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外来診療クイックリファレンス

肺高血圧症

 
福本義弘(久留米大学医学部内科学講座心臓・血管内科部門主任教授)、杦山陽一(久留米大学病院内科学講座心臓・血管内科部門)、田原宣広(久留米大学病院循環器病センター准教授)

 肺高血圧症は肺血管抵抗の増加から肺動脈圧の上昇が進行性に起こり、右心不全をもたらす予後不良な疾患である。四半世紀前は有効な治療法がなく、診断されてからの生存期間が中央値で3年未満と予後不良な疾患であった。2000年以降、肺動脈性肺高血圧症に関わる3大経路に着目した肺血管拡張薬が次々に開発され、肺高血圧症の生命予後は改善し予後不良という疾患概念は大きく変わりつつある。
 肺高血圧症は2008年にダナポイントで開催された国際会議にて5群に分類され、2013年にニースで開催された国際会議や2015年に欧州心臓病学会/欧州呼吸器学会(ESC/ERS)のガイドラインで一部改訂された(表1)。本章では2017年に日本循環器病学会/日本呼吸器学会を中心とする9学会合同により改訂されたわが国の改訂版ガイドラインを中心に解説し、2018年にニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提唱された内容も一部言及し概説する。第6回のワールドシンポジウムで提唱された内容はわが国および欧米のガイドラインにもまだ反映されていない最新の知見であるため、今後の動向に注意が必要である。(最終更新日:2020年3月)

診断

 肺高血圧症は多種の成因からなることが知られており、第5回WSPHで提案された肺高血圧の症臨床分類(ニース分類)に従って定義される(表1)。各臨床分類により治療戦略や生命予後が異なることから肺高血圧症では臨床分類まで的確に行う必要がある。

(1)肺高血圧症のスクリーニング
 肺高血圧症の診断アプローチは自覚症状、臨床所見、一般検査にて肺高血圧症を疑い、種々の検査により臨床分類を鑑別しながら、肺高血圧症を診断することが初期診断の流れである(図1)。肺高血圧症の自覚症状には、労作時呼吸困難、易疲労感、胸痛、失神、下腿浮腫、動悸などがあり、いずれも肺高血圧症に非特異的で見誤られることがある。呼吸困難は右心負荷や低酸素血症による症状と考えられており、頻度が最も高い自覚症状である。無症状の場合もあり、肺高血圧症を疑う場合や肺高血圧症を発症する危険因子を有する場合はスクリーニングを積極的に行う必要がある。肺高血圧症例の聴診ではII音肺動脈成分の亢進を認めることが多く、進行例ではIII音、右心不全を併発するとIV音を聴取する。三尖弁逆流による汎収縮期雑音、および肺動脈弁逆流による肺拡張灌流様雑音(Graham Steell雑音)も聴取される場合があり、吸気時に雑音が増強するRivero-Carvallo徴候は重要な所見である。胸部X線写真では両側肺動脈近位部の拡張が特徴であり、右肺動脈下行枝の20mm以上の拡大は肺高血圧症を疑う所見である。12誘導心電図では右軸偏位や右側胸部誘導のR波増高・ST-T変化に代表される右室肥大所見を認めることがある。肺高血圧症が疑われる場合、心エコー検査によるスクリーニング検査は必須である(表2、3)。三尖弁逆流速度が3.4m/sを超えることや右室による左室の圧排像は肺高血圧症の存在を強く疑う所見である。また、肺動脈弁血流速波形が二峰性を呈した場合、進行した肺高血圧症が疑われる。種々の検査で肺高血圧症が疑われる場合、確定診断のために右心カテーテル検査を行う。
 第6回WSPHでは、特に強皮症を基礎疾患とする結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症(PAH)において、早期発見の意義が強調された。強皮症患者における肺高血圧症のスクリーニング方法についてはさまざまな報告がなされているが、今後の課題である。

(2)肺高血圧症の確定診断
 肺高血圧症の診断は、右心カテーテル検査にて安静時の肺動脈平均圧が25mmHg以上、かつ肺血管抵抗が3Wood単位以上と定義されている。心エコー検査で肺動脈圧を推定することは可能であるが、肺高血圧症の確定診断は右心カテーテル検査によりなされる。
 第6回WSPHでは、肺高血圧症の定義が肺動脈平均圧21mmHg以上かつ肺血管抵抗3Wood単位より高いこと、と変更が提唱されている。現段階では、わが国および欧米のガイドラインに採用されていないが、今後、肺高血圧症の定義が変更されることが予想される。

