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【新薬】パビナフスプ アルファ(イズカーゴ)
世界初、点滴静注で血液脳関門を通過するムコ多糖症II型治療薬

2021/06/04
北村 正樹=医薬情報アドバイザー

 2021年5月19日、ムコ多糖症II型治療薬パビナフスプ アルファ(商品名イズカーゴ点滴静注用10mg)が薬価収載と同時に発売された。本薬は3月23日に製造販売が承認されていた。適応は「ムコ多糖症II型」、用法用量は「通常、週1回2.0mg/kgを点滴静注」となっている。

 ライソゾーム病の一種で、先天性の難治性疾患であるムコ多糖症は、体内のムコ多糖を分解するライソゾーム内にある酵素が欠損することにより、全身にムコ多糖の一種であるグリコサミノグリカン(GAG)が蓄積し、骨関節病変、皮膚・結合組織病変、中枢神経障害、臓器不全など全身性の多様な臨床所見を呈する。ムコ多糖症にはI型からVII型(V型は欠番)まであり、患者数は日本国内で数百人と推定されるが、中でもII型が最も多い。

 ムコ多糖症II型MPSII)は、GAGの分解経路に関与するライソゾームの中にあるイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)の遺伝的欠損または活性低下を来すX連鎖劣性遺伝疾患である。IDSの欠損または活性低下に伴い、全身の組織にヘパラン硫酸(HS)やデルマタン硫酸(DS)といったGAGが蓄積し、網膜変性、知能低下、滲出性中耳炎、難聴、閉塞性呼吸障害、拘束性肺疾患、心臓弁膜症、肝脾腫、関節拘縮、骨変形および巨舌などの臨床症状が現れる。臨床表現型は、知的障害を伴わないまたはその障害が軽度である軽症型(Attenuated type)と知的障害を伴う重症型(Severe type)に大別され、患者の約3分の2が重症型と推定されている。中枢神経系症状として、知能低下だけでなく、行動の異常や過活動、睡眠障害、痙攣発作などが生じ、これらの症状は重症型のみならず軽症型の患者でも見られ、患者の日常生活を大きく制限しQOLを低下させている。

 MPSIIの主な治療としては、骨髄移植や臍帯血移植による造血幹細胞移植と酵素補充療法(ERT)がある。中でもERTは造血幹細胞移植に比べて患者に対する侵襲性が低いため、導入が容易であり、かつ移植関連死亡などのリスクがなく比較的安全であることから、治療法の第一選択となっている。このERTとして、従来から遺伝子組換え技術を使ってヒト線維芽細胞に産生させたIDSであるイデュルスルファーゼ(エラプレース)が臨床使用されるようになったが、IDSが血液脳関門(BBB)を通過しないことから、中枢神経症状に対する有効性が認められなかった。そこで、2021年4月に植込み型脳脊髄液リザーバを介して脳室内投与が可能となったERT製剤イデュルスルファーゼ ベータ(ヒュンタラーゼ)が臨床使用されるようになった。

 パビナフスプ アルファは、ヒトトランスフェリン受容体1(hTfR)を特異的に認識するヒト化抗体とヒトIDS(hIDS)の遺伝子組換え融合蛋白質である。ヒト化抗hTfRとの融合により、IDSにBBB通過能を付与するという新技術(J-Brain Cargo)を用いることで、静注でも中枢神経系に到達する世界初のERT製剤である。

 MPSII患者(1〜26歳)を対象とした国内第2/3相臨床試験(JR-141-301)において本薬の有効性と安全性が検証された。海外では、2021年3月現在、承認されている国または地域はないものの、ブラジルにおいては承認申請中である。また、日本では2018年3月に先駆け審査指定制度の対象品目、2020年9月に希少疾病用医薬品の指定を受けている。

 副作用として、発熱(39.3%)、悪寒、蕁麻疹(各5%以上)などが認められており、重大な副作用としては重度のinfusion reactionが報告されているので十分注意する。

 なお、薬剤使用に際しては下記の事項について留意する。
・薬剤調製では、1バイアルを注射用水2.4mLで溶解し(5mg/mL)、生理食塩液で希釈して全量を100mLにすること
・infusion reaction発現の危険性あるので、初回投与は8mL/時を目安に投与を開始し、患者の忍容性が確認された場合は投与速度を速めてもよい。ただし、投与速度は33mL/時を超えないこと
・本剤の投与により重篤なアナフィラキシー、ショックが発現する可能性があるので、緊急時に十分な対応のできる準備をした上で投与を開始し、投与終了後も十分な観察を行うこと
・承認までの治験症例が限られていることから、有効性および安全性に関するデータ収集のため、全症例で使用成績調査を実施すること

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