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総合診療に興味や関心がある医学生や研修医の皆さんへ
総合診療に関する質問にお答えします!

2021/08/25
横田 雄也(岡山家庭医療センター 総合診療専門医研修専攻医)

著者の横田雄也氏

 岡山家庭医療センターで総合診療専門医研修を行っております、横田雄也と申します。これまでにも、専攻医の目線で総合診療や専門医研修に関して投稿して参りました。

 先日、とある大学の医学生の方から、「総合診療に関して話が聴きたいです」と連絡がありました。総合診療に興味や関心があるものの、大学の講義や実習で話を聞く機会が少ないとのことでしたので、オンライン講演会・質疑応答の会を設けていただきました。

 今回は、その質疑応答で医学生の方々から寄せられたいくつかのご質問のなかから、2つをピックアップしました。いずれも医学生や研修医がよく抱く疑問だと思いますので、ぜひ参考にしてください。

総合診療医は何でも知っておかないといけないのか

Q:総合診療では全診療科を網羅する膨大な知識が必要なのでしょうか? ハードルが高く感じてしまいます。

A:私も同様の疑問を学生時代に抱いておりました。膨大な知識や技術を身につけている、まるでスーパーマンのような総合診療医の先生がいらっしゃるのも事実です。しかし、家庭医療学の大家、Ian R. McWhinney先生は著書1)の中で次のように述べております。

 「ジェネラリストの知識は、スペシャリストの知識と同様に選択的なものです。スペシャリストと同様に、ジェネラリストも自分の役割を果たすために必要な知識を選択します。例えばくも膜下出血の場合、家庭医が知っておくべきことは、早期診断と紹介を可能にするための、この疾患で現れる症状と手掛かりです。一方、脳外科医は、詳しい病理や検査と外科的治療の技術を知る必要があります」

 総合診療医も臓器別専門医も、自分が活動する場で必要とされる知識や技術を取捨選択しながら、身につけていくことが求められます。疾患に関していえば、総合診療医であれば臓器横断的で遭遇することの多いコモンな疾患を中心とした知識や、それに対応する技術を身につける必要があります。一方、臓器別専門医であれば対象とする臓器に関連した知識や技術を中心に身につけなければなりません。

 自分が活動する診療現場で必要な知識や技術を身に付けるという点において、総合診療医も臓器別専門医も大きく変わりはありません。つまり、総合診療医だからといって、臓器別専門医と比べて必要とされる知識の量が特別に多いというわけではない、ということです。

 ここで、どのようにして総合診療医が知識や技術を磨いていくのかについて補足すると、総合診療医は「省察的実践家2)」であるといわれます。では「省察的実践家」とは何でしょうか。

 総合診療医は幅広く多種多様な健康問題に対応することが求められるため、これまでに自分が経験したことのない場面にでくわすことが多いです。しかし、予期せぬ場面であっても、準備不足だからとか、経験したことがないからといって、簡単に診療を拒否することはできません。

 そんな状況であっても、これまでの経験や知識を総動員しつつ、インターネット検索や本、もしくは他の医師からのアドバイスを活用し、現状を振り返りながら、なんとか対応していきます(行為の中の省察:reflection in action)。その後、経験した事例がどういったものであったか言語化し、振り返ります(行為に基づく省察:reflection on action)。そしてその振り返りを踏まえて、自分なりの新たな実践の理論を紡ぎ出し、次に向けた課題を認識します(行為のための省察:reflection for action)。

 これら3つの省察を通じて成長していく専門家のモデルを省察的実践家といいます。幅広く多種多様な健康問題に対応することが求められる総合診療医は、この省察的実践家というモデルとの親和性が高いと言えます。

 以上から、実践と経験を振り返りながら、常に学び続ける姿勢をもつことができれば、だれでも総合診療医を志すことができます。

総合診療医にサブスペシャリティは必須なのか

Q:総合診療に興味があると指導医に話すと、「何か専門をひとつはもったほうがいいよ」と言われました。総合診療をやっていく上では、何か専門を持っておいた方が良いのでしょうか?

A:私も学生時代、「もし総合診療をするのであれば、何かひとつ武器となるような専門をもっておいた方が良い」と、耳にタコができるくらい、様々な医師から何度も言われました。そしてそのあとに決まって言われたことは、「総合診療だけでは食っていけない」とか、「何か武器がなければ生き残れない」といった言葉でした。

 ここで表現されている「武器となるような専門性」というのは、いわゆるサブスペシャリティと言い換えられるかもしれません。そして、いただいた質問の内容は、「総合診療をやっていく上で、サブスペシャリティは必要なのかどうか」という命題にまとめられそうです。

 これについて、私は以前から、総合診療をやる上でサブスペシャリティを持つことは必須でないと考えています。

 医療体制の充実した都心部とそうではない地域、様々な診療科がそろっている大病院とそうではない中小病院や診療所とでは、総合診療医に求められる役割に違いはあります。ですが、本質は変わりません。それは、その診療セッティングで求められ必要とされていることを把握し、時にはアメーバのように自らの診療内容や業務を変えながら、それらに対応していくという柔軟性です。これは、総合診療医に求められる7つの資質・能力3)のうちの、「包括的統合アプローチ」や「多様な診療の場に対応する能力」に相当します。

 そうやって、自分が働くその場所で求められたことを実践していき、興味関心を持ってさらに学びを深め、結果的に知識や技術が身について得意となった領域を、総合診療医にとってのサブスペシャリティと呼ぶのではないでしょうか。

 例えば、臓器横断的に感染症診療を行う医師がいなかったとしたら、必要であれば総合診療医がその役割を担い、そして十分な経験を積んで知識や技術を身に付けていった結果、その総合診療医にとって感染症診療がサブスペシャリティといえるものになるでしょう。

 もちろん、ここで述べているサブスペシャリティというのは、専門医機構や学会が認定しているサブスペシャリティではなく、あくまで得意分野という意味でのサブスペシャリティです。

 総合診療をやっていく上でのサブスペシャリティは、その診療現場で必要であったり、求められて実践したりした結果、手にするものではないかと思います。自分の興味関心に従って学びを深めていくことももちろん重要ですが、サブスペシャリティは総合診療医として生き残るために身につけるものではありません。

 そしてなにより、総合診療医としての柔軟性そのものが大きな強みであり、武器となるのです。

 いかがでしたでしょうか。総合診療に興味を持っている医学生、総合診療に進もうと考えている研修医の方々は、希望とともに、様々な不安や疑問があるかと思います。今回の内容が少しでも参考になれば幸いです。

■参考文献
1)Ian R.McWhinney, Thomas Freeman(著), 葛西龍樹, 草場鉄周(翻訳). マクウィニー家庭医療学 上巻. ぱーそん書房, 東京, 2013.
2)藤沼康樹. 省察的実践家(Reflective Practitioner)とは何か. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2010; 33(2): 215-217.
3)日本専門医機構. 総合診療専門研修プログラム整備基準

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著者プロフィール

日本中の研修医のために、レジデントチャンピオンシップなど様々な活動に取り組む和足孝之氏、水野篤氏、坂本壮氏、髙橋宏瑞氏らをはじめとする「イケてる指導医」が担当します。また、先達を追いかける若手医師もときどき登壇します。

連載の紹介

イケてる指導医が研修医に伝えたいこと
日本中の研修医諸君は今、夢と現実のはざまでもがき苦しんでいるのかもしれない。こんなはずじゃなかったと立ちすくむ「あなた」に、後輩医師の指導に積極的に取り組んでいる若き指導医からのメッセージを届けます。

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