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外来診療クイックリファレンス

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)

 
中村志郎(大阪医科薬科大学第2内科[消化器内科]/炎症性腸疾患センター専門教授)

 炎症性腸疾患(IBD)の患者数は、日本を含め世界的に年々増加の一途をたどっていることが報告されている。わが国の患者数は、特定疾患の医療受給者・登録者数によると2014年度潰瘍性大腸炎(UC)は約18万人、クローン病(CD)は約4万人と公表され、希少疾患とされた時代は過ぎ去り、日常診療においてcommon diseaseとなりつつある。
 IBD診療に関するガイドラインとして、海外では欧州クローン病・大腸炎会議(ECCO)によるものが最も代表的で、2016年にCDの第3版、2017年にはUCも第3版が公開されている。国内では日本消化器病学会の「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016」と厚生労働省が主管する難病研究班による「潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針」がある。治療指針は毎年改訂作業が行われ常に最新の診療情報が提供されており、現在もわが国におけるIBD治療の規範として広く普及し、診療現場で最も活用されている。本章では研究班の診断基準・治療指針を中心にIBD診療のエッセンスを概説する。

診断

《(1)潰瘍性大腸炎》


 本症の初期症状としては、排便時の粘血・血便、下痢、腹痛などが一般的であるが、重症化すると血性下痢や発熱なども認められる。診断の手順については、臨床症状から本症を疑った場合、基本的には大腸内視鏡検査(生検含む)に移行するが、それと並行して理学的検査や血液検査、ならびに病原菌や寄生虫スクリーニングを目的とした糞便検査も必ず実施する。問診の際には、放射線照射歴、抗菌薬服用歴、海外渡航歴などについても確認しておくことが必要である。血液検査について軽症例は、炎症反応や貧血は軽微な場合が多く、異常値を認めない例も存在する。
診断は持続性または反復性の粘血・血便(あるいはその既往)があり、大腸内視鏡検査で直腸にびまん性の炎症所見(細顆粒状粘膜・びらん・潰瘍など)が観察され、さらに生検組織検査でびまん性の炎症性細胞浸潤・陰窩膿瘍・杯細胞の減少が認められれば確定される。確定診断時の注意点としては感染性疾患を除外することが最も重要である。細菌性腸炎ではカンピロバクター腸炎、サルモネラ腸炎、寄生虫疾患ではアメーバ赤痢がUCと誤診されやすい感染性腸炎である。また、軽症のUCでは、典型的な血便を伴わず下痢のみの例も存在し、内視鏡検査などが実施されず、症状のみから下痢型の過敏性腸症候群(IBS)と臨床診断されている場合もまれではないので注意が必要である。IBSとIBDの鑑別については、便潜血反応や便中カルプロテクチン検査(2017年より保険承認)の有用性が報告されている。

《(2)クローン病》


 本症の代表的な症状としては、若年者に慢性的に続く腹痛や下痢、発熱、体重減少が挙げられる。発熱はしばしば38℃以上の弛張熱で、大半の患者において小腸病変を認めるため、比較的病初期から体重減少をはじめとする栄養障害を来しやすい。また、約80%の患者において、肛門周囲膿瘍や痔瘻(しばしば複雑)あるいは肛門皮垂といった特有の肛門病変が経過中に出現する。よって、若年者が上記のような特徴的な肛門病変で受診した場合には、臨床症状が乏しくとも専門医への紹介を含め、クローン病の可能性を考慮した精査を進めることが望ましい。血便はUCに比較し出現の頻度はまれ(10%未満)ながら、しばしば臨床的な非活動期に大量出血を生じる例があり注意が必要である。
 診断に際しては、症状や随伴徴候からCDが疑われた場合、大腸・上部・小腸内視鏡や小腸・注腸造影検査などにより全消化管の病変スクリーニングが求められる。CDでは通常の上下部内視鏡検査では観察し得ない小腸のみに病変を有する場合も多いので、小腸内視鏡や造影検査が困難な施設では肛門部病変の確認にも有用なMRIやCT検査を参考に判断する。血液検査では、UCに比較して炎症反応は一般的に高度で、病初期より鉄欠乏性貧血や低蛋白血症、低コレステロール血症などが確認される場合も多い。CDで問題となる代表的な鑑別疾患として、腸結核・エルシニア腸炎・腸型ベーチェット病などが挙げられる。このため、便および病変部粘膜の一般細菌・結核菌検査に加えて、ツベルクリン反応検査あるいはT-spotやQFTといったインターフェロンγ遊離試験(IGRA)も実施し、問診では陰部潰瘍や針反応などベーチェット病に特徴的な徴候が認められないか確認する。
 CDの確定診断は、(1)主要所見:A.縦走潰瘍、B.敷石像、C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫、(2)副所見:a.消化管の広範囲に認める不整形~類円形潰瘍またはアフタ、b.特徴的な肛門病変、c.特徴的な胃(竹の節状外観)・十二指腸病変(ノッチ様陥凹)に基づいてなされ、主要所見のAまたはBを有するもの、主要所見のCと副所見のaまたはbを有するもの、副所見のすべてを有するものが確診例とされる。

