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COVID-19の重症化 自覚症状より酸素飽和度を重視せよ

2021/01/05
岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)

静かに、したたかに、人を死に至らしめる。実に静か。
これが新型コロナウイルス感染症COVID-19)の重症化から最期のイメージだ。

軽症から重症まで、この感染症を200例近く診てきた。最初、死亡例はしばらくなく、偶然と思いながらもどこかで治療方針に手応えも感じていた。しかし最近は力及ばす死亡に至る例も増えてきた。勘違いだった。

私は専門診療から久しく離れているものの呼吸器専門医でもあり、急性特発性間質性肺炎、特発性器質化肺炎(COP)などの重症呼吸不全や間質性肺炎もそれなりに診てきた。CT画像はそれらとそっくりだと思っていた。だが最近、訪問診療で慢性間質性肺炎(特発性肺線維症)の患者を診察しながら、違いに気付いた。これらの患者は動くと苦しい、息が切れるという。喘息や心不全の患者もしかり。咳込んで、ゼイゼイ、ヒューヒュと音を立てて苦しがり、ハーハー、ドキドキ、全速力で走った後のように呼吸も脈も速い。肩で息をする。患者は動的だ。

ところがCOVID-19の患者は違う。かぜのように大したことがなさそうな時間が経過する。どんどん悪くなるというよりも横ばい。しかしその後にふっと突然、パルスオキシメーターの酸素飽和度の値が低下する。「患者に苦しいか?」と聞いても、「いや、そんなに苦しくない」と答える。意識もはっきりしているのだ。
「胸が痛い」とも言わない。それほど咳込むわけでもなく、喘鳴もなく静かだ。全員ではないもののそれほどハーハー、ドキドキもしていない。至って静かなのに酸素のモニターだけ下がる。パルスオキシメーターを見なければ重症化に気付かない。患者は静的だ。
ここで人工呼吸器を選択しない場合、静かにやがて呼吸が止まる。

これが私の経験してきたCOVID-19患者の最期だ。

不謹慎だが、「自分が死ぬときはCOVID-19でも悪くない」と思うくらい苦しまない。しかし苦しがらない分、家族は突然の死に直面し、衝撃の大きい、受け入れ難い最期になるのかもしれない。しかも最期の面会もある程度、制限されてしまう。

実に静かに、したたかに人を殺すウイルスだと思う。かぜと欺いて油断させ、突如殺し屋の本性を表す。特に年寄りに、持病がある弱者に。このウイルスをかぜだと思うなら、相手の思うつぼだろう。

私は研修医にこれまで、「データや画像ばかり見ずに患者の声をよく聞け、丁寧に全身を診察しろ」と指導してきた。しかし、COVID-19に関しては、「患者の見た目にだまされるな。モニターのデータを注意深く観察しろ」と助言したい。

実際、自宅療養中に急変してしまう報告が相次いでいる。自宅やホテル療養中に、電話などで患者さんの呼吸状態などの症状の聴取や“見た目が良さそう”という判断は危険だ。

自宅やホテル療養の際も症状の聞き取りではなく、酸素飽和度をこまめに、かつ労作時も含めて測定し、低下傾向があれば速やかに病院搬送の手配に入ることが望ましいだろう。人工呼吸の適応も、自覚症状が軽いことや見た目に騙されず、酸素飽和度を重視して決定した方が良さそうだ。低酸素の出現はレムデシビルやステロイド開始の判断基準でもある。

またエビデンスはないが、標準量のステロイドを始めて3日ほどで酸素飽和度がさらに悪化するような場合に、ステロイドパルスを行うことで回復した例を複数経験している。もちろん、死亡率低下のエビデンスがあるのは、重症例に対してデキサメタゾン6mg1日1回、10日間投与を行うことである。それでも改善がない場合、私たちは最近、ステロイドパルスを行って良い反応を得ていることをエキスパートオピニオンとして報告しておく。

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著者プロフィール

岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授)●おかひであき氏。2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2020年7月より現職。

連載の紹介

岡秀昭の「一般外来で感染症をどう診る?」
「感染症専門医が勧める検査なんかいちいちやってられない」――感染症治療に対して、そんな思いを持っておられませんか? 岡秀昭氏をはじめとした埼玉医大総合医療センター感染症科のメンバーが、プライマリ・ケア医が最低限押さえておくべき感染症診療のポイントを解説します。

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