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《Beyond Healthより》
未来のヘルスケアを拓く13のアイデア、2022経産省ビジコン
「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2022」アイデア部門一次審査

 ヘルスケア分野におけるエコシステムの構築を目指す取り組みの一環として、2015年にスタートした経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(略称:JHeC)」。第7回目となるJHeC2022は、最終プレゼン審査を2022年1月14日に予定している。

 その最終プレゼン審査への出場をかけた一次プレゼン審査が、「日経クロスヘルスEXPO 2021」内で実施された。コロナ禍の現状を踏まえて、事前の書類審査を通過した参加者が、すべてオンラインで発表する形式を採った。

 一次プレゼン審査は、アイデアコンテスト部門とビジネスコンテスト部門が2日に渡って実施された。本記事ではまず、アイデアコンテスト部門の一次プレゼン審査の様子を紹介していく。

 冒頭、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 企画官の飯村康夫氏が登壇。社会的にインパクトのあるヘルスケア分野のアイデアがあったとしても「エビデンスの提示や安全性・品質の確保、既存の制度などの背景から、ビジネスモデルがなかなか成立しにくい」という問題点を指摘。だからこそ、このコンテストでは「そういった背景にとらわれない斬新なアイデアで、社会が抱えるヘルスケア領域の課題を解決してほしい」と期待を寄せた。

 以降では、アイデアコンテスト部門に登壇した13人の参加者によるプレゼンの概要を、登場順に伝えていく。

種田健二氏(労働者健康安全機構 北海道せき損センター)

 種田氏は、「脊髄損傷患者のAI障害予後予測に基づく効果的なリハビリテーションの提供」について発表した。種田氏が務める専門医療施設「北海道せき損センター」では、急性期の患者データを基に、その患者が1年後に歩行を自立できる確立を算出する「予後予測」の習慣化に、2018年から取り組んでいる。その結果、この3年で退院時に一人で歩けるようになった脊損患者の割合は、以前と比較して「27%も向上した」そうだ。

 そこで種田氏は、専門家の知見や経験を基にした障害予後予測を全国のセラピストへ届ける「療法士主体の脊損遠隔医療」の仕組みを提案。全国のセラピストがアプリを通して予後予測を利用することで、「質の高い効率的なリハビリテーションの拡充」を目指す。

 脊髄損傷の予後予測や病態の把握において、種田氏は「米国脊髄損傷学会(ASIA)が提供する国際評価基準がもっとも有用」と考える。しかし、「検査項目が多い」などを理由に検査実施率が35%に留まっていることから、アプリではまず「検査項目を簡単に入力できる」などの環境を整備。その入力データから「AIによって患者の歩行能力など、将来のポテンシャルを予測して提示する」という仕組みを想定する。

髙垣内文也氏

 髙垣内氏は、ヤング/若者ケアラーの未来をつくる、ケアラーをつなぐプラットフォーム「くうかい」を紹介した。髙垣内氏は自身が大学生時代にケアラーだったことから、ヤング/若者ケアラーを助けたいと思い「くうかい」を着想。ヤング/若者ケアラーが「ケアラーであることを理由に自分の夢を諦めることがない世の中を作る」ことをミッションに掲げている。

 ケアラーには年齢や状況によってさまざまな課題があるが、髙垣内氏が注目したのは「話せる相手がいない」「理解されない」といった共通の課題だ。そこで「くうかい」は、24時間365日で交流可能な「ケアラー同士あるいはケアラーと支援者をつなぐプラットフォーム」を想定。オンライン上でいつでも気軽に話を聞いてもらえる場を提供していく。

 ビジネスモデルはいくつか考えられるが、まずはシンプルな形態として「スマホなどを利用したマッチングサービス」のようなものを想定。ユーザーの意見を反映しながら、改善を繰り返してアップデートしていく考えだ。また、既存のサービスでは解決できていない課題があることから、髙垣内氏は「くうかい」を通じて「そういった課題まで解決していきたい」と付け加えた。

白澤歩氏(VENUS)

 白澤氏は、赤ちゃんの寝かし付け方法に着想を得た「心拍数と呼吸数の調整による、副交感神経と心身の安定、及び誘眠促進ウエアラブルデバイス」を提案した。寝かし付けの定番である「ゆらゆら(抱っこやゆりかご)」や「トントン(優しいタップを繰り返す)」から「適切なリズム振動」に着目し、既存のウエアラブルデバイスを使ってそのリズム振動を触覚(肌)で誘導する仕組みを想定する。