(3)肺高血圧症の鑑別
a. 第1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)
 PAHの病理学的検討では500µm以下の肺動脈が狭窄・閉塞していることが確認されており、前毛細血管性肺高血圧症とも呼ばれる(図2)。右心カテーテル検査にて肺高血圧症の診断に加えて肺動脈楔入圧が15mmHg以下であることを確認する必要がある。PAHには基礎疾患が不明である特発性と基礎疾患を有する二次性がある。したがって、PAHでは自己抗体や特異抗原による結合組織病の鑑別、腹部エコー検査やCT検査による肝・胆道系疾患の鑑別、経食道心エコーを含めた心エコー検査による先天性短絡性心疾患の鑑別を行う必要がある。これらの疾患がすべて否定された場合に特発性PAHと診断される。また、PAHにbone morphogenetic protein receptor typeII(BMPR2)やactivin receptor-like kinase-1(ALK-1) などの遺伝子異常の関与が報告され、遺伝性PAHに分類される。
 近年、特発性PAHには、従来から認識されてきた若年女性に発症する典型的特発性PAHと肺疾患や心疾患を有する高齢者に発症する非典型的PAHが存在することが認識されている。第6回WSPHにおいて、このことについて直接的な言及はされていないが、今後、特発性PAHの診断や治療において重要な概念になると考えられる。

b. ‌ 第1’群:肺静脈性閉塞性疾患(PVOD)および/または肺毛細血管腫症(PCH)
 PVODの病変首座は肺静脈であり、肺静脈の内膜肥厚や線維化等による閉塞が認められる。PCHは肺胞壁の毛細管増生を病理組織学的特徴とするが、両疾患ともに肺内の静脈閉塞を生じ、肺静脈中枢側である肺動脈圧の持続的な上昇を来すことから臨床的には両者の鑑別は困難である。さらに、PAHの病態とも類似しており、臨床所見や肺血行動態から鑑別することは困難である。PVOD症例では、拡散能の著明な低下、胸部CT検査ですりガラス状陰影、小葉間隔壁の肥厚などが観察されるが、診断に難渋することが多く、確定診断は病理組織学的診断でのみ行われる。PVODはPAHと診断されていることがあり、正確な発症数は把握されていない。成人例では男性にやや多い傾向があり、喫煙者が多いことが特徴である。PVOD/PCHでは肺血管拡張薬の使用により肺水腫が惹起されることがあり、PVOD/PCHを疑う場合、肺血管拡張薬の使用は十分な検討が必要である。
 第6回WSPHにおいて、ニース分類の小改正が提唱された。第1’群と定義されていたPVODおよびPCHや第1’ ’群と定義されていた新生児遅延性肺高血圧症は第1群であるPAHに定義され、今まで言及されていなかったCa拮抗薬反応性のPAHも新たにPAHの1つとして定義された。

c. ‌ 第2群:左心系心疾患に伴う肺高血圧症(PH-LHD)
 PH-LHDは、左心系心疾患に起因する左房圧の上昇が肺動脈へ逆行性に伝播した結果、生じる肺高血圧症である(図2)。近年、心不全症例の増加とともにPH-LHD例も増加しており、PH-LHDは肺高血圧症の中で最も頻度が高い。病変首座がPAHと異なり、肺高血圧症の診断に加えて肺動脈楔入圧の上昇(>15mmHg)を確認することで診断される。一部の症例では肺動脈の機能性収縮や肺血管の器質的変化が加わって左房圧から予想されるよりも肺動脈圧は高値を示す(図2)。このような症例はcombined pre-capillary and post-capillary PHと呼ばれ、肺動脈拡張期圧−平均肺動脈楔入圧で示される拡張期肺血管圧較差が7mmHg以上で診断されている。PH-LHDは死亡や心不全と強く関連し、左心系心疾患の予後不良因子である。PH-LHDに対する肺血管拡張薬の有効性は示されておらず、左心系心疾患の治療が優先される。PH-LHDの病態や治療に関する報告は少なく、今後、エビデンスの構築が望まれる。
 第6回WSPHでは、肺動脈楔入圧の重要性がより強調された。肺動脈楔入圧は平均値を用いることが通例であったが、呼気終末かつ拡張末期の肺動脈楔入圧を肺動脈楔入圧として採用することが推奨された。また、肺動脈楔入圧が13~15mmHgの場合は容量負荷試験を行うことや、肺動脈楔入圧の正確な測定が困難である場合には左室拡張末期圧を測定することが提唱された。

