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インタビュー◎愛知医科大学感染症科・教授の三鴨廣繁氏に聞く
COVID-19院内感染対策に死角はないか
COVID-19施設内クラスターに対する対応の推奨を提示

 第4波の襲来が懸念される新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。流行が広がりだすと心配されるのが病院や高齢者施設などの施設内感染の発生だ。感染対策に死角はないのか──。日本感染症学会が実施した実態調査で浮かんだ教訓について、COVID-19院内感染対策検討ワーキンググループ委員長の三鴨廣繁氏に聞いた(敬称略)。

── 日本感染症学会は2021年2月に、2020年11⽉24⽇〜12⽉18⽇に実施したCOVID-19 施設内感染アンケート調査の結果を公表されました。この調査の狙いは何だったのでしょうか。

愛知医科大学感染症科・教授の三鴨廣繁氏

三鴨 病院や高齢者施設などの施設内感染の実態を解明して、そこから得られる教訓をみんなで共有し、感染対策の強化につなげることです。これまでCOVID-19の院内感染は全国で起こっていました。施設内感染による患者数はCOVID-19全体の10%ぐらいを占めるという調査結果(関連記事)もありますし、いったん発生すると、外来機能を止めたり、新規入院を断らざるを得なかったりと病院の機能が著しく低下します。1つの病院で発生すると、地域医療全体が大きな影響を受けます。ですから重点的に対策をとり続ける必要があるのです。

── 調査には全国の医療機関や高齢者施設の263施設から回答がありました(勤務先別:病院229件、医院・クリニック等29件、その他高齢者施設など5件)。そのうち、16%に相当する42施設が施設内感染を経験したと回答しています。

三鴨 施設内伝播を経験した42施設は40.5%が500床以上で、78.6%がCOVID-19の入院管理を行っている中〜⼤規模の地域中核病院でした。その回答をまとめると表1のような結果となりました。

表1 施設内伝播を経験した42施設の回答

・COVID-19 に対する基本的な院内感染対策のマニュアルの整備や教育などはほぼ全ての施設で実施されていた。
・院内伝播事例の発端者は、患者、職員の順であり、院内伝播に関連した罹患者は、看護師、患者、医師の3者が大半を占めた。
・発端者の覚知から1日で感染対策を行ったのは19施設(45.2%)、3日以内が32施設(76.2%)であるが、7日以上経過してから開始した施設が7施設(16.7%)見られた。
・発端者の確認から最終発症者までの日数は、85%の施設で2週間以内に収まっていたが、⼀部4週間以上続いている施設も見られた。
・施設内伝播の推定要因については、患者-職員間、職員間、患者間が上位を占めた。
・濃厚接触者からの発症のみでなく、それ以外からの発症者も見られた。
・施設内伝播時の感染対策としては、患者および職員など接触者へのPCR検査が約90%の施設で実施され、職員の感染対策の徹底(マスク、手指衛生、食事など)も80%以上の施設で実施されていた。また患者の感染対策(マスク、手指衛生)、環境整備の徹底(高頻度接触面の消毒)は半数以上の施設で実施された。新規入院や外来診療の制限は半数程度であった。

 その回答から大きく4つの教訓が明らかになりました。1つ目は、COVID-19 に対する基本的な院内感染対策のマニュアルの整備や教育などは、ほぼ全ての施設で実施されていた点です。それでも院内感染が起こってしまったわけですから、マニュアルが形骸化していないか、遵守されているか、などを定期的にチェックする必要があると考えられます。また、クラスター発⽣時の対応が含まれているかなど、マニュアル内容の見直しも求められます。

図1 COVID-19の施設内伝播事例における患者の罹患ならびに罹患した職員の職種

── 院内伝播事例の発端者を見ると、患者(23件)そして職員(13件)の順でした。また、発端者が分からない例が6例と少なくないことを考えると、施設外からの新型コロナウイルス持ち込み例を完全に防ぐことは難しいのではないかと思います。

三鴨 確かに持ち込み例をゼロにすることは難しいことです。それでもゼロにする努力は続けなければなりません。また、調査ではCOVID-19の施設内伝播事例について、患者の罹患ならびに罹患した職員の職種別の割合を明らかにしていますが、看護師と患者、それに医師が多かったのです(図1)。つまり、感染者を早期発見し早期に対処するために、⽇頃からの症状サーベイランスがとても重要だということが分かります。これが2点目の教訓です。