 そもそも、睡眠ホルモン“メラトニン”の材料となる幸せホルモン“セロトニン”の分泌には、「日光浴」「リズム運動」「咀嚼」が有効と言われている。そこで白澤氏は、リズム運動を「リズム振動(=トントン)に置き換えられないか」と考えている。さらに、自律神経は唯一“呼吸”からのアプローチ(例えば深呼吸)が可能とされていることから、トントンで呼吸リズムの最適化にアプローチする。

 具体的には、既存のスマートウォッチなどにリズム振動の機能を追加して対応するほか、アルゴリズムを搭載して個々人に最適化をはかるような仕組みを提案した。また、ウエアラブルデバイスによる呼吸と心拍数の安定によって、他の疾患(適応障害や鬱など)での効果も見込んでいる。

升田博人氏(壮健)

 升田氏は「一つのデバイスで行う個別化された予防医療」と題し、簡単に健康情報を測定できる多機能かつ低価格な健康機器と、その機器から取得したデータを共有できる健康管理システムのアイデアを披露した。考案した機器はシリコンゴム製で、サイズはマウスピース程度となり、口腔内にセットして測定する。

 この機器では、「血圧」「動脈血酸素飽和度」「脈拍」「加速度脈波」「動脈圧波形」「深部体温」「呼吸数」「呼吸音」の計測が可能。測定データは自動的にクラウドへアップロードされる仕組みを想定する。また、「動脈血酸素飽和度」と「脈拍」の計測には舌部を使用し、パルスオキシメーターと同原理で測定するという。益田氏によれば「測定部を指先から口腔内に変えることで、パルスオキシメーターの誤差要因を軽減する」そうだ。

 さらに、今回のアイデアの特徴として、日々の健康状態をデータ化することで「健康状態の異常を早期に発見」、一人暮らしに対しても「家族や医療関係者などと情報を共有することで、異変にいち早く気付ける」、場所や時間に制約なく測定できることから「多角的な解析が可能」、口腔内で測定するため「高齢者でも簡単に測定できる」といった点を挙げた。

上ひかり氏(京都工芸繊維大学)

 上氏は、メンタルヘルス患者向けの医療マッチングサービスを開発中。あるアンケートではメンタルヘルス関連の患者の6割以上が「医療機関が合わなかった」と回答するほどミスマッチが問題となっていることから、患者の症状・希望に合う医療機関とのマッチングを行うサービスを提供したいと考えている。

 サービスではまず、患者の症状や治療方針の希望を基に、最適な医療の選び方を紹介する診断ツールを無料で提供する。ここでは行動療法などの分かりにくい治療についても、画像や音声を使ってわかりやすく解説していく予定だ。さらにそこから、医師・カウンセラー個人の過去論文・所属学会・レセプションデータとひも付けたデータベースを使用し、患者に合う医療機関を有料で紹介する。また、不安点への回答や生活面へのアドバイスといった医療相談サービスも、有料で提供していきたい考えだ。

 医師側のメリットとしては、専門範囲の患者を的確にマッチングしたり、事前の相談データを簡易的に提供したりすることで「労働生産性の向上」になると想定する。さらに、相談データや受診のフィードバックを提供することで「技術の向上」にもつながるようなサービスにしていく。

鍛冶茉里奈氏(パナソニック)

 注意障害がある人の自立を助ける眼鏡「cogitare」の開発を目指す鍛冶氏。医学部保健学科だった大学時代に感じた、脳に後遺症が残った患者を「自由に外出させてあげたい」という思いからcogitareのアイデアを発案した。

 開発では、後遺症として残りやすい「注意障害」にアプローチ。注意障害があると、例えば「赤信号に気づけず、そのまま横断歩道を渡ってしまう」といったことが起きるため、その解決策として、人が介在せずに「必要なものに注意が向けられるように、端的な言葉で声がけをする」ようなデイバスを考案した。具体的には、外界撮影カメラと視線検知カメラで利用者が何を見ているかを把握し、注意すべきものに視線が行くように端的な音声アナウンスをしてくれる眼鏡型デバイスである。

 実行ステップとしては、まずSTEP1(2021年)で「既存の視線検知対応眼鏡」と「人が映像を見てトランシーバーで声がけする仕組み」を組み合わせた実証実験を実施。STEP2(2022年)では「AIによる物体検知アラート」を追加し、STEP3(2023年~)でAIの自動化とcogitareの開発を進めていく予定だ。またビジネスモデルとしては、回復・リハビリ系の施設や居宅介護支援事業所などを販路とするサブスクリプションを検討している。

鈴村萌芽氏(椙山女学園大学)