d. ‌ 第3群:肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症(PH-CLD)
 PH-CLDは慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、睡眠時無呼吸症候群などの各種呼吸器疾患や低酸素血症に関連して発症する。PH-CLDに対して効果的な治療はなく、他の肺高血圧症と比較して予後不良である。肺疾患だけでは説明することができないPAH例が存在し、PH-CLDとの鑑別が困難なことがある。そのような症例では、呼吸機能検査やCT所見に注意し、PAHの存在の可能性を念頭に置く必要がある。PH-CLDにおいて肺動脈平均圧が35mmHg以上である症例は、重症肺高血圧群に分類される。特に、肺気腫と肺線維症が合併した肺気腫合併肺線維症において肺高血圧症を呈する場合、生命予後が不良であることが報告されている。

e. 第4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
 CTEPHは器質化血栓による肺動脈の狭窄・閉塞機転から肺血流分布ならびに肺循環動態の異常が3〜6カ月以上の抗凝固療法を行っても固定している病態である。肺動脈区域枝レベルまでの中枢側に病変が存在する中枢型CTEPHであれば造影CTにて診断することが可能であるが、末梢型CTEPHでは診断が難しく、肺シンチグラフィの換気・血流不均衡分布像や肺動脈造影などで鑑別する(図3、4)。末梢型CTEPHでは肺動脈造影で確認できないような病変も存在し、診断に苦慮する場合がある。そのような場合には、光干渉断層法や血管内視鏡などの血管内イメージングを用いることにより診断が可能である(図4)。
 第6回WSPHでは、肺動脈内に器質化血栓によって肺動脈平均圧21mmHg以上かつ肺血管抵抗3Wood単位より高い病態を慢性肺血栓症(CTED)と定義することが提唱された。CTEPHとCTEDの病態の違いについては、現在議論されているところである。現段階でCTEDに対する治療はわが国では認められないが、今後の動向について注目したい。

f. ‌ 第5群:詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
 慢性溶血性貧血や骨髄増殖性疾患といった血液疾患、サルコイドーシスといった全身性疾患、甲状腺疾患などの代謝性疾患、腫瘍塞栓などにより発症する肺高血圧症である。

管理・治療

(1)肺血管拡張薬
 肺高血圧症の治療は薬物療法、酸素吸入療法、外科手術(心内シャント閉鎖術、肺動脈内膜除去術)、移植(肺移植、心肺同時移植、肝移植)などが挙げられる。特に薬物療法は現在のPAH治療の主軸である。PAHの病態生理に関わる経路としてプロスタサイクリン‐サイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)、一酸化窒素(NO)‐サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)、エンドセリン経路が認識され、これらの経路に作用する薬剤が開発された(図5)。種々の肺血管拡張薬の開発によりPAHの自覚症状、運動耐容能、肺血行動態、生命予後は著しく改善している。肺血管拡張薬や酸素吸入療法の医療費は高額であり、難治性特定疾患の認定により中等症以上の症例は医療費助成制度の適応となる。

a. ‌ プロスタグランジン製剤/誘導体、プロスタグランジン受容体作動薬
[エポプロステノールナトリウム(フローランなど)〈持続静注〉、トレプロスチニル(トレプロスト)〈持続静注、持続皮下注〉、イロプロスト(ベンテイビス)〈吸入〉、ベラプロストナトリウム(ドルナーなど)〈経口〉、セレキシパグ(ウプトラビ)〈経口〉]
 プロスタグランジンは、血管内皮細胞由来の血管拡張作用を有する物質である。すべての肺血管拡張薬の中でエポプロステノール持続静注は最も強力、かつ有効であり生命予後の改善が確認されている。近年、トレプロスチニルの持続皮下注やイロプロスト吸入薬などの新しい投与経路の薬剤も開発されている。わが国で開発されたベラプロストは、エビデンスレベルが低いことからガイドラインでの推奨度は低い。近年、プロスタグランジン受容体作動薬であるセレキシパグがmortality/morbidityイベントを抑制したことが示されている。

