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クロスヘルスEXPOセミナー 第一線で対応に当たったパネリストらが意見交換
今冬を見据えた最先端のCOVID-19対策を議論

 冬にかけて再流行が懸念される新型コロナウイルス感染症COVID-19)と、今後も発生が見込まれる世界的なパンデミックに、日本の医療はどのように向き合ったらいいのか──。2020年10月14日に開かれたクロスヘルスEXPOのパネルディスカッション「新型コロナ対策 日本の歩みとこれから」では、モデレーターの慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授・伊藤裕氏と、パネリストとして、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の対応に当たった神奈川県健康医療局医療危機対策統括官(藤沢市民病院副院長)の阿南英明氏、全国でもいち早く感染者数増加への対策に迫られ医療崩壊を食い止めた福井県医師会長の池端幸彦氏、初代の厚生労働省医務技監で現在は厚労省顧問を務める鈴木康裕氏、国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター長の大曲貴夫氏──の5人が登壇。第一線で活躍した面々がこれまでの対応に基づく知見と現況について情報交換し、意見を交わした。

「神奈川モデル」を構築し、検査では保健所と医療機関が役割分担

神奈川県健康医療局医療危機対策統括官(藤沢市民病院副院長)の阿南英明氏

 最初に講演した阿南氏は、大規模な船内クラスターが発生したダイヤモンド・プリンセス号への対応を通して築いた、神奈川県独自のCOVID-19対応体制について解説した。県では無症状や軽症患者によって病床がひっ迫したことなどを教訓とし、市中感染への応用として「神奈川モデル」を構築。患者を無症状・軽症、中等症、重症の3段階に分類して、入院と自宅・宿泊療養に振り分けた。また神奈川モデルと並行して「コロナクラスターアタックチーム」(C-CAT)を組織し、クラスター対策と収束後の支援を実施した。

 検査に関しては、保健所と医療機関の役割分担の明確化を重要視している。保健所はクラスター対応など公衆衛生対策に当たり、実際の検査では検体採取から結果判明まで個々の医療機関で完結させる。さらに冬季に向けインフルエンザワクチンの接種体制と、COVID-19と季節性インフルエンザの同時流行に備えた検査体制を整えるほか、「受診難民が発生しないように予約も含めた診療体制の整備を進めている。患者も医療機関側も困らないように冬を迎えたい」と語った。

福井県はインフルエンザの流行期に向けて検査体制を整備

福井県医師会長の池端幸彦氏

 池端氏は3~4月にかけて福井県で拡大したCOVID-19を巡り、県医師会としての対応の経緯を紹介した。福井県は3月18日に感染者の第1例が確認され、4月初旬には県内の確保病床の占有率は7割に上ったという。池端氏は各医療機関の病院長と議論を重ね、宿泊施設や各病院の病床を確保。災害派遣医療チーム(DMAT)の協力も仰いで「入院コーディネートセンター」を開設し、患者の重症度に応じた適切なトリアージを実現できたと説明した。また報道対応の重要性も強調し、県医師会として記者会見を重ねることで、県民の理解や医療従事者に対する風評被害の防止にもつながったと話した。

 今後の課題として挙げるのは、季節性インフルエンザの流行期に向けた検査体制の整備だ。県医師会で県内の全医療機関に向けて研修を実施し、結果として県全体の約4割に当たる200以上の医療機関がPCR等検査の県の委託契約を結んだという。「一般の医療機関も検査に参入して感染症への対応レベルが上がれば、地域住民への啓蒙活動にもつながる。これが非常に重要と思い、少しでも多くの医療機関に参加してもらった」と語った。

引き締めと緩和の「ハンマー&ダンス」を軸に臨む

厚労省の初代医務技監の鈴木康裕氏

 鈴木氏は、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、新型インフルエンザ、COVID-19と過去約20年間に流行した感染症を挙げ「世界を覆うパンデミックが5年に1度起こっていると言える。これからの医療政策はそれを前提にしなければいけない」と述べた。

