日経メディカルのロゴ画像

マーケティングの達人が語ったコロナ下の増患のヒント

 新型コロナウイルス感染症COVID-19)の流行に伴い、多くの医療機関が患者減少に見舞われる中、病院はどのような戦略を立てるべきか──。オンライン開催された「日経クロスヘルスEXPO 2020」(主催:日経BP、10月14~16日)のセッション「患者はもう来ない!? 病院コミュニケーション戦略の『ニューノーマル』を考える」(日経クロストレンド協力企画)では、病院の実務担当者に加え、企業のマーケティングのプロが登壇し、活発な議論が行われた。

「情緒価値」「未来価値」の重要性を指摘

「患者や住民と『会えなくても近い』関係を築くことが必要だ」と語るモデレーターの竹田陽介氏。

 モデレーターを務めたのは、日経メディカル Onlineの連載コラム「病医院PRレベルアップ講座」の著者である、病院マーケティングサミット JAPAN 代表理事の竹田陽介氏(循環器科医)と、同理事で小倉記念病院企画広報課の松本卓氏。

 セッションの冒頭、竹田氏はコロナ下の病院経営について「従来のように『そこに病院があるから』受診するという状況ではなくなっており、この病院に、この先生に診てもらいたいと思ってもらえるようなコミュニケーション設計が不可欠ではないか」と問題提起。「たとえ患者に会えなくても、真心を込めて様々な手段で情報発信し、『会えなくても近い』関係を築くことが必要だ」と指摘した。具体的には、オンライン、オフラインを組み合わせた形で、「コンテンツ」と「タッチポイント」(接点)をいかに作るかがポイントになると述べた。

 これを受けて、パネリストがマーケティングの考え方や自身の取り組みを紹介。元ネスレ日本の敏腕マーケターとして知られるファンベースカンパニー代表取締役社長・CEOの津田匡保氏は、「ファンベース」の概念に基づくマーケティングのあり方を述べた。ファンベースとは、企業などが大事にしている価値(理念など)を支持してくれる「ファン」を大切にし、そこを起点として中長期的に売り上げや市場価値を高める考え方のこと。津田氏は、「コアなファンが喜ぶ取り組みを行い、『この病院はいいよ』と評判を広げてもらうことが大切」と指摘。ファンが熱意を持って友人などに伝えることで、好意的な評価が様々なコミュニティーで広がるような仕掛けが必要とした。

オンラインで参加したファンベースカンパニーの津田匡保氏は、「ファンベース」によるマーケティングの概念を紹介した。

 「ファンベース」を実践する上でのポイントとして津田氏が挙げたのが、(1)機能価値に加え、情緒価値と未来価値を大切する、(2)自分たちの良いところを探す──の2点。(1)の情緒価値とは、商品やサービスを体験することで生まれるポジティブな感情などのこと。未来価値は、その企業を通して見えてくる未来へのポジティブなイメージ(この病院があるから地域が明るくなる、など)を指す。(2)については、コアなファンの声を傾聴し、自院の良い部分を伸ばしていくことが肝要とした。

 現場の実務者の立場からセッションに参加した相澤病院(長野県松本市)広報企画室室長の久保田篤氏も、情緒価値の重要性を指摘。「地域の生活者に自院の機能価値、情緒価値を理解してもらい、確固たる評判につなげるブランディングが必要」とした上で、「売り込み抜き」で、知識欲に応えたり楽しませるようなコンテンツを提供し、共感や信頼を生むようなマーケティング活動が必要だとした。

相澤病院の久保田篤氏はオンライン参加。自院のコンテンツマーケティングの取り組みを紹介した。

 これまで同院では、出張講座など主にオフラインのイベントを通じて生活者との接点を作り、コンテンツを提供してきた。久保田氏は、今後は自院のファンを中心にオンラインで接点を増やす方針を示し、「コンテンツを量産し、オンラインサロンやオンラインセミナー、アプリなど様々な手段を活用して、生活者と情緒的な結び付きを強めていきたい」と語った。

