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意識障害と誤嚥性肺炎の関係に潜むワナ

2021/01/21

 意識障害と誤嚥性肺炎の関係に潜むワナについて、以前少しお話ししました(関連記事)。当直中は特に、分かっていても引っかかってしまいやすい罠です。今回は、そんな当直中に出会った患者さんのお話しです。

症例 他院で肺炎を治療中の70歳代の女性が、突然の意識障害と呼吸抑制を来したため、深夜に搬送されてきました。到着時には意識は回復していたものの、呼吸状態が悪いため呼吸器内科へ入院となりました。5カ月前にも肺炎を起こし、以後ずっと微熱や痰が続いているそうです。両肺にびまん性細気管支炎のような陰影があり、結核の可能性も考えて念のため隔離としました。しかし、意識障害の原因がはっきりしません。なぜ呼吸抑制を来すほどの意識障害が、到着時に回復していたのでしょうか。判然としない状況を、そばにいた研修医に呟いていると、思わぬことに気づいてくれたのです。

 意識障害が原因となり、誤嚥性肺炎を来すことはよくあります。逆に誤嚥性肺炎により活気が低下し、意識障害を来すこともあります。この因果関係をはっきりさせず、「意識が悪い方の誤嚥性肺炎」とひとくくりになってしまうことがあります。意識障害のため誤嚥性肺炎を来しているなら、意識障害の精査が必要です。誤嚥性肺炎のため意識レベルが低下しているなら、誤嚥する原因を精査します。因果関係をはっきりさせることから、診療が始まるのです。

 今回は、細気管支炎や結核が疑われて呼吸器内科に入院になった患者さんです。意識障害は一時的でしたが、失神というには長く、また呼吸抑制も説明がつきません。頭部CTを繰り返し見ていると、「延髄が白くないですか」と隣にいた研修医が気づいてくれました。確かにさきほど撮影されたCTで、延髄全体が白いのです。あわててもう一度診察すると、半身のしびれや温痛覚障害があります。詳しく聞くと、数年前に入浴中に左半身が暖かく感じないため他院を受診したところ、延髄に異常があると言われ、定期的にMRIを撮っているそうです。肺炎には関係ないと思い、前医でも言わなかったようです。

 詳細を問い合わせると、延髄の海綿状血管腫を経過観察されていました。脳外科医とも相談し、海綿状血管腫の出血が、今回の意識障害や呼吸抑制の原因と分かりました。

 血腫がいったん安定すると、今回のように意識が回復して神経症状も軽減することがあるようです。降圧、安静、止血剤の投与による保存的治療で、出血は軽快しました。しかし、呼吸状態が安定しません。ベッドサイドでの嚥下評価ではあまり異常はなかったものの、嚥下訓練や飲水後に呼吸状態が悪化するので嚥下内視鏡を行ったところ、不顕性誤嚥(咳の出ない誤嚥)が判明しました。結核かと思われた慢性的な微熱や痰、びまん性細気管支炎は、徐々に増大する血管腫により嚥下障害が生じたことによる、びまん性嚥下性細気管支炎の症状だったのです(関連記事)。

(イラスト:Yurika Hirano)

 様々な代償手段を試しても誤嚥が改善しません。そこで、経口摂取は中止し、嚥下の間接訓練(食べ物を使わない訓練)を行いながら、栄養は経鼻胃管で投与することとしました。また、歯科衛生士による専門的な口腔ケアも取り入れました。これにより呼吸状態は驚くほど改善しました。

 しかし、2週間後の評価でもやはり嚥下機能は改善しません。経鼻胃管は8Frの細いものを使っていましたが、それでも嚥下訓練の妨げにもなります。多職種やご本人、ご家族との相談の結果、胃ろうを選択されました。造設にともなう合併症も考えると、勇気のいる決断でしたが、それからは気道分泌物が減り、咽頭感覚も改善し、訓練効果が出やすくなりました。発症後2カ月して、近隣の回復期病院へ転院し、より熱心なリハビリに取り組まれた結果、自宅へ退院ができるまでに回復しました。後日、胃ろう閉鎖もかないました。

 いつもご夫婦で前向きにリハビリに取り組まれていた姿が印象的でした。今も元気に外来に通ってくださっています。診断時に研修医に救われたとともに、治療経過中には各科の先生方や、看護師、言語聴覚士、理学療法士、歯科衛生士、転院先の方々など多くの職種によるチーム医療が実現した結果でした。さらに、院外の専門家にも度々相談させていただき、訓練法を模索したのでした。

 誤嚥性肺炎の診療は、医師一人では決して成り立ちません。張り切って自分でなんとかしようとするのではなく、助けを求めることも、主治医として大切です。この患者さんが教えてくれたたくさんのことを、より広く共有したいと思い、この症例は論文として報告させていただきました( Intern Med. 2020. doi: 10.2169/internalmedicine.5752-20)。よければ画像だけでも、見てみてください(写真1)。

写真1 症例の画像所見
A:延髄海綿状血管腫の出血、B:びまん性嚥下性細気管支炎

※実際の症例をもとに、個人情報に配慮して、改変しています。患者さん、ご家族の了承を得て掲載しています。

※誤嚥性肺炎に関連する情報を、Twitterでも発信しております。よければ、ぜひフォローしてください。@yukiy0105

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著者プロフィール

吉松 由貴(よしまつ ゆき)氏。大阪大学卒。淀川キリスト教病院での初期研修、同院呼吸器内科での後期研修を経て、現職は飯塚病院呼吸器内科勤務。現職の間、浜松市リハビリテーション病院、聖隷浜松病院で摂食嚥下に関して国内留学。日本摂食嚥下リハビリテーション学会評議員。バルセロナ自治大学嚥下障害修士課程を卒業。兵庫医科大学 研究生(生理学講座、生体機能部門)。Twitterは@yukiy0105。

連載の紹介

吉松由貴の「誤嚥性肺炎、診療の知恵袋」
誤嚥性肺炎は、すんなりと治る病気ではありません。繰り返したり、命に関わることも多いのです。そんな誤嚥性肺炎の診療に、若手医師が日々どのような姿勢で挑んでいるのかを具体例を交えながらつづります。

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