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誤嚥の原因疾患が診断されることの意義

2021/04/27

 皆さまはどのような春を迎えておられますか。私事ではありますが、このたび、『誤嚥性肺炎の主治医力』と題して、書籍を出させていただきました。私のつたない文章はさることながら、インタビューを通じて、現場の声をたくさん取り入れています。これまで育てていただいた多方面の先達に、なかなか聞けない本音を目いっぱい、語っていただいています。本連載のイラストも担当するYurika Hiranoの挿絵とともに、お楽しみください。

 また、飯塚病院には今年も希望に満ちた若手が仲間入りしてくれました。問診や診察を丁寧に行うことで、誤嚥の原因が見つかるきっかけになることを前回お伝えしましたが(前回記事)、このことを日々の診療のなかで彼らに伝えていければと思っています。
 
 では、誤嚥の原因疾患を診断したからといって、それにどんな意義があるのでしょうか。今回はそんなことを、図1にまとめました。6割の症例では、原疾患の治療とともに、誤嚥も予防できていました。例えば、重度逆流性食道炎や薬剤性パーキンソニズムなどがこれに当たり、原疾患が発見されなかった場合と比べて、生活の質や予後、肺炎の再発率を改善できていると期待されます。続いて2割弱の症例では、原疾患が根治しなくとも、誤嚥の予防が可能でした。例えばパーキンソン病に対して抗パーキンソン薬が効果を示すと、体の動きが滑らかになり、咽頭通過も上手くいきますね。約1割の症例では、原疾患の治療ができないものの、訓練や食事内容の調整により、誤嚥の予防が可能でした。脳卒中などが代表例になります。

図1 誤嚥の原因疾患が診断されたことの意義
Yoshimatsu et al, Geriatr Gerontol Int 2020; 20: 785-90. のFigure 4を改変)

誤嚥性かもしれないという認識で診療する

(イラスト:Yurika Hirano)

 市中肺炎や院内肺炎の診断基準は国内でも世界的にも確立しています。私たちも授業や研修で学び、ガイドラインで都度、確認します。一方で、誤嚥性肺炎の診断基準は未だ、はっきり定まったものがありません。誤嚥を来しやすい病歴や、口腔内の不衛生、画像で背側や下肺野優位に浸潤影を認めることなどを踏まえて総合的に診断するというのは、ある程度共通した認識になってきています。しかしなかなか統一した基準がなく、周知することも難しいため、臨床現場では担当医の勘で判断せざるを得ないのが実情です。

 なかには、誤嚥性肺炎であるのに、誤嚥性ではないとしてしまうことも少なくありません。すると、誤嚥の原因疾患が診断されず、肺炎を繰り返してしまうかもしれません。逆に、もし誤嚥性肺炎ではないのに、誤嚥性肺炎を疑って対応した場合にはどうでしょうか。誤嚥性だからと絶食にしたり、不必要にとろみをつけてしまったりと、患者さんにとってよくない対応になっていたかもしれません。一方で、誤嚥性かもしれないからと、病歴聴取や診察を丁寧に行い、口腔ケアを徹底し、食事場面を観察してみた場合はどうでしょうか。結果的に嚥下機能がしっかりしているようなら、誤嚥性肺炎ではなさそうと判断するのは、あとからでも問題ないでしょう。あるいは、そうした対応が、原因診断や再発予防につながるかもしれません。

 入り口の段階で誤嚥性肺炎であるかどうかを見極めることに必死になるよりも、もしかしたら、誤嚥性かもしれないという認識で丁寧な診療を行う視点の切り替えが、高齢者肺炎の診療には、求められているのかもしれません。誤嚥性肺炎の診断についてずっと考えてきた私の、今のところの考えです。皆さまはどう思われるでしょうか、ぜひ聞かせてください。

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著者プロフィール

吉松 由貴(よしまつ ゆき)氏。大阪大学卒。淀川キリスト教病院での初期研修、同院呼吸器内科での後期研修を経て、現職は飯塚病院呼吸器内科勤務。現職の間、浜松市リハビリテーション病院、聖隷浜松病院で摂食嚥下に関して国内留学。日本摂食嚥下リハビリテーション学会評議員。バルセロナ自治大学嚥下障害修士課程を卒業。兵庫医科大学 研究生(生理学講座、生体機能部門)。Twitterは@yukiy0105。

連載の紹介

吉松由貴の「誤嚥性肺炎、診療の知恵袋」
誤嚥性肺炎は、すんなりと治る病気ではありません。繰り返したり、命に関わることも多いのです。そんな誤嚥性肺炎の診療に、若手医師が日々どのような姿勢で挑んでいるのかを具体例を交えながらつづります。

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