街づくりに様々な形で貢献

 ITを活用したファンや地域の生活者との接点づくりについて語ったのが、Jリーグ・鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長でメルカリ取締役Presidentの小泉文明氏だ。コロナ下でスタジアムでの集客の制約を受ける中、動画アプリのTikTokや、「ながら視聴」のニーズにも応えられる音声配信アプリstand.fmなども活用し、幅広い年齢層のファンに情報を発信。ファンとのつながりを維持し強めていることを紹介した。

オンライン参加した鹿島アントラーズの小泉文明氏。コロナ下でのファンとの様々な接点づくりの取り組みを語った。

 一方で、ファンの数や収益を増やす上では、地域の魅力や活力を高めていくことが大切との考えから、街づくりの取り組みにも注力。「正しいテクノロジーを正しいところで使う」方針の下、地元企業のデジタル化の取り組みを支援したり、住民の利便性を高めるため、市中での生体認証システム導入などの準備をしていることを明らかにした。

 街づくりについては、谷田病院(熊本県甲佐町)事務部長の藤井将志氏が、自院や関連法人を通じたユニークな取り組みを紹介した。教育の場の不足が地域の発展を妨げ、医師の招へいも難しくなるとの考えから、院内の会議室を提供する形で学習塾を開設。また、町内に宿泊施設がないことから古民家を改修した宿泊施設を開設するなど、「人が集まる」仕掛けづくりを進めているとした。こうした取り組みは自院のファンを増やすことにつながり、「面白がって取り組んでいるスタッフを見て、就職を希望する人も出てきている」状況だという。

自院のファンの声をいかに拾うか

谷田病院の藤井将志氏は、地域を盛り上げるためのユニークな取り組みを紹介。

 続くパネルディスカッションでは、自院に対し患者や住民が愛着を感じているポイント(情緒価値)をいかに見いだすかを検討。津田氏は「一般的な『ご意見箱』では苦情ばかり集まってしまう」と指摘。ご意見箱とは別に、スタッフへの応援メッセージを集めるための「応援箱」を設置したスーパーマーケットの例を紹介し、ファンミーテングなど、好意的な声を集める場の必要性を強調した。

 一方、久保田氏と藤井氏は、外来や出張講座など、患者、住民と接する場で普段から声を拾い上げることの大切さを指摘。藤井氏は「院長でも事務長でも誰でもいいから、患者の声を拾ったら報告するようお願いしている」と話した。この点についてモデレーターの松本氏は「集まった声を事務方が医師には上げづらい部分があるかもしれないが、医師も含め現実を直視して議論していく場を作ることが大切」とコメントした。

モデレーターの松本卓氏(小倉記念病院)。「医師も含め現実を直視して議論していく場を作ることが大切」とコメントした。

 小泉氏はSNSなどを通じてファンの声を集める際、「人の温かみが伝わる」「受け手から『近い』と感じてもらえる」ことが大切と指摘。「法人とか病院という単位で情報発信すると、遠い存在と思われてコミュニケーションが成立しにくくなる部分がある。(個人が前面に出て)人と人との関係が見える形にすることで、様々な声が届くようになる」と述べた。

 また小泉氏は、今後、病院が地域の様々な人たちとの接点を設けたり、街づくりに関わっていく上での留意点について「常識の枠組みから出ていくことを意識していかないと、新しいことはなかなかできない。自分自身、『サッカーチームだから』という考え方はしないようにしている」と発言。病院という枠組みにとらわれないことが大切だと強調した。

 これに関連して津田氏は、新しいことを実践する際には「中の人(スタッフ)が、自分の所属している病院や地域が大好きで、自ら楽しんで動いている様子が伝わることが大切。病院はまず、中の人を喜ばせることが大切であり、それができれば結果的に地域の評判も高まるという好循環になるのではないか」と述べた。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

この記事を読んでいる人におすすめ