体の行動計画などを、もう一度見直してほしいと思います。

 「天然痘ワクチン接種クリニックガイド」は、米CDC(疾病管理予防センター)が2002年9月に発表した「Smallpox Response Plan and Guidelines Draft3.0 」(天然痘対策計画・指針)の一部がのちに改訂されてできた「Smallpox Vaccination Clinic Guide」(天然痘ワクチン接種クリニックガイド)の日本語版です。「天然痘ワクチン」を「新型インフルエンザワクチン」に読み替えれば、十分に新型に応用できると思います。

 3つ目の「自己チェックの手引き」は、米国で2002年に発行された「Influenza Preparedness Planning for State Health Officials」(地方の保健担当者のためのパンデミック・プランニング自己チェックの手引き)の完全対訳です。地方の担当者の方にはぜひ読んでいただきたいものです。

地域レベルのパンデミック・プランニングなどを発信し続けるホームページ「わいらす」

-- 最後に、先生が書かれた数々の新型インフルエンザ論説にかなりの頻度で登場する「リーダーシップ」についてうかがいます。まず国レベルではいかがでしょうか。十分に機能していると見えますか。

西村 今は厚生労働省中心の体制になっています。でも新型インフルエンザに対応するには、医療以外の分野の出動も必須になります。たとえば自衛隊の医療活動も当然、考えておかなければなりません。その意味では、厚生労働省だけではなくて、内閣の直下に新型インフルエンザの危機管理をする組織を持っておくべきと思います。

-- 地方レベルではいかがですか。金太郎飴の行動計画しか持たない自治体では、実効性が期待できないのではないかと危惧するのですが・・・。

西村 パンデミックはいつきてもおかしくない状況です。そう言われ続けてだいぶ経ちますが、どうもオオカミ少年症候群とでもいうのか、言っている方も疲れてきているし、言われている方は不信感を募らせているようにも思えます。これは「非常時の対応」にしかなっていないからでしょう。そうではなくて、「常時の対応」へ切り替えていかなければなりません。目の前の危機に備えるという日常の体制を整える必要があります。

 結局、最後に効いてくるのは「地方のリーダーシップ」です。行政では各自治体の首長の力量が問われることになります。また、パンデミックが始まった場合、地方で活躍している医療関係者はもとより、公衆衛生学の専門家、保健衛生に携わる人々は、個々の「決断」が求められる場面に出くわすはずです。地方のリーダーシップを支えるのは、こうした個々の「決断」の積み重ねになるはずです。

-- 昨年12月初めに中国の南京市付近で、高病原性鳥インフルエンザの人感染例がありました。最初は息子(死亡)でその後、父親も感染していることが分かりました。父親の方は回復の方向のようですが、両者とも感染ルートは不明です。またつい最近も、新たにパキスタンやミャンマーでも相次いで人感染例が発生しました。危機は高まっていることを物語る事例だと思います。

■関連情報
・地域のパンデミックプランニング 2006年 第1号
自治体レベルのプランニング
都道府県の新型インフルエンザ対策『行動計画』を概観する

・2007年第2号
平成19年1月31日版「新型インフルエンザに関するガイドライン(フェーズ4以降)(案)」について
新型インフルエンザ・パンデミック対策をめぐる諸問題