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【新薬】ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(リンスパッド)
重症α1-アンチトリプシン欠乏症に初の補充療法用薬が登場

2021/03/19
北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)

 2021年1月22日、血漿分画製剤ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(商品名リンスパッド点滴静注用1000mg)の製造販売が承認された。適応は「重症α1-アンチトリプシン欠乏症」、用法用量は「添付の溶解液(20mL)に溶解し、成人、週1回60mg/kgを患者の様子を観察しながら点滴静注。点滴速度は約0.08mL/kg/分を超えないこと」となっている。

 α1-プロテイナーゼインヒビター(alpha1-PI)は、トリプシン、キモトリプシン、トロンビン、エラスターゼなどのセリンプロテイナーゼを阻害する、血液中の重要なセリンプロテイナーゼインヒビターである。α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、alpha1-PIであるα1-アンチトリプシン(AAT)の欠乏により、若年性に肺気腫を生じ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症する常染色体共優性の慢性遺伝性疾患(指定難病)である。AATは、主に肝細胞で生成される394個のアミノ酸残基からなる糖蛋白質で、好中球由来のセリンプロテイナーゼ(好中球エラスターゼ)に対する最も多くみられる循環組織インヒビターとして、セリンプロテイナーゼに対する身体の防御的遮蔽の重要な部分を構成している。AATDにおいては、肺基質破壊につながる好中球エラスターゼの無制限な活動をもたらし、肺気腫の型をとるCOPDや肝硬変など他の疾患の危険性を増加させる。AATD自体は世界でもまれな疾患であるが、アジア系人種では、さらにまれな疾患とされており、日本では1000万人当たり約2人とされている。

 AATD治療では、安定期に禁煙、インフルエンザワクチン接種、全身併存症の管理を行いつつ、重症度に応じて、呼吸リハビリテーション、薬物療法、酸素療法、補助換気療法、外科療法などが行われている。なお、重症例では肺移植も考慮される。海外ではalpha1-PI補充療法が行われており、高い有効性が報告されている。

 リンスパッドは、ATTDに適応を持つ国内初の薬剤で、点滴静脈内投与用のalpha1-PI製剤である。alpha1-PIの補充療法は、血清および気道上皮被覆液のalpha1-PI濃度を上昇・維持させることで、プロテイナーゼに対する防御力を増強し、プロテイナーゼ対インヒビターの不均衡を是正する。これにより、本薬は肺気腫の発生・進展を抑制し、COPDの病態の進行を遅延させると考えられている。

 重症AATD患者を対象とした国内1/2相非盲検試験(GTI1401 試験)、その後の平均144週にわたる国内1/2相非盲検長期継続試験(GTI1401-OLE 試験)、先天性AATD患者を対象とした海外第2相無作為化二重盲検比較試験(EXACTLE試験)において、本薬の有効性および安全性が検証された。

 海外においては、2020年9月現在、米国をはじめとする世界10カ国で承認されている。日本ではAATDが2015年5月に難病指定されており、本薬は2016年3月に希少疾病用医薬品に指定されている。

 副作用として、頭痛、腹部不快感、下痢、消化不良、乾癬、発疹、胸痛、疲労、注入に伴う反応、筋痙縮、筋骨格痛、転倒、血圧上昇、肺高血圧症、ほてり、起立性低血圧(各5%未満)が報告されている。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーを生じる可能性もある。

 薬剤使用に際しては、下記の事項について事前に把握しておく。
・COPDや気流閉塞を伴う肺気腫などの肺疾患を呈し、かつ、重症AATD(血清AAT濃度が50mg/dL未満[ネフェロメトリー法])と診断された患者に使用すること
・本薬は血液を原料として製剤化したものであるため、疾患の治療における本薬の必要性とともに、血液由来の感染症伝播などのリスクを完全に排除できないことを患者に対して説明し、理解を得ること
・本薬は特定生物由来製品に該当することから、投与または処方した場合は、医薬品名(販売名)、その製造番号(ロット番号)、投与または処方した年月日、患者の氏名・住所などを記録し、使用日から少なくとも20年間保存すること
・承認条件として、日本人患者での治験症例が限られていることから有効性および安全性に関するデータ収集のために、一定数の症例に関わるデータが集積されるまで、全症例で使用成績調査を実施すること

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