── 感染経路は職員間、患者間、職員と患者間があり、濃厚接触者でない接触者からの感染伝播事例もありました。

三鴨 調査では、施設内伝播事例が発生した推定要因についても答えてもらっています(図2、複数回答)。結果を見ると推定要因は多岐にわたることが分かりますが、注目したいのは患者-職員間、職員間、患者間の伝播が上位を占めていることです。接触者における発症を見ると、濃厚接触者からのみ発症が21件、濃厚接触者以外の接触者から発症が7件、濃厚接触者と濃厚接触者以外の接触者からの両方が発症は13件でした。つまり3つ目の教訓は、濃厚でない接触者であっても濃厚接触者と同等の対応が必要だということです。濃厚接触者でないから大丈夫と安易に考えてしまうのは危険です。

図2 施設内伝播事例が発生した推定要因

── 発端者の確認から感染対策実施までの時間が、施設によってばらばらという印象です。

三鴨 表1にまとめたように、発端者の覚知から1⽇で感染対策を実施したのは19 施設(45.2%)、3日以内が32施設(76.2%)でした。これに対して、7日以上経過してから対策を開始した施設が7施設(16.7%)もありました。発端者を覚知後、即日に感染対策を行えている施設は半数にも満たないのです。COVID-19の特性を考えると、発端者を覚知した段階で既に院内に感染が広がっている可能性があるため、事前に初動をシミュレーションしておくとともに、施設内で発端者を覚知した時点で迅速な対応が必要となります。これが4つ目の教訓です。今回の調査に当たったワーキンググループとして「COVID-19施設内クラスターに対する対応の推奨」(表2)をまとめていますので参考にしてください。

表2 COVID-19施設内クラスターに対する対応の推奨

【事前準備】
* どの患者・職員から感染者が出たとしても濃厚接触者とならないように、職員・患者ともに⼿指衛⽣やサージカルマスク着⽤を徹底する。職員は⾷事時間の個⾷を徹底し、⾷器やリネンなどの共有を避ける。
* 施設内のCOVID-19感染対策マニュアルを策定する。
* COVID-19感染対策マニュアルが遵守できているか確認する。
* ⼊院患者または職員が発症した場合の初動体制(隔離、ゾーニング、診療体制)の構築とシミュレーションを行う(個⼈⽤防護具の着脱訓練等)。
* 保健所との連携の構築しておく。
* 院内感染状況把握のための新型コロナウイルス感染症検査(可能な限り抗原定量検査やPCR検査)の整備を⾏う。
* アルコール手指消毒剤や個⼈⽤防護具の確保のため、使⽤状況や在庫の定期的なモニタリングを行う。
* 疑い患者または職員の早期発⾒のための症状サーベイランスを実施する。
* 地域流行期にハイリスク患者(新入院肺炎患者、全身麻痺患者等)のスクリーニング検査を実施する。

【クラスターが発⽣した場合の対応】
* 平日・休日・夜間にかかわらず事例覚知後、直ちに疫学調査を行い、対応策を検討する。
* 施設内対策本部の設置、感染防止策の再確認ならびに強化、院内での情報共有、保健所と密に連携を取りつつ日々の方針を決定する。
* 外来診療や入院の制限を検討する。
* 感染者、疑似症患者、濃厚接触者、非接触者のゾーニングとスタッフの区分けを行う。
* 新型コロナウイルス感染症検査(PCR 検査や抗原定量検査)は濃厚接触者に限定せず、(感染者が発症する少なくとも2日前から)接触した職員・患者に対して広く積極的に実施する。
* 接触者は初回新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)後、有症状時だけでなく施設および施設規模に応じて適切なタイミングや範囲で新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)を実施する。
* 感染者の出た病棟に関して、患者の部屋移動・病棟移動・転院を制限する。
* 感染者の出た病棟の患者が検査などで病棟外へ出ることについて慎重に検討する。
* 濃厚接触となる職員は休務とし、他部署からの支援を検討する。また支援する職員はクラスター収束まで元の部署に戻らない。
* 最終発症者(職員・患者とも)が出た日をday 0とし、そこから少なくとも14日間は発症者が出ていないことを確認してからクラスターの収束の検討を行う。また収束までに少なくとも2回は全接触者に新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)が行われていることが望ましい。
* クラスター発症要因の解析と再発防止対策を実施する。

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著者プロフィール

三和護(日経メディカル編集委員)●みわ まもる。1984年筑波大学大学院医科学修士課程修了。同年日経BP入社。感染症や循環器領域をはじめ、診断エラー学、医師患者関係、心不全緩和ケアなど幅広いテーマに取り組む。共著に『期待されるシルバービジネス』(ダイヤ財団新書)『バイオバンクの展開』(上智大学出版)。

連載の紹介

三和護が迫る「COVID-19の核心」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全体像を俯瞰。COVID-19対応の問題点に迫り、その解決のために今、何をすべきなのかを考えます。

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