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医療の「視界不良時代」対応のヒントを海外に学ぶ
東北大学病院臨床研究推進センター特任教授・中川敦寛氏に聞く

2020/10/05
日経ヘルスケア

 日経BPは2020年10月14〜16日の3日間、オンラインで「日経クロスヘルス EXPO 2020」を開催する。このEXPOは、医療・介護・健康といったヘルスケア分野の行政動向や、様々な製品・サービスに関する最新情報を得られる場だ。昨年は東京ビッグサイトで開催したが、今年は新型コロナウイルス感染防止のため、セミナーや展示の全てをオンラインで展開する。

 今年のEXPOのメインテーマは新型コロナウイルス感染症対策。新型コロナ禍における医療・介護を取り上げたセミナーが目白押しだ。本連載ではセミナーを中心に、EXPOの見どころを紹介していく。今回は、パネルディスカッション「海外の事例に学ぶ医療の『ニューノーマル』〜働き方を変える産業との共創とは?」を企画しモデレーターも務める東北大学病院特任教授の中川敦寛氏に、本セッションの狙いを聞いた。


東北大学病院の中川敦寛氏

 今回企画したパネルディスカッション「海外の事例に学ぶ医療の『ニューノーマル』〜働き方を変える産業との共創とは?」の根底にある問題意識は、VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity;ブーカ)における不確実性をどうコントロールするかです。VUCAの時代、すなわち視界不良時代には、日本人が得意としてきた過去の成功モデルが通用しない場面もでてきているのではないでしょうか。どうやれば勝てるかが分からなくなってしまったことが今、日本が苦労していることの一因ではないかという認識を私は持っています。

 「人生100年時代」と言われますが、高齢者が増える中、慢性疾患をコントロールしていかに健康寿命を延ばすかが求められています。一方で1960年代に制度設計された現行の医療システムは至るところで制度疲労を起こしており、高齢化がピークを迎える2040年や、その先の2100年まで持続可能な対応ができるとは必ずしも言えない状況です。さらにテクノロジーの進歩が非常に速くなっていて、医療側がそれを十分にはキャッチアップできずにいる場面もみられます。つまり今の日本は、自分たちの生き方と、それを支える医療リソース、テクノロジーの進歩を、うまく並び立たせることに難渋しているのではないでしょうか。 

 こうしたVUCAの時代に何が求められるのかと言えば、それは「解決すべき課題」を的確に見いだし、そのソリューション(解決策)をデザインできる能力です。今回のパネルディスカッションでは海外の事例を元に、その重要性を示したいと考えています。

 現在、多くの病院では「手術件数をいかにして増やすか」とか「ベッドの回転率をいかにして上げるか」を目標として、スタッフが一生懸命取り組んでいると思いますが、実はやれることはほとんどやりきっている状況なのではないでしょうか。「これまでのやり方とは異なる、何か別の角度や視点から取り組むべき時期に来ているのでは」とうすうす感じながらも、今までの取り組み方の「精度」や「程度」を上げる以外の方向性を見いだせずに頑張らざるを得ない、ということもあるのではないでしょうか。私が医師になってから23年になりますが、こうした状況は基本的には変わっていないのかもしれません。

 ですが、コロナ禍はこれを変える可能性があります。自分たちの生き方と、それを支える医療リソース、テクノロジーの進歩という3つの要素を、いかに並び立たせるのか。この問題を先延ばしせずに、今すぐ解決しろ!と背中を押されているのが、コロナ禍のインパクトだと私は捉えています。

 その解決の鍵となるキーワードが、コ・クリエーション(産業との共創)とデザイン思考です。

 日本の医療現場でも適切な形で産業と協力して、知恵を出し合い、コスト削減のノウハウやヒト、モノ、カネを適切に取り入れることを考えていくべきです。この「適切に」という部分が非常に重要で、それによってレス・イズ・モア(「やることは少なく、でも、得られることが多く豊かである」という考え方)の世界が実現することになります。

5人のパネリストが「産業との共創」を語る

 今回のパネルディスカッションには5人のパネリストに登壇いただく予定ですが、それぞれの方に「どのようにコ・クリエーションに取り組んで、レス・イズ・モアの世界を実現したのか・するのか」をお話しいただきます。

ショーン・カーニー氏

ヤン・キンペン氏

 まずフィリップスから2人。1人はチーフ・メディカル・オフィサーのヤン・キンペン氏で、オランダのユトレヒト大学の医学部でトップマネジメントの要職にあった小児科医です。もう1人のショーン・カーニー氏は、世界中に多数のデザイン思考のデザイナーを抱える同社のチーフ・デザイン・オフィサーです。

 メディカルプロフェッショナルとデザイン思考の第一人者であるお2人に、同社が目指す4つの目標(Quadruple Aim)──卓越した患者体験(Improved patient experience)、アウトカムの改善(Improved health outcome)、費用の削減(lower cost of care)、メディカルプロフェッショナルの満足度の向上(Improved staff satisfaction)──をいかに協調させながら実現しようとしているのかをお話しいただきます。また、メディカルとインダストリーがどのようにコ・クリエーションしているのか、デザイン思考をどう取り入れているのかについても触れていただく予定です。

