日経メディカルのロゴ画像

クロスヘルスEXPO×日本高血圧学会
高血圧学会の「みらい医療計画」が描く新戦略
デジタルハイパーテンションで高血圧の征圧目指す

デジタルハイパーテンションが目指すもの

 セッション後半は、デジタル技術を活用し全く新しいアプローチにより高血圧の制圧(イベントゼロ)を目指す、「みらい医療」の一端が紹介された。

 COVID-19流行以降、デジタルトランスフォーメーションという概念がにわかに注目されている。デジタル技術の活用によって経営や事業の在り方が変わることを指したものだが、これによって人々の生活や働き方そのものも大きく変わっていく。

 東京大学大学院循環器内科学の赤澤宏氏は「高血圧診療の領域でも、ウェアラブル血圧計の登場などに代表されるデジタル化の進行により、我々がデジタルハイパーテンションと呼ぶ大きな変革が起ころうとしている」と説明する。

 血圧値はもともとデジタル的な計測値であり、他のバイタルデータや様々な診療情報とともにビッグデータ化することで、これまで不可能だった解析やその利用が可能となる。日本高血圧学会はこれを「デジタルハイパーテンション」という新たな学術領域として捉え、高血圧診療の変革につなげようとしている。目標は、高血圧診療の個別化や精密医療の実現だ。

 研究の方向性として自治医科大学内科学講座循環器内科学部門の苅尾七臣氏は、(1)予知医療=心血管イベントの発症予知、(2)治療用アプリの開発、(3)遠隔医療──の3点を挙げた。予知医療の目標は、脳卒中、心筋梗塞、急性心不全、大動脈解離といった急性で予後不良な循環器疾患の発症を予知することだ。徐々に悪化していく身体状況の変化からイベントの発生を予知するわけだが、血圧はその重要な指標と位置付けられる。

 東日本大震災による津波で大きな被害を受けた南三陸町におけるその後の医療支援において、測定された患者の血圧値をクラウド上で一元管理することにより、よりスムーズな血圧管理が実現し、心血管イベント発症予防の可能性が示唆された(関連記事)。このときに導入された「災害時循環器疾患予防支援ネットワークシステム」(DCAPシステム)は、被災地の医療支援のため苅尾氏らが医療機器メーカーと協力して作り上げたもの。患者ごとの血圧の推移だけでなく、受診者全体の血圧の推移が一目で分かる(図1)。

図1 震災後の血圧値、降圧薬増減率、気温の月次推移 冬に向け上昇する血圧のトレンドが、年を追うごとに目立たなくなっている。(関連記事、出典:J Clin Hypertens. 2017;19:26-9.)

 2011年の被災直後は集団の血圧値がかなり高く、実際に降圧薬を増やした患者が多かった。治療強化によって徐々に集団の血圧値は低下したが、2012年秋以降は季節性の血圧上昇が顕著となり、降圧薬を増やした患者が再度増えた。こうした季節性の血圧変動が明確に捉えられたことで、翌年の2013年秋は患者ごとの治療強化の判断を早めに行うことができ、2014年初頭の血圧上昇は効果的に抑制することができた。2015年初頭の上昇はさらに穏やかになり、集団の血圧値も経年的に下がっている。ビッグデータから得られた知見が、個々の患者の治療の最適化に反映できたわけだ。

ウェアラブルデバイスで多様なデータ得る

 血圧値やイベントリスクの予測能を向上させるためには、測定ポイントを増やすことが求められる。腕時計型のウェアラブルデバイスによる長時間の血圧測定から、感情、居場所(環境)、体位、身体活動度などによる血圧変動も具体的に分かるようになってきた。これら短期的な血圧変動に、日内、日間、季節間といったより長期的な血圧変動、さらに環境の温度や居場所といった多様な情報を加味することで、脳卒中などの心血管イベントの発症予知が可能になると期待されている。

 苅尾氏は、「デジタルハイパーテンションの研究展開によって、患者一人ひとりに適合した治療を提供し、24時間安定的な血圧コントロールが得られるようになる。これが、イベント発症ゼロを目指した予見循環器医学の確立につながる」とまとめた。

 この領域の研究を促進させようと、日本高血圧学会では2019年からDigital Hypertension Conferenceを開催している。今年は12月3日にインターネット上で第2回が開催される予定だ(https://hypertension.digital/)。

 第2回の代表世話人を務める国際医療福祉大学大学院循環器内科の岸拓弥氏は「デジタル技術によって仮想空間と現実空間が高度に融合し、その中で経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すSociety 5.0は、既に始まっている。Society 5.0の中で克服されるべき高血圧領域における未解決問題を議論したい」とあいさつした。

 また2022年には、日本で3回目となる国際高血圧学会学術集会(ISH2022、2022年10月12~16日、開催地:京都、https://www.ish2022.org/)が開催される。日本高血圧学会ISH2022準備委員会広報委員長を務める西山成氏(香川大学薬理学講座)が、概要を説明した。

 日本高血圧学会副理事長の楽木宏実氏(大阪大学大学院老年・総合内科学)はクロージングとして「血圧は医療者だけでなく社会全体が対応すべき健康・長寿情報に変わりつつあり、適切なアウトプットを得るためには、様々な領域の専門家の参画が求められる。具体的にどう取り組むか、学会として高血圧学のニューノーマルを提案していきたい」と総括した。

  • 1
  • 2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

この記事を読んでいる人におすすめ