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【番外編】
医療崩壊寸前 ある日のコロナ病棟診療の苦悩

2020/12/25
岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の1日の患者数が250人を超えた埼玉県。埼玉医科大学総合医療センターで、COVID-19患者への対応の指揮を執る岡氏は12月23日、自身のFacebookで一般の方向けのメッセージを書き込んだ。今回は“番外編”としてそのメッセージを加筆していただいた。(編集部)

新型コロナウイルス感染症診療の現場から。

ある日は4人の陽性者の入院要請。
3人は受け入れたが、1人は既に人工呼吸器が必要な状態の重症で苦渋のお断り。コロナ用ICUは院内の重症発生用の1床を除いて即応病床は満床だ。断りたくて断っているわけではない。これ自体とてもつらい。

第2波の頃と違い入院患者、入院要請患者は全員50歳以上や何らかの持病がある患者。軽いものは滅多にいない。最初は軽症でも、次第に呼吸不全が進行して、「来院時は中等症でも現在は重症」という患者が複数いる。最近の入院する患者では、ほとんど全ての患者で酸素吸入が必要になる印象だ

その中には、丁寧かつ繰り返し病状説明を行い、本人や家族の意思で延命希望はないため、看取るために人工呼吸器をつながずに鎮静鎮痛薬を入れて最後の時間を待っている者もいる。この患者は恐らく、行政から報告される「重症」にはカウントされていない。

人工透析が必要なコロナ患者も複数人いる。管理には重症に準じる手間がかかるが、これも重症にはカウントされていない。認知症で夜中に徘徊してしまうような看護に手がかかる患者も重症にはカウントされない。

「表面的なコロナの重症度だけを記した役人書類で現場を判断するんじゃない。まずは現場を見に来い」と本音は言いたい。臨床現場の患者では重症度は時事刻々変わるのだ。報告書に記された一時の状況資料で医療崩壊なんて起きているはずがないと判断してはならないはずだ。

コロナ病棟の患者管理の合間に、いろいろな診療科から「この患者はコロナかどうか?」というコンサルトが相次ぐ。このジャッジを間違えると患者に危害が及ぶだけでなく、院内感染の芽になるため結構な責任がありストレスがかかる。

もちろん通常の外来や病棟、コンサルトの業務、それから他の医師への教育講義、会議もある。

通常の仕事を行っている間にコロナ病棟の患者の具合が悪くなったとの連絡があった。血液培養で黄色ブドウ球菌が出ていた。細菌感染を併発したのだ。黄色ブドウ球菌菌血症では、ご存知のように血液培養を頻回に繰り返したり、感染性心内膜炎や椎体炎などがないか丁寧に身体所見をとり、心臓の超音波検査などを行わなければいけないが、防護服を着ながら感染症病棟内でそれを行うのは、いつもと同じことでもより時間がかかる。それをしている間に意識が悪化したが、そうなると頭部CT検査に患者を運ぶのも簡単ではない。

最終的に黄色ブドウ球菌の菌血症で脳膿瘍、細菌性髄膜炎を起こしていると診断。もはや意識障害も強く、元々のCOVID-19の重症度と治療経過も総合的に考えて救命は困難だと私は判断した。人材も場所も限られる中、助けられる可能性の高い患者にその資源を集中させる必要がある。本来は黄色ブドウ球菌の菌血症であれば、感染症専門医の本領が発揮できるところなのであるが、その決断にスタッフ全員で意気消沈してしまう。

人工呼吸器のついた重症ICU患者も感染症科のスタッフが主治医対応している。たくさんのスタッフが交代でつきっきりだ。私もICU当直をすることにし、12月24日は私の当直日だった。教授がクリスマスイブに当直をすることを医療崩壊の一つの定義として提案したい。

これが私たちの見ている今の日常である。

これがかぜなのか? 幻なのか? よく考えてほしい。

あまり自宅に帰れていないが、帰路の渋滞や減らない人出を見ると心境は複雑だ。「新型コロナはかぜだ」「指定感染症の指定を外せ」「本書いたりテレビ出る時間があるんだろ」など、外野からの余計なヤジに耐えることも精神修行。まあ空気吸って、河野大臣が減らすと言ってるはずのハンコを食事しながら押して3時間くらい寝る時間は確かにある。ただ、正直、コロナより世論が怖い。もしかしたらメディア対応をすることで、反対意見の人に刺されるかもしれないと思うこともある。しかしこのままでは患者も、組織も、医療も守れない。そのような想いでメディア対応もしているのだ。

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著者プロフィール

岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授)●おかひであき氏。2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2020年7月より現職。

連載の紹介

岡秀昭の「一般外来で感染症をどう診る?」
「感染症専門医が勧める検査なんかいちいちやってられない」――感染症治療に対して、そんな思いを持っておられませんか? 岡秀昭氏をはじめとした埼玉医大総合医療センター感染症科のメンバーが、プライマリ・ケア医が最低限押さえておくべき感染症診療のポイントを解説します。

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