ティモ・アララーッコラ氏

 次は、かつてはノキアの企業城下町であったフィンランド・オウル市の、オウル大学病院でマネージャーを務めるティモ・アララーッコラ氏。オウル市は2012年頃よりノキア社の大きな事業転換があり大打撃を受け、危機的な状況を迎えましたが、産業と行政とアカデミアがコ・クリエーションしたことで、2014年からの3 年間で600 社のスタートアップが生まれ、北欧で最も活気がある都市の1つになっています。また、フィンランドの無線通信基礎研究開発の本拠地でもあり、北欧のシリコンバレーとも呼ばれています。

 オウル市では、オウルヘルスというライフサイエンス分野におけるエコシステムを産学官連携で展開しており、その1つの柱であるオウル大学病院は「World’s smartest hospital in the world with 5G」を標榜し、2030 年の新病院建設に向けて情報の利活用を図り病院の収益改善することなども視野に入れながら、「フューチャー・ホスピタル・プロジェクト2030」に取り組んでいます。もう1つの柱がオウルヘルスラボで、アララーッコラ氏はオウル大学病院テストラボで産業とコ・クリエーションしながら、新しいテクノロジーをいかに活用していくかを追求しています。同氏には、コ・クリエーションの望ましい在り方などについてお伺いできることを期待しています。

町田二郎氏

徳増裕宣氏

 この他、日本の病院からは、倉敷中央病院臨床研究センター臨床研究推進部長の徳増裕宣氏と、済生会熊本病院副院長の町田二郎氏という2人のパネリストに登壇していただきます。お2人には、産業や地域の病院とどのようにコ・クリエーションしているか、さらに新しいテクノロジーをどのように利活用しようとしているか、働き方改革につながる取り組みなどについてお話しください、とお伝えしています。

 また、東北大学病院における私たちの取り組みも紹介する予定です。医療現場で「解決すべき課題」を企業開発研究者とメディカルプロフェッショナルが一緒に探索し(アカデミック・サイエンス・ユニット:ASU)、事業化の工程に載せる前に一緒に検討を重ね(オープン・ベッド・ラボ:OBL、デジタルヘルステストラボ)、同時に働き方についても新しいテクノロジーを積極的に取り入れ(AI Lab)、さらにはこのような取り組みを進められるイノベーターと、彼らと伴走するアドミニストレーション人材を育成する(未来医療人材育成寄付部門)──。こうした一連のスマートホスピタルの取り組み、実現のためのキーとなる産業とのコ・クリエーション、デザイン思考について紹介いたします。

 今回のパネルディスカッションの議論を聞いていただきたいのは、病院のマネジメント層をはじめ、これからの医療の方向性を考えていらっしゃる全てのみなさんです。国内外で先進的な取り組みをされている方々の視点、視野、視座から、産業とのコ・クリエーションも含め、従来の取り組みとは異なる病院のマネジメントの在り方や、これからの方向性を取り入れたデザインにつながる試みにスポットを当てられるよう、ディスカッションを進めたいと考えています。スピーカーも聴講される皆さんからの声を取り入れてパネルディスカッションを進行しますので、ぜひご意見をお寄せください。

 もう一つ、パネルディスカッションの議論を聞いてほしい層は、産業界の関係者です。アフターコロナの世界では、これまでの「モノ」を売ることから、さらに「コト」を売り、関わる人が利益を享受し、幸せになれるデザインをできるかが問われるようになると思われます。そのことは分かっていても、具体的に何をすればいいのかが分からないという人は多いはずです。そのような、企業の中でストラテジー(戦略)を立案する立場の人に、有意義なメッセージを届けたいと考えています。

2020年10月16日(金) 16:30-18:00

【パネルディスカッション】海外の事例に学ぶ医療の「ニューノーマル」〜働き方を変える産業との共創とは?

 世界各地に大きな影響を与えた新型コロナウイルスの感染拡大。第一波では医療崩壊の危機を乗り切った日本だが、一方で、医療やヘルスケアサービスにおいてこれまで持ち越していた、あるいは潜在的な課題が顕在化するなど、多くの問題点が浮かび上がった。コロナ禍を機に大きく変わるもの、結果的には戻るものなどをいかに見極め、それらを解決し、未来に向けて持続的に質の高い医療ヘルスケアを再構築するかが今問われている。海外の先進事例に学びながら、「ニューノーマル」を支える医療・ヘルスケアサービスの在り方を考える。

<パネリスト>
Royal Philips, Chief Medical Officer
 Dr. Jan Kimpen
Royal Philips, Chief Experience Design officer & Head of Healthcare Transformation Services
 Dr. Sean Carney
Manager of Testing and Innovations at Oulu University Hospital
 Mr. Timo Alalääkkölä
倉敷中央病院 臨床研究センター 臨床研究推進部長
 徳増 裕宣 氏
済生会熊本病院 副院長 腎・泌尿器科上席部長 医療情報部長
 町田 二郎 氏

<モデレーター>
東北大学病院 臨床研究推進センター特任教授 バイオデザイン部門長 /病院長特別補佐(企業アライアンス、テクノロジー)
 中川 敦寛 氏

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連載の紹介

日経クロスヘルス EXPO 2020 リポート
2019年10月、医療従事者と周辺産業関係者の交流を目的に初開催して好評を博した「日経クロスヘルス EXPO」を、2020年は10月14日(水)~16日(金)にオンライン開催しました。その様子をお届けします。

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