 鈴村氏のアイデアは、学生と福祉体験に特化した情報サイト「musbun」である。将来的な介護人材不足の対策として、鈴村氏が着眼したのは「福祉体験をしてみたいが、なかなか行動に移せない学生」と「たくさんの学生と繋がりたいが、有効な手段がない福祉施設」の存在である。

 musbunでは、学生に対しては「気軽に福祉体験ができる環境」を、福祉施設には「効率的にたくさんの学生と繋がれる機会」を提供する。学生側の機能としては、エリアや分野、形態などを選ぶと該当する募集情報が一覧表示される「検索機能」を用意。募集の詳細内容や施設の特徴、スタッフの声などを確認できるほか、募集への応募以外に施設見学やオンラインでの相談などにも対応する。

 福祉施設側には、学生の情報を検索して気になる学生をスカウトできる機能を搭載。学生にとってはスカウトをもうらことで「モチベーションが上がる」などの効果があるため、鈴村氏は「両者にとってメリットがある」と考える。今後の展望としては、まずは学生が気軽に福祉体験できる環境を整え、次に学校や行政と連携して「福祉体験から就職への大きな流れ」を作る。さらに、地域社会や地元企業との協業で「地域共生」に貢献していきたいと考える。

李明恩氏(長崎大学)

 李氏は、地域薬局同士の医薬品不動在庫二次流通システム「ヤクカリ」のアイデアを紹介した。薬局の不動在庫医薬品の廃棄にかかる費用は、毎年100億~200億円と推定されている。しかも、これによって経営悪化した薬局が閉局すれば、患者は「欲しい医薬品がすぐ手に入らない」という問題も生じる。そこでヤクカリは、地域内の医薬品の「在庫を売りたい薬局」と「在庫を買いたい薬局」をマッチングし、そのような課題を解決していく。

 ヤクカリでは、医薬品在庫の二次流通エコシステムを構築。これにより、ユーザーには「在庫&医薬品廃棄費用の軽減」「在庫管理の心理的ストレスの軽減」などの効果が期待され、薬局経営の改善と医療の質向上につながると考える。さらに、薬剤師のコミュニケーションツールとなるチャット機能や、医療用医薬品の販売に必要な譲受・譲渡書類をアプリ内で自動生成する機能も備えており、業務の能率化にもつなげていく。

 社会的な効果としては、患者ファーストの医療やサスティナブルな医療の実現が期待される。また、無駄が省かれることで薬価低下や医療赤字の緩和が期待できるほか、廃棄医薬品による環境汚染の軽減も見込まれる。

首藤剛氏(熊本大学)

 首藤氏は、実験動物「Cエレガンス(線虫)」を用いて健康寿命を指標化する技術「C-HAS」の開発に取り組んでいる。社会のニーズとして健康志向が高まるなかで、健康寿命の研究におけるさまざまな課題を解決していきたい考えだ。

 C-HASは、技術基盤であるCエレガンスの健康寿命の質的変化を簡単に捉える技術である。「短期間」「簡便」「自動」「多検体」「集団に分類可」といった特徴を持ち、わずか30日で「健康長寿(ピンピンコロリ)」や「不健康(ネンネンコロリ)」の程度を表せるという。

 具体的には、Cエレガンスの状態を見分けることで「寿命データの取得」や「質の評価」を行う。さらに、ピンピンコロリやネンネンコロリの程度を示す健康影響力の新指標「HaS(Healthable Score)」を開発し、これによって健康寿命の質の数値化にも成功したそうだ。

 ビジネスモデルとしてはまず、C-HASを使って新しい抗老化薬を見つける「ものづくり・探索」と、企業が持つ健康素材をC-HASで評価する「受託」を想定する。また今後は、Cエレガンスを用いたビックデータ解析や優良食品認定事業、健康影響の評価などにも取り組むことでLIFESPAN 3.0を推進し、医療費の適正化やQuality of Societyの向上に貢献したいと考える。

川添大悟氏(リンクドエイチ)

 川添氏は、病棟看護師の与薬業務を助ける内服薬AI画像認識チェックツール「kidukU(気づく)」のアイデアを披露した。病棟与薬インシデント対策においては、技術的な対策がとくにないことから、kidukUでは人的「ダブルチェック」のみに頼らない仕組みを提案する。

 仕組みとしてはまず、医師によって電子カルテシステムに入力された内服処方オーダーがkidukUのサーバーに電文送信される。次に、病棟看護師が病棟ナースステーションで従来通りに人的同時ダブルチェックを実施。そこから病棟看護師は、kidukUの病棟ナースステーション据え置き端末のセンサー部に内服薬のトレイをそのままかざす。すると、kidukUが内服薬の画像をAI識別し、自動的に内服処方オーダーの内容などと照合。その結果をディスプレイに表示し、合否をアラートで知らせる。なお、その際のレスポンスタイムは「約5秒以内」を目指す考えだ。