管理・治療

《(1)潰瘍性大腸炎》



a. 内科治療の進歩と最新の治療体系


 近年、UCの内科治療は急速な進歩を遂げている。すなわち、5-ASA製剤(メサラジン〈ペンタサアサコールリアルダなど〉)の高用量化と遠位到達性の改善、ならびに従来にはなかった多数の有効なステロイド代替療法の登場と要約される。その結果、十分な5-ASA製剤治療により安易なステロイド全身投与を回避し、難治例においても早期からステロイド代替療法の介入を行い、積極的にステロイド離脱を図りステロイド・フリーの臨床的寛解を長期に維持することが治療目標となってきている。
 現在のUC内科治療の基本は、患者の臨床的な重症度に応じて治療内容を強化するstep upとなっている。5-ASA製剤を第1選択とし、効果が不十分であれば第2選択としてステロイドを使用する。ステロイドを用いてもうまくいかない症例は「難治例」として取り扱われる。難治例はUCの約30%程度存在し、その治療はステロイドに対する反応性に基づき依存性と抵抗性の病態別に治療戦略が判断される。これら病態に応じた適切な治療でも効果が不十分な場合、最終的には結腸切除の適応が考慮される。

b. 内科治療指針


 最新の治療指針を表1に示す。治療内容は、患者の臨床的重症度と病変範囲に基づいて判断される。重症例は入院治療を原則とし、劇症型は外科医にも相談のうえ治療にあたり、1~2週間を目処に緊急手術の適応を判断する必要がある。高齢者や基礎疾患などにより免疫能の低下した患者に、ステロイド全身投与や強力に免疫を抑制する治療を適応する場合には、サイトメガロウイルス(CMV)感染症やニューモシスチス肺炎などの日和見感染に注意する。

[寛解導入療法]
(1)直腸炎型:5-ASAの局所製剤(サラゾスルファピリジン〈SASP:サラゾピリン〉坐剤、メサラジン坐剤・注腸)または、経口製剤(SASP、時間依存型・PH依存型メサラジン)で治療を開始し、改善が得られない場合は製剤の変更や追加併用を行う。それでも効果不十分な場合、ステロイドの局所製剤(坐剤・注腸)を使用する。

(2)左側大腸炎型・全大腸炎型:軽症ではまず5-ASA製剤の経口投与を行う。注腸の併用により効果の増強が期待できる。改善が得られない場合はステロイド注腸あるいは全身投与を検討する。ステロイドの全身投与を行う場合、中等症ではプレドニゾロン(PSL:プレドニンなど)30〜40mgの経口投与、重症ではPSL40~80mg(成人では1~1.5mg/kgを目安とするが、最大で1日80mg程度とする)の点滴静注投与で治療を開始し、効果が得られれば中等症と同様にPSLを漸減する。
 劇症型は絶食のうえでステロイド大量静注療法を行い、早期に効果判定を行う。症状の明らかな改善がみられない場合はシクロスポリン(CYA:サンディミュン)持続静注療法*、タクロリムス(TAC:プログラフなど)の経口投与を試みてもよいが、改善のない例では緊急手術を考慮する。

(3)難治例:適正なステロイド使用にもかかわらず1~2週間以内に明らかな改善が得られないステロイド抵抗例では、血球成分除去療法、TAC経口投与、TNF-α阻害薬(インフリキシマブ〈IFX:レミケード〉、アダリムマブ〈ADA:ヒュミラ〉、ゴリムマブ〈GLM:シンポニー〉)、CYA持続静注*(ただしCYAは保険未承認)などが選択可能である。ステロイド減量に伴い再燃増悪するステロイド依存例では、免疫調節薬のチオプリン製剤(アザチオプリン〈イムランアザニン〉など)を開始し、1〜2カ月後を目安にPSLを漸減中止する。免疫調節薬不耐例や効果不十分な例では、血球成分除去療法、TAC経口投与、TNF-α阻害薬の投与を考慮する。

[寛解維持療法]
 5-ASA製剤の経口投与または局所治療の単独または併用を行う。直腸炎型の寛解維持では局所治療の単独あるいは併用も有用である。難治例では原則として免疫調節薬による寛解維持治療を行う。TNF-α阻害薬で寛解導入を行った例では、投与継続による寛解維持療法を実施する。*保険適用注意

《(2)クローン病》



a. 内科治療の進歩と最新の治療体系


 最新の治療指針を表2に示す。TNF-α阻害薬の登場後、わが国のCD内科治療体系は大きな変貌を遂げている。従来はまず栄養療法が最優先されてきたが、現在は、栄養療法と薬物療法が対等に位置づけられ、患者の病状や栄養療法に対する受容性に応じて治療を選択するよう推奨されている。栄養療法を中心に治療してもよいし、薬物療法主体、あるいは両者を併用してもよい。薬物療法の戦略には、従来からの患者の疾患活動性に応じて、5-ASA製剤やブデソニド(ゼンタコート)からステロイド、TNF-α阻害薬(IFX、ADA)、抗IL-12/23抗体製剤ウステキヌマブ(UST:ステラーラ)というように治療内容を強化するstep upの考え方が残っている。

b. 内科治療指針


[活動期の治療]
(1)軽症~中等症:ブデソニドまたは経口5-ASA製剤が第1選択薬として用いられる。患者の受容性がある場合は経腸栄養療法も有用で、1日の摂取カロリーの半分程度(通常900kcal/日程度)が継続的に摂取されれば確実な再燃予防効果が報告されている。経腸栄養剤としては成分栄養剤(エレンタール)がまず選択されるが、受容性が低い場合には半消化態栄養剤(ラコールNFなど)を用いてもよい。

