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【番外編】
もうCOVID-19診療で現場は限界、すぐに対策を

2020/11/27
岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の累積患者数が8000人を超えた埼玉県。埼玉医科大学総合医療センターで、COVID-19患者への対応の指揮を執る岡氏は11月26日、自身のFacebookで一般の方向けのメッセージを書き込んだ。今回は“番外編”としてそのメッセージを再編集して掲載する。(編集部)

 今までは「コロナですか?」という相談のほとんどは別の病気だったのですが、いよいよそんな相談だけでなく、偶然受診した熱や肺炎の患者さんが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかっているという状況になりました。そのくらい流行が広がっています。もう誰でも普通にかかる病気になりました。他の医療機関でCOVID-19と診断された患者の転院・入院依頼も多く、病床が埋まっています。

 私が務める埼玉医大総合医療センターは、届出病床数からすればまだ空床があるのですが、この「届出病床数」というのは行政上の手続きに基づくものです。現場からすると実際に余裕があるのか些か疑問です。うちの場合、今まではCOVID-19患者を感染症専門医が診ていましたが、最近は感染症以外を専門とする内科のみならず、外科にも対応してもらってます。つまり私たち専門の医師だけでCOVID-19患者を診るには限界を迎えており、結果として他の専門科の診療にも支障が出始めているのです。大学病院は本来、高度な医療を提供するのが役割です。現在のような体制では癌や脳卒中、心臓病のような命にかかわる病気の診断が遅れ、治療も滞ることになります。いわば、不慣れなパイロットまで動員して飛行機を飛ばし、「飛行機(しかも未整備で本当に飛ぶかは分からない)はまだ余ってるから大丈夫」というのが現在の政治判断なのです。皆さんは安全だと思いますか?

 入院症例も、以前は確かにかぜみたいな軽症患者が多かったのですが、現在は半数近くが酸素を投与しないと呼吸不全になってしまいます。これは定義によっては中の上以上の重症度になります。「COVID-19はただのかぜ」との意見もありますが、このような頻度で、1週間も熱が続いて呼吸不全になるかぜは見たことがありません。「コロナはただのかぜ」説や、「コロナが弱毒化した」という変異説を真に受けない方がいいです。

 確かに若い人は本当にかぜのように治るかもしれません。ですが、1人かかると家族内感染が起きます。結果として大切な家族を苦しめ、最悪、命を落とすことになりかねません。たくさんの人が感染してしまうと一部は重症化し、すぐに氾濫する河川のように被害をもたらします。これがこの感染症の恐ろしさです。仮に個人は大丈夫だとしても集団に及ぶと一気に危機的になるのです。

 かかっても特効薬がある? ファビピラビルが効く保証はありません。より研究が進んでいたレムデシビルも、WHOは「推奨しない」と言っていますし、映画「コンテイジョン」のような「回復期血漿で劇的に回復」という夢も最近の研究報告で消えました。唯一、ステロイドだけが重症者の死亡率を下げることが分かっていますが、重症でも自然に良くなる人もいますし、正直特効薬とは言いにくい。つまり、かかったら自然に治るのを祈って、重症化してしまったらステロイドを投与して回復を待つしかできない病気です。だから、自然免疫など期待せずにかからないのが一番なのです。

 ワクチンの開発も進んでいますが、まだよく分かりません。現時点の報告では副反応(副作用)の心配が拭えませんので、少なくとも私は、実用化されてもしばらくワクチンを打たずに様子をみるつもりです。

 さらに、人工呼吸器以上の治療を必要とする重症例への治療になると、患者1人に対して看護師、技師、医師など多数の人員による24時間のケアが必要になります。それが長ければ数週間続きます。しかも、自分たちが伝染しないよう、防護具を付けて精神を集中しながら行うのです。無症状者からも感染し得る感染症に対して、「院内感染が起きたら悪」という風潮にもおびえながら。ECMOについても「これをやれば助かる」というより、今年の日本シリーズの最終戦、9回表の巨人のような状態だと思っています。逆転を神様に期待する戦況での時間稼ぎという感覚に近いのかもしれません。

 このような重症患者に対する治療はトレーニングと経験を積んだ医療者が必要で、医師免許があれば誰でもいいわけではありません。ちなみに私は感染症の専門家ですが、集中治療については満足な管理はできません。このまま重症患者があふれれば、従来ならば助けられていた命を諦める、“命の選択”に現場も家族も迫られることになるでしょう。

今対策して、2週間後の医療崩壊を止めたい

 「経済を回すにはどうしたら良いのか?」というのは、私は経済の専門家じゃないのでよく分かりません。ですが、『感染を抑えながら経済を回す』ことは可能であっても、「感染が増えるなかで経済を回す」というのは、やはり不可能ではないでしょうか。気持ちは分かりますが、現実から目を逸らさずに一部から嫌われても、政治家にはまずは感染抑制に面舵いっぱいに切ってもらうしかないのではないでしょうか。いずれにしても、「届出病床が何%しかまだ埋まっておらず、人工呼吸器が足りているから、まだゆとりがある」などと、安全なところから書類の数字を眺めているだけではこの切迫感は分からないはずです。

 皆が感じているように、まだ3波のピークが来たとは言えません。このまま策を打たなければ、今後1~2週間でさらに患者は増え、それに1週間程度遅れて重症者が増えます。現在ですら医療提供体制に限界がきていますから、2~3週間後には医療崩壊を迎えてしまいます。院内感染が起き、病院機能が麻痺するともっと早く医療崩壊が起きるかもしれません。それに伴って12月中旬から年末に緊急事態宣言を出すような事態になれば、年末のかきいれどきのダメージが大きくなりますから、結局、経済も崩壊してしまうように思います。

 別に私は不安をあおりたいわけではありません。

 上記の話は、このまま無策だった場合です。もう感染拡大は始まってしまいましたが、ピークの高さはまだ変えられます。今すぐの対策で2~3週間後のピークを抑える必要があるのです。この感染症は今の数字を眺めてから対処しては後手にまわります。繰り返しますが、現場感覚では、もう今が限界です。「Go To○○」からどの都市を外すべきかという議論に時間をかける余裕はありません。また、平日昼間のテレビに出ている“専門家”の治療や検査に関するコメントも疑問です。この忙しい状況でその時間を取れるということは、実際に患者を診ていないのではないかと思えるからです。

 これまでの経験から、感染者数の推移についてある程度予測がつくようになっていますので、現場の感覚を参考に早めに対策を行ってほしいです。臨床現場で働く医療従事者も旅行にも飲み会にも行きたいのです。それを制限し、我慢しているのは、そして世界中でロックダウンや行動制限を行っているのは、それなりの怖さのあるウイルスだからです。根拠のない楽観論に流されず、正しく恐れてまずはしっかり感染を抑えて、旅行に行けるようになるとよいですね。

 あと、お願いですが、「検査をバンバンやれ」という報道がありますが、これ以上の感染が拡大して軽症の方が検査を求めてくるようになるのは正直困ります。まずはいきなり受診せず電話相談をしましょう。

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著者プロフィール

岡秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科教授)●おかひであき氏。2000年日本大学卒。日本大学第一内科で研修後、横浜市立大学、神戸大学、東京高輪病院などを経て、2020年7月より現職。

連載の紹介

岡秀昭の「一般外来で感染症をどう診る?」
「感染症専門医が勧める検査なんかいちいちやってられない」――感染症治療に対して、そんな思いを持っておられませんか? 岡秀昭氏をはじめとした埼玉医大総合医療センター感染症科のメンバーが、プライマリ・ケア医が最低限押さえておくべき感染症診療のポイントを解説します。

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