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「食欲もなく活気もない」に隠れているあの病気

2020/09/23

 残暑が厳しい折ですが、皆様、夏バテはしていませんでしょうか(おかげ様で筆者の食欲は、衰えることを知りません)。この季節になると思い出す患者さんを、紹介させてください。

症例
 肺炎と低ナトリウム血症のため週末に入院となった高齢患者さんを担当することになりました。認知症があり、ご家族に介護されながら自宅で過ごしています。ご家族によると、夏バテのため、しばらく食欲もなく活気もないそうです。確かに発語がありません。両下葉背側の肺炎に対して抗菌薬治療が開始され、炎症反応は低下し始めています。嚥下評価や食事を開始したいものの、なかなか食べようとしてくれません。どうして食べられないのかとじっと患者さんを見つめていると、あることに気づきました。

 この時期、熱中症で運ばれてきたら肺炎を来していたという患者さんを、よく見かけます。熱中症のために覚醒度や嚥下機能、喀出能が低下し、誤嚥しやすくなるのです。脱水や冷房病、急性アルコール中毒、胃腸炎などの触れ込みで搬送された患者さんも、同様の注意が必要です。いずれも除外診断になるため、病歴や身体所見で合わないところがないか、肺炎や尿路感染症などが隠れていないかを、考えるようにします。

 さて、肺炎のため入院した患者さんと初めて会うときには、その患者さんの普段の様子を知らないということを肝に銘じます。思い込みや決めつけは、危険です。普段の活気や全身状態はどうなのでしょうか。もともと衰弱していた方かと思っていたら、肺炎のために弱っていただけで、加療後に想像以上に元気になって驚いたことはありませんか。会話も通じないほど認知機能が低下していると思いきや、高度の難聴や熱せん妄であったということもあります。また、臥床してばかりかと思えば、実はリハビリテーションでは平行棒を何往復も歩けているということを理学療法士のカルテから知ることもあります。年齢や基礎疾患などの文字情報や入院時の印象から、知らず知らずのうちに先入観を抱いてしまわないよう、注意が必要です。

 今回、患者さんの様子を眺めていてふと気づいたことは何かといえば、なんと、顎関節が脱臼していたのです。ご家族に改めて伺ってみると、「そういえば少し前から全く話さなくなった」と言います。すぐさま徒手的に整復してみると、「なにしとんねん」と元気な声が返ってきました(こんなにうれしかったツッコミはありません)。

(イラスト:Yurika Hirano)

 顎関節脱臼は、救急外来で診療をしていると一度は出会います。「あくびをしていたら顎が外れた」などと、歩いて受診する様子に慣れてしまいます。あるいは歯科治療や内視鏡検査、大笑いをして起こることもあります。しかし、呼吸器内科で診療していて意外と多いのが、高齢者の気づかれていない顎関節脱臼なのです。認知症や精神疾患などに伴い、症状をうまく訴えられない方が多くいます。また自宅や施設から病院へと環境が変わることで、顎関節脱臼による発語や経口摂取の低下も、疾患やせん妄のためと捉えられてしまうことがあります。ある日たまたま関わった職員や、久しぶりに訪ねてきた孫の気づきが、診断につながることがあります。

顎関節脱臼に気づく手掛かり

 いつもより面長の顔、口を閉じない様子、顎関節部の痛みや緊張が手掛かりになります(顎関節部の陥凹と、その少し前方に隆起があると確信が持てます)。診断が早ければ整復も行いやすく、摂食嚥下機能の回復が期待されます。繰り返す場合も、歯科口腔外科など専門科に相談することで、治療へつながります。なにより、顎関節脱臼についてご家族や介護者へお伝えすることで、再発時に早期発見(肺炎や窒息の予防)につながることでしょう。

 脳血管障害などのため錐体路障害を来すと、開閉口が円滑に行えず閉口筋の筋力が低下し、開口しがちになるため特に脱臼しやすくなります。パーキンソン病などの錐体外路症状による筋緊張亢進や運動減少も危険因子になります。精神疾患では薬剤性の錐体外路症状による咀嚼筋の協調不全が関与することもあるため、薬剤歴や他の神経学的所見にも注意します。

 肺炎診療の第一歩は、原因の診断です。顎関節脱臼は、病歴や身体所見から容易に診断できます。しかし、意識的に診なければ、意外なほどに見つからないこともあるのです。開口しがちな患者さんを見かけたら、大人しい患者さんだと思い込む前に、顎関節脱臼の可能性を疑ってみてください。

※実際の症例をもとに、個人情報に配慮して、改変しています。患者さん、ご家族の了承を得て掲載しています。

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著者プロフィール

吉松 由貴(よしまつ ゆき)氏。2011年大阪大学卒。淀川キリスト教病院での初期研修、同院呼吸器内科での後期研修を経て、現職は飯塚病院呼吸器内科勤務。現職の間、浜松市リハビリテーション病院と聖隷浜松病院で嚥下リハビリテーションに関して国内留学。

連載の紹介

吉松由貴の「誤嚥性肺炎、診療の知恵袋」
誤嚥性肺炎は、すんなりと治る病気ではありません。繰り返したり、命に関わることも多いのです。そんな誤嚥性肺炎の診療に、若手医師が日々どのような姿勢で挑んでいるのかを具体例を交えながらつづります。

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