(2)中等症~重症:薬物療法を中心とする場合は5-ASA製剤のほか、PSL40mg/日程度の経口ステロイド投与、メトロニダゾール(フラジールなど)*、シプロフロキサシン(シプロキサン)*の投与を試みる方法もある。ステロイドの減量、離脱が困難な場合は免疫調節薬(チオプリン製剤)を併用する。ステロイドや栄養療法などの寛解導入療法が無効な場合はTNF-α阻害薬、あるいは抗IL-12/23抗体製剤の投与を考慮する。

(3)重症例:外科治療の適応の有無を検討する。内科治療を行う場合は、感染症の合併がないことを確認した後にステロイドの経口投与または静脈投与を行う。ステロイド抵抗例ではTNF-α阻害薬、あるいは抗IL-12/23抗体製剤の投与を考慮する。栄養療法を中心とする場合は、著しい栄養低下、頻回の下痢、小腸病変が広範で重篤な場合、高度な腸管狭窄や肛門病変、瘻孔、膿瘍形成、大量出血などを有する場合や、通常の経腸栄養療法が困難あるいは効果不十分な場合は絶食のうえで完全静脈栄養療法を行う。

[寛解期の治療]
 活動期に対する治療により寛解が導入されれば、寛解維持療法を行う。寛解維持療法としては在宅経腸栄養療法、5-ASA製剤、免疫調節薬などの薬物療法が用いられる。TNF-α阻害薬や抗IL-12/23抗体製剤により寛解導入された後は、それぞれの定期的な投与が寛解維持に有効である。
 TNF-α阻害薬による寛解維持療法の経過中、約半数の症例において維持投与間隔の期間中に治療効果が持続しなくなる“二次無効”を生じる場合がある。そのような症例に対してIFXでは投与期間の短縮または倍量、ADAでは倍量投与が保険承認されているが、まずは病変の再評価を行い高度な腸管合併症が形成されていないか精査し、手術適応の必要性についても検討したうえでTNF-α阻害薬の強化や抗IL-12/23抗体製剤への移行について判断する。
*保険適用注意

経過・予後

 生活習慣では、両疾患とも再燃予防の観点から過労や過度の精神的なストレスを避け、感冒の流行期にはマスクを装着するよう指示する。CDでは喫煙は内科治療に対する反応性も低下させるため、禁煙の必要性を十分に説明する。食生活については、暴飲暴食・刺激物・過量のアルコール摂取の回避が基本となる。乳製品については適量の摂取はよいが、摂取により下痢傾向を示す場合には控えてもらうのが望ましい。臨床的な寛解期の場合、UCでは上記原則のもとで健康時と同様の食生活への復帰は十分可能であるが、CDでは動物性脂肪は寛解期からある程度控えめとするよう説明する。

 UCでは内科治療の進歩により手術が回避され長期の治療経過を有する患者の増加が予想されるが、そのような例では大腸癌合併率の上昇が報告されている。慢性炎症を母地としdysplasiaを介した発癌のため、通常の大腸癌と異なり、粘液癌や印環細胞癌の比率が高く、多発かつ深部浸潤傾向も強いことが知られている。病変も平坦型が多く、背景粘膜も正常ではないため内視鏡でも認識が難しい例も多々存在する。このため、左側大腸炎型・全大腸炎型で、発症から8〜10年以上の経過例では、1〜2年ごとに大腸内視鏡検査によるサーベイランスを実施することが肝要である。
 CDの場合、長期経過に伴い消化管機能の障害が蓄積されていくことが知られている。すなわち、発症早期には潰瘍形成のみの炎症型の症例が大半を占めるが、経過とともに、狭窄や瘻孔(内瘻・外瘻)、膿瘍といった腸管合併症が形成され手術適応となる例が増加する。栄養療法が主体であった時代のわが国における手術率は、発症から5年で約30%程度、10年で約60%程度、さらには再手術率も同程度と報告されていた。しかし、近年、免疫調節薬とTNF-α阻害薬の普及により、わが国でも手術率が有意に減少していることが報告されてきている。

参考文献

日本消化器病学会 編:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016.南江堂,東京,2016.
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班):潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版.平成29年度分担研究報告書別冊,2018.
Published ECCO Guidelines.〈https://www.ecco-ibd.eu/publications/ecco-guidelines-science/published-ecco-guidelines.html〉

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連載の紹介

外来診療クイックリファレンス
日常の外来でよく診る主要100疾患+αについて、各領域の専門医が最新の診療ガイドラインに基づき、診断や治療を分かりやすく解説します。ガイドラインの改訂や新薬登場などに応じて内容は定期的に更新します。

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