
埼玉県立大学学長の三浦宜彦氏
2012/13シーズンのインフルエンザワクチンの需要数は、2836万から2851万本(1mL換算)と推計されることが明らかになった。根拠となる2011年度のワクチン接種率は全体で39.0%と推定され、2010/11シーズン以降、40%近くで推移していた。厚生労働科学研究である「インフルエンザワクチン需要予測に関する研究」の成果について、研究代表者を務める埼玉県立大学の三浦宜彦氏に、そのエッセンスを語ってもらった。
―― 今年は、厚生労働省のインフルエンザワクチン需要検討会が開かれなかったため、インフルエンザワクチンの需要予測が不明でした。ただ、ベースとなる「インフルエンザワクチン需要予測に関する研究」は2011年度も実施されたということですので、まずは、その成果をうかがえればと思います。
三浦 われわれが取り組んでいた研究は、インフルエンザワクチン接種の実態を把握することが目的です。そのために2011年度は、都道府県ごとに無作為に抽出した2539件の医療施設などを対象に、インフルエンザワクチン接種状況を調査しました。
その結果、2011年度のワクチン接種率は、3歳未満が50.5%、3歳以上13歳未満が56.8%、13歳以上65歳未満が30.0%、65歳以上が56.4%というデータが得られました。全体では39.0%になります。
2011年度のワクチン接種率をもとに、次年度のワクチン需要数を求めるのですが、今回の調査結果から、3026万から3040万本と推計されました。ただし、今回の調査では東日本大震災の被災地を多く抱える岩手、宮城、福島の3県を対象から外しています。現地は調査どころではないという状況でしたから致し方ないことでした。この数値は、人口比によって3県も含めた全国値にしてあります。
―― 多く見積もった場合の数字とみていいのでしょうか。
三浦 確かに最近の動向をみると、小児の接種率は過大に予測する傾向にあります。ですから、長期的な変化を考慮する場合は、2836万から2851万本程度の可能性もあります。
この研究では次年度のワクチン需要数の予測だけでなく、その年の実際の使用本数についても調べており、2011年度には全国で2648万本が使用されたものと推計しています。一方、厚生労働省でもワクチンメーカーを通じて、実際の使用本数を集計しており、2011年度の使用本数は2510万本でした。
―― 最大で3026万から3040万本、過大に出やすい小児の接種率を考慮した場合などは2836万から2851万本程度、と考えてよろしいでしょうか。
三浦 図1にインフルエンザワクチン使用量と接種率の予測をまとめました。2011年度の研究の結果、20112/13シーズンは、最大値3040万本、最小値3026万本と推計されました。ただ、調査をお願いしている医療機関は無作為に選んでおりますが、回答医療機関には多少の偏りがあります。過去のデータはすでにこの補正を済ませておりますが、2011年度の調査結果は補正前ですので、補正を行いますと全体に5%程度少なくなる見込みです(図1)。
また、過大に出やすい小児の接種率を考慮した場合は、2800万前後に落ち着く可能性もあります。

図1 インフルエンザワクチン使用量と接種率の予測[クリックで拡大]
―― これまでの動向を振り返ってみると、どのような点が浮かび上がってくるのでしょうか。
三浦 もう一度、図1を見ていただきたいと思います。全体の傾向としては、ワクチン使用量は、2012/13シーズンこそ2500万本を超える見込みとなっていますが、総じて2500万本当たりで頭打ちの傾向にあります。
―― 接種率についてはいかがでしょうか。
三浦 年齢層別にみると世代間格差が明瞭です。13歳未満、13歳以上65歳未満、65歳以上でみていますが、接種率が過大に出やすい13歳未満は多少でこぼこしていますが、全体としてみると、13歳未満は60%前後、13歳以上65歳未満は30%前後、65歳以上は55%程度に落ち着いてきているのが分かります。
―― シーズンごとにみると、例えば新型インフルエンザが発生した2009/10シーズンでは、各年齢層も接種率が下がっています。
三浦 季節性インフルエンザワクチンの接種率は下がったということです。翌シーズンは、A/H1N1pdm09も季節性インフルエンザワクチンに含まれるようになりましたので、接種率は上がっています。
―― 2002/03シーズンのところに「SARS発生」とあります。
三浦 詳しい検討はこれからですが、インフルエンザとまったく異なるSARSであったにも関わらず、翌年のインフルエンザワクチンの接種率にも影響が出ていたようです。
―― その前シーズンには、「予防接種法改正」と記されています。
三浦 この時の改正で、高齢者のワクチン接種費用の一部を公費で負担する道が開きました。65歳以上の接種率が倍増していることが分かります。
―― 図1は、昨シーズンの小児における接種量の変更にあわせて年齢層を区分しています。以前のものでは、1歳未満、1歳以上6歳未満、6歳以上13歳未満と、13歳未満は3つの年齢層に分かれていました(図2)。こちらをみると1歳以上6歳未満、6歳以上13歳未満では、2009年度から接種率が急増しています。

図2 2010年度までのインフルエンザワクチン使用量と接種率の予測[クリックで拡大]
三浦 これらは、やはり新型インフルエンザの発生の影響だと思われます。ただし、2009年度の減少が特別なことで、2010年度は、それ以前の水準に戻ったにすぎません。
―― 「インフルエンザワクチン需要予測に関する研究」は、2011年度をもって一区切りとなるようですが、これまでに積み上げてこられた成果は、インフルエンザ診療の基盤を支えてきたものだと思います。今後はどのような展開が考えられるのでしょうか。
三浦 ワクチンの接種率が落ち着いてきたこと、さらには2009年度の新型インフルエンザ発生時のように急激な需要の変動があった場合でも供給側の潜在対応力がしっかりしていることなどを考慮するなら、「インフルエンザワクチン需要予測に関する研究」の目的は達したと言えるのではないでしょうか。今後は、これまでのデータを別の視点、たとえばインフルエンザ報道と接種率の関連性などというテーマで、見直してみたいと思っています。ワクチンを接種する側の情報リテラシーがどのように変化してきたかをみてみるのも面白いと思います。