 さらに、病棟看護師が病室にいる患者へ内服薬を手渡す際には、病室の床頭台に設置できるkidukUのベッドサイド情報端末で最終照合を行う。これによって患者への内服薬の渡し間違いを防ぎ、与薬インシデント発生件数の低減化を実現する。さらに、医療安全への貢献や病棟看護師の業務負担軽減も見込んでいる。

大西徳幸氏

 大西氏は、汎用プラスチックを用いた革新的ながん検査技術を開発している。がん検査として近年注目されているCTC(血中循環がん細胞)検査には「血液中のCTCは非常に少なく、培養も難しいため検出が非常に困難」という課題があるのだが、大西氏はCTCを超高感度に吸着する汎用プラスチック「PMEA」を発見したことで、その課題解決を目指している。

 大西氏によれば、PMEAは全血成分が吸着しない一方で「CTCのみが接着する中間水量を持つ」ため、「全血からCTCを選択分離できる」と説明する。さらに、従来の技術では分離回収が困難だったがん細胞株も「幅広く分離回収できる」ほか、PMEAの粒子化によって「スループットが高い」、分離回収にかかる「コストが低い」といった優位性もあるという。

 PMEAでは、これまでは分離・培養が困難だったがん細胞の分離・培養が可能になるため、いままでの臨床応用が困難だった「がんの早期健診」や「抗がん剤感受性検査」が可能になる。さらに、「がん転移の早期検査」への応用も可能となるほか、抗がん剤開発やDDS等の分子標的薬への応用も期待される。最後に大西氏は、PMEAは「がん細胞に対するあらゆる分子標識薬のゲームチェンジャーになりえる」と訴えた。

稲垣大輔氏(神奈川県立保健福祉大学)

 開発途上国には、医療機器管理と教育の不足による「医療機器のトラブルや治療機会の損失」という課題がある。この課題を解決するため、稲垣氏は日本の臨床工学技術で開発途上国医療を支援するような医療機器管理・教育システムの実現を目指している。

 稲垣氏のアイデアでは、「医療機器管理システム」「オンライン教育」「臨床工学技士派遣」の3つが軸となる。「医療機器管理システム」では、医療機器の納入日や点検予定日、修理歴を把握してメンテナンス機会を適正化するとともに、調達台数の適正化によってコスト削減や稼働率の向上を実現する。「オンライン教育」では、医療機器管理システムの利用をサポートするほか、使用方法や注意点などをスマホで閲覧できるような仕組みを導入していく。さらに、「臨床工学技士派遣」で医療機器管理システムとオンライン教育が適切に活用される好循環を生み出すとともに、医療現場のサポートにも対応していく。

 なお、このアイデアはすでにJST SCORE事業に採択されており、1000万円の予算を使ってシステムを開発中とのこと。神奈川県立保健福祉大学のサポートを獲得しているほか、今年度中には海外の医療機関での実証実験を予定する。

依田龍之介氏(帝京大学)

 依田氏は、弱視の見逃しを防ぐ「3歳児支援システム」について紹介した。現在、子どもの弱視は3歳児健診でスクリーニングされているが、眼科の精密検査が必要な子どもの約38%が「親の判断で受診を中断している」という問題がある。そこで依田氏は、3歳児健診から精密検査までをスマホでシンプルに対応できるシステムを提供し、受診中断の要因となる「心理的なハードル」を取り除きたいと考える。

 システムのフローとしては、まず自治体から送信される案内をQRコードに統一し、デジタル化された問診を行うとそのまま健診の予約までが完了する。次に、健診の当日はQRコードを使ってスマホで簡単に受付ができ、健診後に異常があった場合はスマホで受信票を発行し、そのまま病院の予約までが可能にする仕組みを想定する。

 コアとなる機能は「オンライン予約」「デジタル問診」「レコメンド」の3つ。「オンライン予約」では、3歳児健診と精密検査のつなぎ目をなくすことで受診の中断を防ぐ。「デジタル問診」では、個別化された詳細な問診が可能となり、そのデータの活用も可能となる。「レコメンド」では、データを活用した適切な医療機関のレコメンドを行うことで受診を促進していく。

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連載の紹介

日経クロスヘルスEXPO 2021 リポート
日本のヘルスケア変革を支援するイベント「日経クロスヘルスEXPO 2021」(会期:2021年10月11日~10月22日、オンライン開催)。日経メディカル、日経ヘルスケア、日経ドラッグインフォメーション、日経バイオテク、日経デジタルヘルス、Beyond Healthの各編集部が総力を挙げて情報を発信します。

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