b. エンドセリン受容体拮抗薬
[ボセンタン水和物(トラクリアなど)〈経口〉、アンブリセンタン(ヴォリブリス)〈経口〉、マシテンタン(オプスミット)〈経口〉]
 エンドセリンは血管内皮細胞由来の血管収縮作用を有する物質であり、エンドセリン受容体拮抗薬はエンドセリンの作用を抑制する。ボセンタンやアンブリセンタンにより肺循環動態が改善することが多数報告されており、エビデンスレベルの高い薬剤として認識されている。新しいエンドセリン受容体拮抗薬であるマシテンタンは、大規模臨床試験においてmortality/morbidityイベントを抑制し、ボセンタンやアンブリセンタンの副作用である肝機能障害や末梢性浮腫が少ないことが報告されている。

c. ホスホジエステラーゼ5阻害薬
[シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)〈経口〉、タダラフィル(アドシルカ)〈経口〉]
 ホスホジエステラーゼ5は平滑筋内で血管拡張作用をもつcGMPを分解する酵素であり、その分解を阻害するホスホジエステラーゼ5阻害薬により肺血管拡張作用を示す。エンドセリン受容体拮抗薬とともにエビデンスが豊富であり、軽度から中等度の肺高血圧症において中心的な役割を担っている。

d. 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
[リオシグアト(アデムパス)〈経口〉]
 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬は可溶性グアニル酸シクラーゼを刺激・活性化し、cGMPを増加させ、血管拡張作用を発揮する。可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬は肺高血圧症治療薬の中で唯一、第4群CTEPHの両方に保険承認された薬剤である。肺動脈圧だけでなく体血圧も低下することが報告されており、同経路の一酸化窒素経路のホスホジエステラーゼ5阻害薬と併用することはできない。

(2)治療戦略
 肺高血圧症の治療戦略はニース分類で分類された肺高血圧症ごとに異なる。肺血管拡張薬は第1群PAHと第4群CTEPHに対して保険承認されている。第3群PH-CLDでは、肺疾患のみでは説明することができないPAHを認める場合に使用することが可能であるが、肺血管拡張薬により換気・血流不均衡が顕性化することがあり、肺血管拡張薬の選択や使用には注意が必要である。特殊な病態や複合的な病態が存在する場合、専門施設に相談することが望ましい。

a. 第1群(PAH)の治療戦略
 近年、多くの肺血管拡張薬が開発され、多剤併用することにより肺血行動態を改善させることが可能になってきた。PAHにおいては病態や重症度に合わせて肺血管拡張薬の使用が推奨されている。多剤併用療法には、段階的に薬剤を上乗せする方法と治療初期から複数の薬剤をほぼ時間差なく用いる初期併用療法がある。近年、重症のPAH例に対して初期から多剤併用する治療の有効性が報告されており、重症のPAHでは初期併用療法が主流になってきている。初期併用療法における肺血管拡張薬の最善の組み合わせについては、今後の検討課題である。
 基礎疾患を有するPAHでは、基礎疾患の治療も必要であり特発性/遺伝性PAHとは治療戦略が異なる。全身性エリテマトーデスや混合性結合組織病に伴うPAHではステロイドや免疫抑制薬などの免疫抑制療法により肺血行動態が改善する症例が認められることがあり、結合組織病の活動性指標に従って免疫抑制療法の使用が優先される。免疫抑制療法により結合組織病の活動性が抑制されても肺高血圧症が存在する症例では肺血管拡張薬の使用を検討する。強皮症に伴う肺高血圧症ではステロイドや免疫抑制薬の効果が乏しいことが多く、肺血管拡張薬を初期から使用する。結合組織病に伴う肺高血圧症は第1’群や第3群を併発している場合があり、肺血管拡張薬の使用は慎重に行う必要がある。先天性短絡性心疾患に関連するPAH例において、短絡閉鎖が困難と判断された症例でも肺血管拡張薬が有効であることが報告されている。また、短絡閉鎖が困難と判断されたPAH症例の中に肺血管拡張薬を使用することにより肺血行動態が改善し、短絡閉鎖が可能になったことが報告されている。門脈肺高血圧症に伴う肺高血圧症の根本的治療は肝移植であり、肺血管拡張薬は移植までの橋渡し、移植成績の向上、生活の質の向上を目的として使用されることがある。
 わが国のPAH治療は、欧米と異なり肺動脈圧を重要視した戦略が重要視されてきた。第6回WSPHでは、PHの予後危険因子を参考にしたPAHの治療戦略が推奨された。2017年のわが国のガイドラインでは言及されていないが、今後、わが国からの情報が発信されることが期待されている。わが国では、JApan Pulmonary Hypertension Registry(JAPHR)レジストリー研究が進行中である。

