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クロスヘルスEXPO×日本高血圧学会
高血圧学会の「みらい医療計画」が描く新戦略
デジタルハイパーテンションで高血圧の征圧目指す

 10月14~16日に開催されたクロスヘルスEXPO 2020(主催:日経BP)で日本高血圧学会は、2018年に策定した「みらい医療計画」の具体的な取り組みについて報告した。同計画では、減塩や高血圧の認知促進のための社会啓発、さらにデジタル技術の駆使によってより精緻な高血圧診療の実現を目指す「デジタルハイパーテンション」などによって、高血圧患者を700万人減らすとしている。


セッションはリモートアクセスで行われた。演者は上段左から赤澤宏氏、西山成氏、土橋卓也氏、中段左から伊藤裕氏、日下美穂氏、苅尾七臣氏、下段左から野出孝一氏(佐賀大学内科学講座循環器内科、司会)、岸拓弥氏、楽木宏実氏。

 「あらゆる領域の知見を1つのプラットフォームの上で統合し、健康というアウトカムに結びつける姿勢で高血圧の制圧に取り組んでいく」──。セッション冒頭で日本高血圧学会理事長の伊藤裕氏(慶應義塾大学内科学腎臓内分泌代謝内科)は、こうあいさつした。そのアクションプランを示したのが、2018年に策定された「みらい医療計画」だ。

 同計画では、(1)生涯にわたる高血圧診療システムの構築、(2)高血圧研究の推進による「みらい医療」の実現、(3)国民が血圧管理に自ら取り組む社会をつくるための啓発活動──の実践を通じ、高血圧の国民を10年間で700万人減らし、健康寿命を延ばすことをうたう。

全国民が食塩をあと3g減らす必要

 社会啓発で大きな柱となるのが減塩だ。日本人は2018年時点でも1日当たり男性11.0g、女性9.3gの食塩を取っている。だが厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量は男性7.5g未満、女性6.5g未満であり、国民全体があと約3g減らす必要がある。高血圧患者なら目標は1日6g未満と、さらに厳しくなる。

 学会では2005年に減塩に関するワーキンググループを立ち上げ、2011年からは減塩委員会に改組して事業を展開。2019年には減塩推進東京宣言を発出した。社会全体の意識を変えるためには行政への働きかけも不可欠であり、関係省庁との粘り強い協議によって、加工食品の栄養成分表示にあるナトリウム表記が食塩相当量での表記に改められた。食塩相当量はナトリウム表記の2.5倍であり、ナトリウム表記では食塩摂取量を低く見積もりやすかった。

 減塩食品の啓発にも力を入れている。減塩の基準を満たし、かつ実際に食べて通常食品と遜色がない食品の認定事業を行っており、現在は30社133品目が学会のウェブサイトで紹介されている。例えば認定された塩やしょうゆは40~50%減塩されており、これを使うだけで同じ味付けでも食塩摂取を半分に減らすことができる。

 日本高血圧学会減塩委員会長として減塩の取り組みを報告した土橋卓也氏(製鉄記念八幡病院[北九州市八幡東区])によれば、各社の減塩食品の売り上げは2019年度で計421億円に上り、1年間で962トンの減塩が達成された。これは、日本国民全体が1日に摂取する食塩の総量に匹敵するそうだ。

 また、現在進行中の健康日本21(第二次)では、循環器疾患の予防のため国民全体の収縮期血圧を4mmHg下げるとうたっている。最も寄与が大きな介入ポイントは減塩だが、高血圧であると分かっているのに治療を中断している人や、血圧を測定せず高血圧であることを認知していない人へ適切な降圧治療を行うことも欠かせない。

 医療者が診察室内にとどまっていては、こうした人へアプローチすることは難しい。そこで学会では2019年に、「高血圧ゼロのまち」をスローガンとして啓発活動を実施する自治体を募集。全国の16の市町が手を挙げ、それぞれ独自の目標を設定して高血圧や減塩などの認知促進に取り組み始めているとのことだ。

減塩を食生活の「ニューノーマル」に

 地域の減塩運動に積極的に関わる日下医院(広島県呉市)の日下美穂氏は、「withコロナ時代は国民の食塩感受性が亢進し、放置すれば高血圧の発症・増悪を招くと推察される。今後は減塩を食生活のニューノーマルとする必要がある」と指摘した。日本人はもともと食塩感受性が高い上、大災害などによる環境の変化やストレスの増大によって交感神経が活性化されると、食塩感受性の亢進につながるという。

 「社会全体が健康意識として減塩を常識化させ、減塩が当たり前となる環境を作りたい」──。こう考えた日下氏らは2008年に、「こだわりのヘルシーグルメDietレストランin呉・広島プロジェクト」を立ち上げた。地域の医師、栄養士・医療従事者、料理人、飲食店、スーパー、タウン情報誌の編集者など街の多職種の人が力を合わせ、減塩環境の構築に取り組もうというもの。

 「百聞は一食に如かず」を合言葉に、1食で塩分2.6g以下、600kcal以下、地元食材使用という条件で創作した料理を、協力レストランで提供してもらうことにした。減塩食もおいしく食べられることを体験することで、家庭料理への応用が可能となる。現在では呉市、広島市を中心に約40店が参加している。

 日下氏が外来で診ているある患者は、こうした食経験を積みつつ減塩に取り組んだ結果、降圧薬を減薬できたという。また2018年の西日本豪雨では呉市も被害が発生したが、同プロジェクトに参加するレストランから避難所に減塩ピザが届けられ、避難者の健康管理に一役買った。

 さらに日下氏らは、2020年1月に一般社団法人ソルコンクラブ(Salt Conscious Club)を設立した。その直後にCOVID-19の流行が始まってしまったが、三密を避けつつ、熟年にも若い世代にもリーチできる活動を行っている。今年8月には、栄養士、料理研究家、日下氏の3人が協力した減塩食のレシピ本「魔女の幸せ100年レシピ 本当においしい減塩レシピ教えます」を出版した。ステイホームが求められる中、子どもとともに料理を行うことで、家庭に減塩の意識が根付くことを狙ったという。

 日下氏は「減塩は医療関係者だけでは達成できない。減塩に適合した社会的環境をつくるためには、行政や企業の協力が不可欠だ」と強調した。

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連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

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