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台湾のコロナ対策は「IT」だけではない
「日経クロスヘルス EXPO 2020」に台湾衛生大臣がビデオメッセージ

台湾で衛生福利部長(厚生労働大臣に相当)を務める陳時中氏


 「日経クロスへルス EXPO 2020」(主催:日経BP、10月14日から16日)が開幕した。基調講演を務めたのは、台湾の陳時中(Chen Shizhong)衛生福利部長(厚生労働大臣に相当)だ。陳衛生相は立法院(国会に相当)に急きょ対応しなければならなくなったため、ビデオメッセージでの登場となった。コロナ対策において世界で最も成功したと評価される台湾ではあるが、その特長はITの活用にとどまらなかった。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発端となった中国と海峡を挟んで接する台湾。中国大陸からの人や物資の往来が激しいにも関わらず、台湾内での感染確認者は530人、死亡者は7人にとどまっている(2020年10月14日現在)。その台湾でコロナ対策の陣頭指揮を執ってきたのが陳衛生相だ。歯科医師でありながら、蔡英文総統から民間人の閣僚として登用された。

 ビデオメッセージの中で陳衛生相は「台湾では今、マスクを付けながらも国民は通常通りの生活を送れるようになった」と胸を張った。徹底した水際対策と情報の透明性、そしてそれらを国民に周知するための情報システムを構築してきたという自負もあるのだろう。ただ、仕組みを作っただけでうまくいくわけではない。「政府に対する国民の信頼、そしてメンタルケアも欠かせない」と、精神面にも目を配ってきたことを陳衛生相は明らかにした。

異変を察知して即日、武漢からの渡航者を検査

衛生福祉部の石崇良事務次官

 陳衛生相からバトンタッチされた衛生福祉部の石崇良事務次官が、台湾のコロナ対策の詳細を語った。驚くべきは初動の速さだ。台湾では、感染症に関する内外の情報を常日ごろから監視する仕組みがあり、2019年の12月31日の段階で「中国内で非定型の感染症が拡大している」という情報をキャッチした。即日、世界保健機関(WHO)と中国のCDC(疾病対策センター)に警鐘を促すとともに、武漢からの航空便に関して機内で独自の検査を開始した。

 昨年末の段階で、世界はCOVID-19の脅威を認識していたわけではない。中国との経済関係を考えれば、かなり思い切った政治的な決断だったと言える。それでも科学的な根拠に基づき政策を実行する仕組みが台湾には備わっている。基調講演の座長を務めた日本歯科医師会長の堀憲郎氏は、「台湾では(2003年に流行した)重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓が生きている」と評価した。

 体制面で注目すべきは、感染症の流行時などに臨時で設置される中央流行疫情指揮中心(Central Epidemic Command Center:CECC、日本では「中央感染症指揮センター」などと呼ばれる)だ。このCECCは、情報の収集や分析を担うインテリジェンスセクション、空港などの検疫や医療従事者をサポートするオペレーションセクション、そしてマスクや防護服などの調達を担当するロジスティックセクションに分かれる。CECCのトップは、陳衛生相が兼務している。非常時に情報と権限を集中させる組織はつくるという発想は、日本にも大いに参考になるはずだ。

隔離措置の間は食料まで提供

基調講演の座長を務めた日本歯科医師会長の堀憲郎氏

 また、台湾の水際対策(Border Control)は空港検疫だけにとどまらない点も注目だ。渡航者は、PCR検査の陰性証明をスマートフォンで送らなければ台湾行きの航空券にチェックインできない。その後も機内や空港で体温をモニタリングして、空港から自宅/ホテルまでは渡航者専用のタクシーやレンタカーを利用することが義務付けられている。自宅/ホテルでは14日間の経過観察が必要だ。

 この検疫ルールを破ると、最大で3万3000USD(約350万円)の罰金が科される。その代わり、自治体から手厚い支援が受けられる。自宅/ホテルで隔離中は食料が提供され、廃棄物の回収も自治体が責任を持つ。病態が悪化すれば適切な医療が受けられる。アメとムチをうまく組み合わせている点がポイントなのだ。

 台湾のコロナ対策として有名なのは、実名性でマスクを購入するシステムだ。日本などのようにマスクの買い占めが起きないように、1人当たり毎週9枚まで配布・購入できる仕組みを導入した。インターネットで予約して、どこに行けば在庫があるのか。これもスマートフォンから把握できるようにした。ただ、この仕組みも十分な生産能力がなければ実現しない。「1月段階で180万枚だった生産能力をすぐに1000万枚に引き上げた」と石次官は語った。物資を配備する周到な準備がなければ、ITも宝の持ち腐れとなる。台湾では消毒用アルコールの生産や物流を円滑化するための法改正も実施した。

 こうした対策が奏功し、台湾では国民生活がほぼ正常に戻った。ソーシャルディスタンスを保ちながら外食にも出かけ、国内旅行者に限れば台湾内の旅行需要も例年並みに回復してきたという。

陳衛生相は台湾で感染者が確認された1月20日以降、1日も欠かさず記者会見を開き続けた。不眠不休で働くタフぶりに、台湾メディアからは尊敬も込めて「鋼鉄部長(鉄人大臣)」と呼ばれる(中央が陳衛生相)


 石次官は講演の最後に、「新しい生活様式に対応するためには国民の協力が大事だ」と強調した。国民の不安を取り除くため、陳衛生相は毎日記者会見に臨み、記者から質問がなくなるまで丁寧に答え続けてきた。ITの活用はもちろん不可欠だが、不退転の覚悟で臨む政治家の姿勢に国民は共感したのではないだろうか。

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日経クロスヘルス EXPO 2020


コロナ後の医療・介護を占う多数のセミナーに加え、バーチャル展示会も開催。経済産業省ヘルスケア・ビジネスコンテストの決勝前審査や日本高血圧学会コラボレーション企画も。

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連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

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