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【新薬】サクビトリルバルサルタン(エンレスト)
蛋白質分解酵素とRAA系を同時に阻害する新機序の慢性心不全治療薬

2020/08/28
北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)

 2020年8月26日、慢性心不全治療薬サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(商品名エンレスト錠50mg、同錠100mg、同錠200mg)が薬価収載と同時に発売された。本薬は6月29日に製造販売が承認されていた。適応は「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」、用法用量は「成人に1回50mgを開始用量として1日2回投与。忍容性が認められる場合は、2~4週間間隔で段階的に1回200mgまで増量。1回投与量は50mg、10mgまたは200mgとし、いずれの投与量においても1日2回投与。なお、忍容性に応じて適宜減量」となっている。

 心不全は「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義されている。心不全の多くは、適切な治療が行われない場合、慢性・進行性に移行し、急性増悪を反復することにより重症化して致死的な経過をたどることが報告されている。

 心不全の分類としてはいくつかの基準があるが、左室機能障害が病態に関与していることが多いため、診療ガイドラインでは左室収縮能による分類が多用されている。この分類では左室駆出率(LVEF)により、LVEFが低下した心不全(HFrEF)およびLVEFの保たれた心不全(HFpEF)を中心に分類されている。また、身体活動による自覚症状の程度により重症度を分類したニューヨーク心臓協会(NYHA;New York Heart Association)心機能分類が、心不全における重症度分類として広く用いられている。

 心不全の主な治療目標は、生命予後の改善、心不全入院の予防・抑制、病状コントロールおよびQOL改善などである。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の賦活化により、進行性の左室拡大と収縮性の低下、すなわちリモデリングが生じ、死亡や心不全の悪化などにつながると考えられていることから、治療薬として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などを中心にβ遮断薬、カリウム保持性利尿薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)などが推奨されている。しかし、これらの治療薬を使用しても心不全患者の死亡率や入院率は依然として高いことから、既存の治療薬とは異なった新しい作用機序をもつ治療薬の早期開発・承認が熱望されていた。

 エンレストは、「アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)」に分類される、新しい作用機序を有する薬剤である。体内でサクビトリルとバルサルタンに解離して、サクビトリルによるネプリライシン(NEP)阻害作用およびバルサルタンによるアンジオテンシIIタイプ1(AT1)受容体拮抗作用の2つの薬理作用を発揮する。ネプリライシンは蛋白質分解酵素の一種(ペプチダーゼ)で、ナトリウム利尿ペプチドやブラジキニンなどの生理活性ペプチドを分解する作用がある。サクビトリルは、エステラーゼによりNEP阻害の活性体であるsacubitrilatに速やかに変換される。NEPを阻害することで、血管拡張作用、利尿作用、RAA系抑制作用、交感神経抑制作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、およびアルドステロン分泌抑制作用を有するナトリウム利尿ペプチド(NP)の作用亢進に寄与すると考えられている。一方、バルサルタンのAT1受容体拮抗作用は、血管収縮、腎ナトリウム・体液貯留、心筋肥大、および心血管リモデリング異常に対する抑制作用をもたらす。サクビトリルバルサルタンは、NEP阻害とRAA系阻害の2つの作用によって神経体液性因子の異常を改善し、左室駆出率が低下した慢性心不全患者の予後を改善すると考えられている。

 ACE阻害薬またはARBを含む既治療下のHFrEF患者を対象とした海外第3相試験(PARADIGM-HF試験)および国内第3相試験(PARALLEL-HF試験)において、本薬の有効性と安全性が検証された。海外においては、2020年6月現在、米国をはじめとして世界100カ国以上で承認されている。

 副作用としては、浮動性めまい・起立性低血圧・咳嗽(各0.3%以上)などが認められている。重大な副作用としては、低血圧(10.4%)、高カリウム血症(4.7%)、腎機能障害(2.9%)、腎不全(0.8%)、血管浮腫、失神(各0.2%)、ショック、意識消失、間質性肺炎(各0.1%未満)が報告されており、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、低血糖、横紋筋融解症、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、天疱瘡、類天疱瘡、肝炎を生じる可能性があるので十分注意する。

 薬剤使用に際して、下記の事項に留意する。

・ACE阻害薬またはARBから切り替えて使用する。
・ACE阻害薬から切り替える場合、血管浮腫発現の可能性があるため、少なくとも本薬投与開始の36時間前に中止すること。さらに、本薬投与後にACE阻害薬を投与する場合は、本薬最終投与から36時間後までは投与しない。

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