 今後のCOVID-19対策の基本的な考え方として、感染拡大状況と社会経済活動のバランスを取りながら対策の引き締めと緩和を繰り返す「ハンマー&ダンス」を紹介し、「(引き締めと緩和を)繰り返しながら治療薬やワクチンができるのを待つ」ことの重要性を示した。さらに冬に備えて疑似症患者の保健所への届け出体制の見直しや、基礎疾患のある人や高齢者以外の患者は入院ではなく在宅や宿泊療養に切り替える方針について語った。また長期的な視点では、新興・再興感染症によるパンデミックへの備えとして、コアキャパシティーとは別のサージキャパシティーの確保、GPS利用などプライバシーと公益の議論、防護服など衛生用品の入手経路の多様化の必要性などを挙げた。

治療法の検証進み、院内感染の防止にも注力

国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター長の大曲貴夫氏

 大曲氏は1月下旬以降に武漢からチャーター機で帰国した邦人関係者の対応と、ダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れた経験を臨床の視点から語った。後者について「1月の帰国者とは比較にならないほど多くの重症患者に対応する必要があった」と述べ、ピークを迎えた4月中旬にはICUが全てCOVID-19患者で埋まり、重症者を転院させるケースもあったという。治療法が確立されていない中、手探りで対応する一方、治療薬の国際共同治験に参加し「新興・再興感染症でどのように新規治療が見いだされていくのか全く経験がなかったが、これを短期に可能にした米国の体制作りは非常に参考になった」と振り返った。

 治療法として「抗ウイルス薬ではレムデシビルがRCT(ランダム化比較試験)で一定の結果を示した。その後にも次なる抗ウイルス薬や、回復者血漿も日本をはじめ複数の国で検証している」とし、抗凝固薬などについても検証が進んでいると説明。「肺炎がなく、ハイリスクの人を重症化させないために、薬物的な介入ができないか知見を見いだすことが今後は重要だ」と見通しを語った。

 また東京都のデータとして、6月以前は院内感染による死亡者数が多かったが、以降は院内感染の死亡者数、全体の死亡者数の双方が減っているという状況を紹介し、「医療機関の中で感染者が出ることは避けがたいが、対策により感染拡大を抑えることができ、死亡者数の減少にもつながる」として、医療・介護現場への感染防止対策に注力する意欲を示した。

第1波以降の「ゆがみ」直すべき

モデレーターの慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授・伊藤裕氏

 パネルディスカッションで、大曲氏は「一時期、感染者数は少なかったが、今は医療機関でのクラスターが続いている印象がある」と感染状況に懸念を示し、「9月半ばの4連休が終わり、その後は社会的に自粛が少しずつ緩和されている。3密回避など対策をしなければ全体の感染者数は増える」として引き続き感染防止の対策をすることの重要性を強調した。

 また冬に向けての医療提供体制について様々な意見が上がった。鈴木氏は今後のCOVID-19対応の方針の1つとして、かかりつけ医による診察でCOVID-19や季節性インフルエンザを判別するという方策を挙げた。池端氏は「福井県でもやむを得ずCOVID-19患者を診る医療機関と一切診たくないという医療機関とで両極端になっていた」と振り返り、「検査をすることによって職員も含めて医療機関の感染に対する対応レベルが上がり、地域にも波及する。それはかかりつけ医の役割だ」と指摘した。

 阿南氏は「第1波は保健所を中心とした保健医療行政に主体があり、医療がそれを支援する形で始まった。『ゆがみ』という言い方をしていいかと思う」と述べ、今後は医療機関側に主体性を持たせる構造にシフトチェンジしていく必要性を語った。鈴木氏が挙げた、かかりつけ医による診察に賛同した上で「かぜ症状の患者を診察しCOVID-19の検査の必要性の有無を判断するなど、医者の目を通すべきだ。医療者の目を入れるということは、医療に主体性を持たせる基本的な理念として重要だと思う」と述べた。

 COVID-19専用の介護老人保健施設もテーマとして上り、鈴木氏は「専用の老健施設があれば非常に有用だと思う」とした上で、新薬を利用できるようにするために包括払いに対する例外的な取り扱いなど、実施する際に考えられる具体的な課題を挙げた。また国の今後のパンデミック対策として挙げたサージキャパシティーに関連して、鈴木氏は地域医療構想での病床削減方針について触れ「病床数を節約するとすれば残った病棟をゼロにするのではなく、有事の際に活用できるようメンテナンスをしながら維持する知恵も必要だ。人材や病床の予備力をどのように持つのかが非常に重要だ」と指摘した。

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連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

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