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2008. 7. 29

【用語解説】 UPLIFT試験

 UPLIFT(Understanding Potential Long-term Impacts on Function with Tiotropium)試験は慢性閉塞性肺疾患(COPD;Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の患者を対象に、長時間作用型吸入抗コリン薬であるチオトロピウム(商品名;スピリーバ)の長期吸入が経年的に呼吸機能低下に対する有効性を検討した大規模臨床試験である。プラセボ対照二重盲検比較試験で、2003年に開始された。

 登録対象となる患者は、臨床的にCOPDと診断された40歳以上で、喫煙歴が10パック・年以上、気管支拡張薬投与後にFEV1(1秒量)が予測値の70%以下といった条件を満たす患者(表1)。一方、呼吸器感染症に罹患している、スクリーニングの4週間以内にCOPDの増悪を経験した、1日当たり12時間を超える酸素補給を受けている場合などは登録対象外とした(表1)。

表1 選択基準と除外基準(Decramer M, et al. COPD 2004;1:303-12.)

 選択基準
 
 ・ COPDの臨床診断あり・ 気管支拡張薬吸入後FEV1が予測値の70%以下
 ・ 40歳以上・ FEV1がFVCの70%以下
 ・ 喫煙歴が10パック・年以上・ 呼吸機能測定が実施可能

 除外基準
 
 ・ 呼吸器感染症・ 12時間/日を超える酸素補給
 ・ スクリーニングの4週間以内にCOPDの増悪を経験・ 試験結果に影響を及ぼすと考えられるCOPD以外の疾患または患者の状態
 ・ 喘息または肺切除の既往


約6000人のCOPD患者を4年間追跡

 日本を含む37カ国、450施設から5993人のCOPD患者が登録された。対象患者は、スクリーニング時にスパイロメトリー(呼吸機能検査)を実施した後、チオトロピウム投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付けた。チオトロピウム投与群は18μg/日を毎朝、決まった時間にハンディへラーを用いて吸入する。

 投与開始30日後、その後は6カ月ごとにスパイロメトリーを実施し、FEV1を測定した。FEV1だけでなく、SVC(肺活量)、FVC(努力性肺活量)、QOLなども評価した(表2)。QOLの評価には、SGRQ(St. George’s Respiratory Questionnaire)を用いた。また、併用療法、有害事象や喫煙状況などは患者日記で評価。死亡率に関しては、呼吸器関連と全死亡の両方を副次的評価項目とした。

表2 評価項目(Decramer M, et al. COPD 2004;1:303-12.)

 評価項目
 
 主要評価項目:朝の薬剤投与前FEV1の投与30日目(定常状態)からの低下率
薬剤投与後FEV1の投与30日目(定常状態)からの低下率
 その他の評価項目:SVC(肺活量)、FVC(努力性肺活量)、SGRQ(St. George’s
Respiratory Questionnaire)によるQOL評価、増悪とそれに
伴う入院、死亡率(呼吸器関連および全死亡)


 なお、吸入抗コリン薬を除き、先行治療および増悪時の治療において、薬剤の制限はしていない。
 以上の検討を4年間にわたって実施した(図1)。そのため、UPLIFT試験は症例数においても、追跡期間においても、過去最大規模の臨床試験といえる。

図1 試験デザイン(Decramer M, et al. COPD 2004;1:303-12.)

図2 ベースライン時の患者背景(GOLDによる重症度分類)(Tashkin DP, et al. Eur Respir J 2008;31:742-50.)

登録患者の46.6%が中等症

 初期登録された5993人のうち、気管支拡張機能検査の基準を満たした5756例が最終的な検討対象となった。

 ベースライン時の患者背景をみると、GOLD(Global Initiative for Obstructive Lung Disease)による重症度分類では、中等症が46.6%と最も多かった(図2)。

 使用薬剤については、93.1%の患者が何らかの呼吸器官用薬を使用していた。種別にみると、短時間作用型β2刺激薬(SABA)が68.5%と最も多かった(図3)。

図3 ベースライン時の患者背景(使用薬剤)(Tashkin DP, et al. Eur Respir J 2008;31:742-50.)

10月に欧州呼吸器学会(ERS)で結果発表

 健康な人でも加齢によって呼吸機能は徐々に低下するが、COPD患者ではその低下速度が加速される。2006年のERJ(European Respiratory Journal)には、世界の40歳以上の有病率は9〜10%と発表されている。

 一方、国内の調査としては、NICE (Nippon COPD Epidemiology)スタディがあり、40歳以上の人の8.6%、つまり約530万人以上がCOPD患者と推定されている。また、厚生労働省が集計したデータによると、COPDは死因の10位であり、呼吸器疾患としては肺炎に次ぐ高い死亡率を示している。しかし、COPDは診断率が低く、約5%の患者しか治療を受けていないと推測されている。

 UPLIFT試験は登録患者が約6000人という、COPDの臨床試験として過去最大規模のスケールで検討されている。しかも、吸入抗コリン薬を除くと、その他の治療法には制限がなく、日常臨床のリアルワールドに限りなく近い試験に位置づけられる。これまでの試験に比べて、中等症の中でもより軽症な患者が登録されており、早期発見・早期治療に対して貴重な示唆が得られるものと期待されている。

 従来のCOPDに対する薬物療法では、症状改善は認められたものの、呼吸機能の経年的な低下の抑制効果は認められていない。しかし、長時間作用型吸入抗コリン薬チオトロピウムの投与により、呼吸機能の改善、COPDの進行抑制というデータが得られれば、COPDの治療概念が一新される可能性は十分にある。

 なお、UPLIFT試験の結果は、2008年10月にドイツ・ベルリンで開催される欧州呼吸器学会(ERS)で発表される予定だ。

(日経メディカル開発)

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