b. 第1’群(PVOD/PCH)の治療戦略
 現時点で確立された内科的治療は存在せず、有効な治療法は肺移植しかない。肺血管拡張薬を使用した場合、肺動脈は拡張するが病変の首座である肺静脈や肺毛細血管は速やかに拡張しないため肺水腫が惹起されることがある。PVOD/PCHの可能性が否定できない場合は、治療経験の豊富な施設と連携しながら治療に当たることが重要である。

c. 第4群(CTEPH)の治療戦略
 中枢型CTEPHに対して最もエビデンスがある治療法は、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)である。中枢型CTEPHと診断した段階で、PEAの適応について検討すべきである。重篤な肺疾患や血液疾患などの合併により手術不適応例やPEA後に肺高血圧が残存・再発した例、末梢型CTEPHに対しては内科的治療が中心となるが、近年、わが国を中心にバルーン肺動脈拡張術(BPA)が施行され、有効性が示されている。BPAでは肺動脈穿孔、肺動脈解離、肺動脈破裂などの合併症が起こると胸腔内出血や気道出血につながり、対応が遅れれば、致死的となり得る。これらの合併症は手技の習熟とともに減少しており、ある程度の症例数を経験した専門医により施行されることが望ましい。薬物療法としては、抗凝固療法と肺血管拡張薬が挙げられ、抗凝固療法は血栓の再発予防目的に全例に対して永続的な抗凝固療法が推奨される。現在、CTEPHに対して保険承認されている肺血管拡張薬はリオシグアトだけであり、手術(PEA/BPA)待機症例や不適応症例、術後に肺高血圧症が残存する症例に対して使用されている。
 わが国では、CTEPHに対するセレキシパグとマシテンタンの臨床治験が進行中であり、その結果が期待される。

d. その他の群の肺高血圧症に対する治療
 第2、3、5群に対しては肺血管拡張薬が保険承認されていないため、それぞれの基礎疾患の治療が優先される。

経過・予後

 肺高血圧症は予後不良の疾患とされてきたが、治療法の進歩により予後が改善されている。特にPAHは、有効な肺血管拡張薬が存在しなかった1990年代では5年生存率が40%未満であったが、米国のREVEAL Registryでは5年生存率が65.4%、わが国のJapan PH Registryでは3年生存率が88%と著しい改善を認めている。しかしながら、重症の右心不全を伴う肺高血圧症、PVOD/PCH、PH-CLDなどの生命予後は依然として改善されていない。肺高血圧症の生命予後をさらに改善させるためには治療の進歩はもとより、治療が手遅れにならないように早期発見、早期かつ積極的な治療介入が重要である。

参考文献

日本循環器学会.循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011-2013年度合同研究班報告)慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント(2014年版).〈http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2014_ito_d.pdf〉
Humbert M, et al : Advances in Therapeutic Interventions for Patients With Pulmonary Arterial Hypertension. Circulation 130 : 2189, 2014.
Galiè N, et al : 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension : The Joint Task Force for the Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension of the European Society of Cardiology (ESC)and the European Respiratory Society (ERS),Endorsed by Association for European Paediatric and Congenital Cardiology(AEPC),International Society for Heart and Lung Transplantation(ISHLT).Eur Heart J 37 : 67, 2016.
Tahara N : Diagnosis : Imaging. Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension. p13, Springer, Singapore, 2017.
日本循環器学会.肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版).〈http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_fukuda_h.pdf〉(2019年8月閲覧)
日本循環器学会.肺動脈血栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版).〈http://www.j-cir.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf〉

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連載の紹介

外来診療クイックリファレンス
日常の外来でよく診る主要100疾患+αについて、各領域の専門医が最新の診療ガイドラインに基づき、診断や治療を分かりやすく解説します。ガイドラインの改訂や新薬登場などに応じて内容は定期的に更新します。

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