「公的なPHR(Personal Health Record)を来年度(2020年度)から積極的に個人に戻し、新事業創出につなげていく」──。経済産業省の西川和見氏(商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長)は2019年10月9日、政府の方針を明らかにした。対象となるPHRは特定健診データや乳幼児検診データなどで、マイナポータルを活用する。薬剤情報についても2021年度10月請求分から提供を開始する予定だ。

経済産業省ヘルスケア産業課長の西川和見氏(写真:渡辺 慎一郎=スタジオキャスパー)

 東京ビッグサイトで開催されている「クロスヘルスEXPO 2019」(主催:日経BP、10月9日から11日)に登壇した西川氏が、「生涯現役社会の実現に向けて」と題する講演の中で明らかにした。保険者・自治体・事業主などがこれまで個別に管理してきた個人の健康情報をまとめて保管できる環境を国として整え、民間のPHR事業者に提供する。「厚生労働省など関係省庁と連携するため検討会を立ち上げる。データ形式を標準化することで、異なるプラットフォームでデータを引き継げるようにする」と西川氏は方針を述べた。

 背景には高齢化社会に向けて、病気の治療よりも予防の重要性が高まってきたことがある。日本は高齢化が世界で最も進んでいるが、2060年には主要国のほぼ全てが超高齢社会に突入する。こうした社会構造の変化を前提に、「21世紀の課題は老化に伴う疾患にどう対処するか。日常生活の中で悪い生活習慣、環境を発見して、早い段階から見直していくのが重要だ」と西川氏は訴えた。予防の投資効果は大きく、適切な施策を打てば高齢者の医療費や介護費は兆円単位で削減できると試算している。

民間保険会社の協力も必須

 講演の中で西川氏が重要としていたのが、民間の保険会社の役割だ。「公的保険は大事だが、それだけでは不十分になってきている。医療サービスを国が提供しようとすると、どうしても一律にせざるを得ない。そこで重要となるのは、民間に保険会社だ」と語り、公的保険外サービスを充実させていく考えを示した。

 想定しているのは、民間保険を活用した予防投資の促進だ。例えば、第一生命は被保険者が健康診断の結果を保険会社に提出するだけ保険料が1割安くなる保険商品を提供している。さらにBMIや血圧、HbA1Cの数値などで条件がそろえば保険料がさらに1割下がるので、被保険者が健康を維持するインセンティブとなっている。また、住友生命の「Vitality」は保険加入者が健康増進活動をするほどポイントがたまり、そのポイントによって翌年以降の保険料が割り引かれる仕組みだ。

 西川氏の後に登壇した日本生命の神谷佳典氏(営業企画部ヘルスケア事業開発部長)は「公的医療保険がカバーしていない予防領域こそ、我々民間の保険会社が提供していくことができる」と語り、同分野を注力していく考えを示した。